アルディス 2
触れて重なるだけの口付け、それは意外にも己の同僚で年下の友人と思っていたアルディスから、贈られた。
感触を感じる間もなく、体温が伝わる間もなく、離れた唇。
明らかに慣れてないと思わせるその口付けに対して、己はいったいどう返していいのだろうか。
「アルディス?」
戸惑ったような声で名前を口にする。
まるで己の声ではないような、その感情の篭ってないような声。
「──恋人であれば口にするものなんだろう?」
「いや、それはそうだが……」
何故、と心に浮かぶ。
今まで一緒に居ても意識するような素振りはまるでなかった。
何故己なのか、からかっているのかとも一瞬思ったものの、慣れてないアルディスがキスまでしてからかうということもないだろうと、その思考を横に置く。
「アルディス、正直に言うと、お前をそういう対象で見たことがなかった。だから──今は……」
「なら、今日からは俺も対象に含めて考えてくれ」
即答、された。
考えろ、と。
息を吐いて、目の前のアルディスをよく見てみる。
長い銀の髪、紅い瞳、整った顔立ち、マントや騎士服に隠れてはいるが、そこそこ女らしい身体付きがあるのは知っている。
ディアナほどではないが、言葉使いを除けばイイ女候補ではある。
告白されて断る不義理もない、だろう。
いや、だが──恋人を勘違いしている節もあるかも知れない。
己の目から見て、恋をしているとは思えないから。
「分かった、なら──本当に俺でいいのか試させてくれ」
右手を上げてアルディスの頬に触れる。
左手の人差し指と親指でアルディスの顎を上向かせる。
己の背を屈めると顔を近づけ──。
「目、閉じてろ」
唇を重ねて、舌先でアルディスの下唇をなぞるように触れる。
ぴくんと肩が跳ねる様子が見て取れるが、己も目を閉じて、角度を変えて舌先を薄く開いた唇の間にと滑り込ませる。
「……っ……」
小さく吐息が漏れる音が耳に聞こえるが、頬と顎とを己の手で固定させたまま、アルディスの口腔をゆっくり舌でなぞるように巡らせる。
まだ舌には触れない、上顎を舌先で擽るようになぞり奥の方から歯列まで往復し、横へと滑らせる。
軽く触れるようにアルディスの舌の上をなぞって、細い銀の糸を連ならせて唇を離す。
「──これが恋人同士のキスだ、アルディス。
本当に、俺とこんなキスをしたい……のか?」
両手共をアルディスから離して顔を覗き込むようにして問いかける。
目を閉じたままのアルディスからはまだ返事はない。