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婚約者にいらないと言われた実はハイスペックなヲタク少年×押し付けられたぽっちゃりヲタク少女6

プールやランニングなどで少しずつ体脂肪は減り、私の体も順調に日々軽くなってきている。

日頃好き放題食べていたから菓子パンやビッグパフェが食べたい衝動が強くて、ダイエットはまた明日からになりそうだったが、暴君的なお兄ちゃんにコントロールされ踏みとどまれた。


あれから神守兄弟とは時々お兄ちゃんと私で一緒に遊んだりしている。

神守兄は小さい頃のように朔君が話しかけてくれるようになった! と喜んでいるようで、うちの弟可愛いという長文メッセージが毎日お兄ちゃんに届くようになったみたい。

私は弟の朔君とかなり仲良くなり、プールの日じゃない時も会うようになっていた。

今日も一緒に青い袋の店に行く予定になっていたので待ち合わせ場所にやって来たんだけど……


「あっ、まただ」

放課後。駅前で待ち合わせをしたので学校帰りに真っ直ぐ向かえば、もう朔君がいたんだけれども他校生達に囲まれていた。

兄もよく囲まれているので私にとっては別に珍しい光景ではない。そのため、いつものように電話やSNSアプリのメッセージで「来たよ!」と伝えることにしようと思いつく。


「スマホ、スマホ」

急ぎ肩から下げていた通学カバンからスマホを取り出せば、「三葉ちゃん」とハートマークでも飛んできそうな甘い声音と共に肩を叩かれてしまう。

声の主に覚えがあった私が警戒心なく振り返ると、サングラスをかけた青年が立っていた。

耳が隠れるくらいまで長いさらさらのプラチナゴールドの髪をしたイケメンで、ホストっぽい恰好がさらにチャラそうな雰囲気を漂わせている。


「瑠伊君! 久しぶりだねー」

彼はやんごとなき御曹司であり、お兄ちゃんのバンド仲間の瑠伊君。

男兄弟ばかりで妹欲しかったんだ~といつも私のことを可愛がってくれるんだけど、お兄ちゃんにとっては瑠伊君の甘やかしは度を超えているようで「三葉が駄目人間になるから限度を考えて甘やかせ」とよく言われている。


「ほんと久しぶり。三葉ちゃんがダイエット中って壱葉に聞いてたけど痩せたねー。ますます可愛くなったよ!」

そう言って瑠伊君は腕を伸ばして私の頭を撫でてくれた。


「ほんと!? 嬉しい」

体重計だけじゃなくて周りに言われると嬉しいし、モチベーションが上がる。


「せっかくだし、一緒にお茶でもしようよ。美味しそうなパンケーキ屋さんみつけたんだー。その後、三葉ちゃんの服も選びたいから買い物して夕食は三葉ちゃんの好きな焼肉に行こう。あっ、でも壱葉には内緒ね。いま、僕逃走中だから」

「瑠伊君、曲出来なかったんだね」

今日はお兄ちゃん達スタジオで練習で新しい曲をみんなで選ぶことになっているらしく、お兄ちゃんも数曲作っていた。

バンドの歌詞や曲はお兄ちゃんと瑠伊君がメインで作っているんだけど、瑠伊君はリアルに経験したことがないと作れないタイプ。

この間失恋した時に作ったバラードはリアルで共感できると大好評で代表曲の一つになっている。

ただ、瑠伊君は曲が出来ないと逃走する癖が……すぐお兄ちゃんに捕まるけど。


「ごめん、瑠伊君。今日は朔君と一緒なの」

「朔君?」

私は囲まれている朔君へと視線を向ける。


「どっかで見た事が……あー、もしかして神守弟? なんか雰囲気変わったじゃん」

「うん」

朔君は髪を切って爽やかになったし私のダイエットに付き合ってくれているので、筋肉もつきはじめ体のラインが変わり始めている。

三葉さんをおんぶできるように筋肉付けますね! ってすっごい笑顔で朔君に言われたけど、私はあまり怪我もしないタイプなので機会はないと思う。


「兄に似てイケメンじゃんー。壱葉に聞いていたけど、仲いいんだって? すっごく焼きもち焼いちゃうよ。僕とも遊んでー」

瑠伊君は腕を伸ばしてぎゅっと私のことを抱きしめた。

いつもこんな感じで、お兄ちゃん達にも「すっごい、暇―。僕と遊んでー。ねー」と構ってオーラ出して抱き付いたりしているので彼の癖なのかもしれない。

お兄ちゃんに「俺に抱き付くな。暑苦しい!!」ってブチキレられているのを何度か目撃したことがある。他のメンバーは、「遊んでやるから速攻離れろ」と慣れた扱いなのだけど、お兄ちゃんは魔王なので沸点が……


