己の想い 3
嫌がらせのケーキを箱ごとゴミ箱に捨てて、紅茶を飲みなおそうとしたが、離したはずのアルディスが己の背から離れないのに気付く。
押し付けられた背に、僅かにアルディスの胸が当たって、思っていたよりも意外にあるかと、つい思ってしまった。
(──まぁ、俺も男だから……)
己の背に押し付けられた身体は柔らかくて、思わず『女』を意識してしまいそうになる。
(いかん、こいつは友人だ、一時の気まぐれで遊んでいい女じゃない)
久しぶりに感じる『女』に己の身体が勝手に反応しそうになるのを、意思の力で抑え込んで、ゆっくり振り返る。
「アルディス、少し離れて……」
「──嫌だ」
「……背中に張り付かれていては動きが取れん」
しぶしぶといった感じでアルディスが己の背から漸く離れ、内心ほっとする。
「驚かせてすまなかったな」
いつものように頭に手を置いて撫でてやり、あの辛いケーキのせいとはいえいきなり倒れたりして醜態を見せたことを謝る。
「びっくりして心臓が止まるかと思った……」
ふいに呟かれるような小さな声が聞こえて、アルディスの瞳から一筋涙が零れていたのが目に入り、心臓を掴まれたかと思って息が止まる。
今まで見たことのない顔で、涙を零すアルディスは綺麗だった。
姉のディアナを紅い薔薇とすれば、妹のアルディスはまだ蕾の、開きかけた白い薔薇だろう。
同じ銀の髪と紅い瞳なのに、イメージは正反対だ。
まだまだ子供だと、固い蕾なのだと思い込んでいたそれが、違ったのだと己に知らしめるような、少女の涙。
頬に流れた涙を拭ってやろうと右手がその白い肌に触れて、その柔らかさも己が思っていたよりずっと柔らかくて──。
思わず己の唇で拭ってやりたいと、思ってしまった。
そして、無意識の内に己の胸の中にアルディスを抱き締めて、その銀の髪に顔を埋め、背を、髪を、優しく撫でていた。
愛しい、という気持ち、同僚とも友人とも違う気持ちが己の胸に湧き上がって来た。