己の想い
贈り主不明の届け物はどうやら菓子らしかった。
ピンクの包装にカード、添えられた黄色の小さなバラが一輪、こんなものをもらう覚えはない。
しかし、茶と一緒に食したら少しは落ち着くだろうと箱から視線をアルディスにと向ける。
後で話そうと言ったその場所で、俺を見つめたまま立っているアルディスに、己はどういう顔をすればいいのか、まだ迷うものの、いつもと変わらぬ顔をと笑いかけてみる。
「どうやら菓子らしい、一緒に茶でもどうだ?」
騎士の仕事といっても、市内の見回りだとか鍛錬だとか、平時には大して急ぎのものもない。
いつものように笑えていただろうかとは思うものの、あまり器用ではない己は自信はなく。
「……お前の部屋で、なら」
アルディスの返事があって、ちょっとほっとする。
こんな誰が通るかも知れない廊下でする話でも、食堂でする話でもない──と思う故に。
「ああ、茶を入れてくるから先に行っててくれるか?」
箱をアルディスに渡そうと軽く振ってみる。
箱を受け取ってくれたアルディスに背を向けると茶器と湯を借りに己は食堂へと向かう。
紅茶の葉はいいのが入ったからと、ほんのりオレンジの香のついたものを勧められた。
湯をポットに注ぐと、仄かにオレンジの香りが香茶の香と共に立ち上り、広がって行く。
これは、部屋で湯を入れた方がよかっただろうか。
ポットにカップを二つ、盆に乗せて己の部屋に向かう。
己の部屋に、なのに緊張が足の歩みを遅らせる。
己は答えを出さねばならないような気がして、これ以上遅らせることはアルディスの為にもならないと感じる。
しかし、その肝心の答えが己には出せていない。
「困ったな……」
溜息が出てしまう、どうすれば、どう答えたらいいのか。
そうこうしてる間に、同じ建物の中、さほどの距離もなく己の部屋についてしまう。
もう一度息を吐いて決すると扉を開ける。
部屋の中ほどにあるテーブルと椅子に向かい、茶器の乗った盆を置く。
椅子にはアルディスが座っていて、俺を見上げている。
「とりあえず、飲め」
ポットから紅茶をカップに注ぎ、仄かなオレンジの香りが部屋に広がる。
アルディスの前にカップを一つ置いてやり、己も椅子に座る。
菓子の箱を引き寄せて包装を解き、箱を開けると中には可愛らしくデコレーションされたケーキが入っていた。
「へぇ……ケーキか」
切り分けるのにナイフがいるな、と思うが食堂に戻ると茶が冷える。
己の腰の短刀を使うことにして、適当な大きさに切り分ける。
「フォークがないから手づかみですまんな」
切り分けたケーキをひとつ掴んで己の口へと運ぶ。