「今日は朔君がいるからまた今度」と口を開こうとした時だった。

「三葉さん!!」という声が場に広がったのは。


「え?」

弾かれたようにそちらへと顔を向ければ、表情を強張らせた朔君の姿があった。


「ど、どっ、どうして風賀さんが三葉さんと抱き合っているんですか!?」

「どうしてって、三葉ちゃんに構って……あ、そういうことかー」

瑠伊君は私から体を離すと、にこにこと朔君を見詰め始めてしまう。


「僕は安全圏だから心配しなくても大丈夫だよ。三葉ちゃんは大切な妹みたいな存在だから」

「お付き合いは……?」

「お付き合いはしてないかなー。今は」

「今はっ!?」

「三葉ちゃんには暴君が付いているし。でもほら、三葉ちゃんに彼氏がいるかは別じゃん。暴君の許可を得れば問題ないし」

「えっ!?」

目を大きく見開いた朔君と瞳がからみ合う。


「いるんですかっ!?」

私の両肩に朔君は手を添えると、真っ直ぐな瞳を向けてきた。

「いないよ」

「そうですか、良かった……三葉さん。実は大切な……僕にとっては重大なお話があるんです。聞いてくれますか?」

「うん」

「その……僕は……」

「――それより先は身を綺麗にしてからにして貰いたいね」

突然割って入った少し怒りを含んだ声音に、朔はびくりと肩を大きく動かす。

彼だけじゃなく、瑠伊君も同様の仕草をして短い悲鳴を上げた。


「お兄ちゃん!」

「俺の言っている意味わかるよな?」

「見つかっちゃった!」と逃げ出しそうになっている瑠伊君の腕をがっしりと掴みながら、お兄ちゃんは朔君を冴え冴えとした目で射抜いた。彼はそれを真っ直ぐ受け止めると頷く。


「はい。父には婚約破棄を伝えます」

「えっ!? まだ婚約中だったの!? 早く言った方がよくない? 捻挫したんだよ」

「……やっぱりまだ言ってなかったんだな。朔の両親は全て知っていてお前の口から話されるのを待っているぞ。初めて神守家に行った時に俺が宵に伝え、宵が両親に言ったから。でも、朔の両親は少し様子を見たいから見守ることにしたらしい。勿論、相手との接触はさせないように守っていたようだが」

「どうして?」

「朔が三葉や俺と一緒に遊んだりして変わってきていたから。もしかしたら、殻を破るかもしれないって思ったんだってさ」

「殻……」

それには心当たりがあった。おそらく、プールで朔君に聞いたことだろう。

今では最初の頃と兄弟間も距離感が消え、元々弟大好きだった神守兄は朔君との時間を大切にしていた。

「俺に来る縁談が邪魔で仕方ない。朔との時間が減る」とさらりとブラコン発言をするレベルで。


でも、逆に朔君に彼女が出来たらどうするんだろうか――?


「三葉は俺の妹だからちゃんとしないと認めないし許さない」

「ほら、言ったでしょ? 暴君だって。でも、根は優しい妹思いのお兄ちゃんだし、頼れるリーダーだからさ!」

瑠伊君、本人前に暴君発言は……と思ったが、案の定お兄ちゃんに睨まれて小刻みに戦慄いていた。


「はい。綺麗にしてからまたチャレンジすることにします。その時は壱葉さんにもご挨拶に伺いますね」

「ならいい」

お兄ちゃんは口角を上げて笑うと、ゆっくりと瑠伊君の方へと顔を向けた。

いつもと違って爽やかな笑みを浮かべているので、瑠伊君はそっと瞳をお兄ちゃんから逸らす。


「おい、瑠伊。こんな所で三葉達に構っているなら曲はもうとっくに出来ているんだろうな?」

優しい声音が怖い。


「それより壱葉はどうしてここに……?」

「新幹線のチケット取りに来たんだよ。忙しくて祖父母の所にお盆に会いに行けてなかったから時間作って行くからな。俺、その話お前にしたはずだが? だからレコーディングの日ずらせないからって」

「壱葉って見た目と違ってお年寄り孝行するよね」

「で? 曲は?」

「……まだ」

瑠伊君の言葉にぐっと眉間に皺を寄せたお兄ちゃんは深くため息を零す。


「お前、実体験じゃないとダメなタイプだもんな。仕方ない」

「そうなのー。僕、実体験派」

「なら、過去を思い出して曲作れ。お前、車か?」

「うん。駐車場に停めている」

「なら乗せていけ」

「あっ、ならアイス買って行こうよー」

「わかったわかった。じゃあ、朔、三葉。またな」

「バイバイー!」

お兄ちゃん達はそう言うと、片手を振ると足を踏み出す。

瑠伊君はお兄ちゃんに無理やり連れていかれているんだけど、なんか嬉しそうに見えた。


――朔君とお兄ちゃんの会話ってなんだったんだろう?


よくわからなかったので、私は忘却の彼方へと放り投げることにする。

今は新刊を取りに行く方が先だし。


「三葉さん。今度お話したいことがありますので、その時は聞いて貰えますか?」

「うん」

「良かった……」

ほっと安堵の息を漏らした朔君に私は笑いかけると、「じゃあ、さっそく行こうか?」と誘った。







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