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婚約者にいらないと言われた実はハイスペックなヲタク少年×押し付けられたぽっちゃりヲタク少女2

――一体、あのお嬢様はなんだったのだろうか?


「おい、大丈夫か?」

降り注ぐようにかけられたお兄ちゃんの言葉に私は頷く。

「うん。でもさ、あいつ一体なんなの……って、そっちかっ!!」

お兄ちゃんが屈み込み手を伸ばしたのは、まさかの少年の方だった。


「大丈夫です。僕より妹さんの方を……」

「あいつなら真っ先に購入した物のことを考えたくらいだから大丈夫だ」

「あ、やっぱりわかっちゃったんだね」

「手を伸ばしかけてたからな。そっちを心配してなかったらお前を優先するさ」

「お兄ちゃん、なんだかんだで私のことよく見てくれるよねー」

「バカな子ほどかわいいってやつだな」

「酷い!」

「それより今は少年の方だ。三葉が菓子パンで育てた体で衝撃を吸収されたとはいえ繊細そうだからな」

実際にお兄ちゃんの言う通りなのが現実で少年は細かった。

たぶん、ウェストは私のはん……いや、考えたくない。

首を左右に振って私は立ち上がるとビニール袋の汚れを払い、手で隙間を広げて中身を確認すれば、割れてはいなそうでほっと安堵の息を漏らす。


「……大丈夫じゃないようだな」

「平気平気。CDヒビ入ってないみたいだから」

と、言いながら視線をお兄ちゃんの方へと向ければ、傍で少年が立ち上がりかけていたんだけど、右足を庇っているような体勢をしている。

お兄ちゃんが言っていたのは少年の方だったらしく彼は大丈夫じゃなかったようだ。


「えっ、どうしよう!」

「まだ瑠伊るいがその辺にいるかもしれないから電話して迎えに来て貰うか」

「瑠伊君いるの? ってことは、バンド練習?」

「いや、撮影。着替えるの面倒だからこのままで帰るつもりだったんだ」

お兄ちゃんは屈み込んで少年の足首に触れた。


「す、すみません。うちの車を呼びますので……」

「そうか? なら、三十メートルくらい先にコンビニがあるからそこで休むと良い。ここじゃあ、座れない」

「あー、ベンチあるもんね。その方が良いよ」

と言ったら、なぜかお兄ちゃんがじっと私の方を見つめている。


「何?」

「俺、今履いている靴が厚めで足場不安定だからちょっと無理なんだよ。おんぶがさ」

「私がおんぶするの!? それってちょっと体重的にむずか……あー、できそう。いや、出来るね!」

逆なら無理そうだが、私がおんぶするには可能だと自他共に容易く判断可能。


――おやつの菓子パンと夕食後のお菓子封印しよう。


私にも女子としてのプライドが残っていたらしく心に強く決意すると、息を吐き出してしゃがんだ。


「いいよ、乗って」

「でも……」

困惑気味な声が届いたけど、無理もないって思う。


「大丈夫だよ。三十メートルくらいだし。気にしないで」

「あぁ、気にすんな。うちの妹はそれなりに力持ちだから。年に二回戦利品だって言って大量に両手に袋を抱えて帰ってくる時もあるし。痛いんだろ? 足」

「すみません……」

少年の言葉と共に背にずしりとした重みを感じる。

人間って結構重いんだなと思ったが、少年でこれくらいなら私は一体という嫌な台詞が頭に過ぎってしまう。

重いけど持てないわけではない。なので、声優ライブやグッズの資金確保のため交通費を浮かせる名目でひたすら歩く事で鍛えた脚力により頑丈なコンクリートを踏みしめていった。


「ちゃんと病院行けよ。ヒビとか入っているかもしれないし」

「ヒビっ!? マジで!?」

「かもしれないって話だ。なんでお前が不安がるんだよ」

「いや、だって相手婚約者なんでしょ? あっちは不要って言ったって父親が決めたって言ってなかった? さすがにこのまま婚約続けるのはやばいじゃん。またこうなるかもしれないし。怖くない?」

「断ればいいだろ。梨里なしざと家より神守かみもり家の方が家柄が上なんだからさ」

「神守?」

「そう。お前がおぶっている少年は神守家の御曹司」

神守家って何している家なのかとかさっぱりだけど、お兄ちゃんの言っていることが正しけれればあのお嬢様よりも少年の方が立場的に有利ということはわかった。


「……なぜ、僕のことを?」

「二・三回風賀ふうが家のパーティーで見かけたことがある」

「風賀って瑠伊君の家かー。そう言えば瑠伊君も御曹司だったね」

瑠伊君は風賀グループの御曹司でお兄ちゃんのバンド仲間だ。

お兄ちゃんのバンド仲間は個性豊かすぎてどこで知り合ったの? というくらいにジャンルがバラバラ。

でも、みんな優しくて大好き。


「神守家の跡取り――お前の兄さん・よいとは同じ大学でちょっとした顔見知りだから覚えていたんだよ」

「兄さんと大学の知り合いですか……?」

「あっ、見えないでしょ? お兄ちゃん、実はすっげぇ頭良いの」

「顔も性格も良いだろ」

「うわー。ナルシスト」

「今度からテスト勉強見てやらないからな」

「うっ……それは困る」

「仲良いんですね」

「お前の所は悪いのか?」

「いえ、悪くはありませんが和気あいあいともしていません。お互いどう接して良いのかわからないというのが近いんだと思います。以前は仲が良かったのですが、僕が手を離してしまったというか……兄とだけではなく、僕は人との距離感が苦手なんです……だから、父が心配して婚約者を……父が僕を思って選んでくれたので断りにくくて……」

お父さん、すごく駄目な方向に強烈な人選ミスしてますよ! とつい口を滑らしそうになった。

さすがにあの婚約者は辞退したい。


「父が無理ならせめて兄には伝えた方が良いんじゃないか?」

「挨拶くらいで会話が……完璧な兄に憧れていたんですが、大人になるにつれて僕が辛くなって距離を置いてしまったんです。理想になかなか追いつけなくて……そこから、探り探りの関係になってしまいました」

「お前の兄さん、完璧じゃないぞ? 結構抜けている。だって、俺を女だと思って告白してきたから」

「「えっ!?」」

それには私と少年の声が綺麗に重なった。


「結構大学構内でも目立つんだけど、気づかなかったようだ」

お兄ちゃんは普段はスッピンで普通の恰好で大学に行くけど、雑誌の取材終わってから時間がなくてそのままメイクや服装で講義に出ることもあったりする。

なので、お兄ちゃんの存在感に気づかないってある意味すごい。

大学で怒られないのかな? って思ったけど、特に何か言われたことはないようだ。

成績上位に入るし、授業も真面目に受けているからかも。








私とお兄ちゃんは少年をコンビニ前に無事に連れて行き、彼を迎えに来た車を見送り家に帰る途中。

あの後、是非お礼をと言われたけど、私達はたいしたことをしてなかったので固辞してお別れをしたのでで彼と会うことはないかも。ただ、なんとか婚約者の件を解決してくれればなぁって思う。


「ねぇ。あの少年さ、婚約者にされたことを両親に言うかな?」

隣を歩いているお兄ちゃんへと声をかければ、お兄ちゃんは難しい顔をした。


「言わないだろうな。いや、言えないの方か。大学で兄の方に会ったらそれとなく伝えておくさ」

「うん、それがいいと思う」

「それより、お前ダイエットするのか?」

「よくわかったね」

つい一時間ほど前に現実つきつけられたので、菓子パンとおやつを暫く封印することにした。

馬にニンジンをぶら下げるように、自分にご褒美としてちょっと高めのグッズを買うことにして。


「夜は走るなよ。危ないからな」

「大丈夫だってー」

「朝にしろ。俺がいるから一緒に走ってやる」

お兄ちゃんの言葉に私は目を大きく見開いてしまう。だって、まさか付き合ってくれるなんて思いもしなかったからだ。


「お兄ちゃん、実はシスコンなの?」

「どっかの誰かさんが自分に甘々すぎて明日からとか言い始めて菓子喰い始めそうだから。お前、テスト勉強中に5分だけ漫画読んで休憩! って言って、結局一時間以上休憩してたりするし」

「うっ……」

「お前、彼氏は飴と鞭を使いこなせるような奴にしろ」

「えー。それってお兄ちゃんみたいな人じゃん。瑠伊君みたいななんでも甘やかせてくれる人がいい」

「瑠伊はだめだ。いつも甘やかしまくってお前を堕落の道に連れて行くからな。ダイエット中に三葉ちゃん焼肉好きだよねーって言いながら焼肉に連れて行くタイプだろ、あいつ。しかも、高カロリーなデザートまで進めそうだ」

確かにその通りなので反論が出来ない。


「体重計買ってやるよ」

「うちにもあるじゃん」

「アニメのボイス付き出ているらしいかな」

そう言ってお兄ちゃんは鞄からスマホを取り出すと操作して私に差し出す。


「これ欲しかったやつ! しかも予約限定」

「三葉の好きな声優が出ているからモチベあがってやる気出るだろ」

「あがりそうー。本当に買ってくれるの!?」

「あぁ」

「お兄ちゃん、大好き!」

飛びつくように隣のお兄ちゃんの腕にしがみ付けば、「良い年してくっつくな」という嫌味が聞こえて来たけど、その表情はどこか嬉しそうだった。




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