ディアナ 3
食事が終って、食後のコーヒーでも飲むかと店員を呼ぶのに手を上げると、近くのテーブルのヤツラがやな目付きで己を見ていた。
まぁ、理由は分かる。
綺麗な女騎士とお近づきになりたい、もしくはあわよくば恋人に──とか思ってたんだろう。
だが、俺が片思いの背中を押してやったのを耳にしたヤツラがチャンスをふいにされたと思ってるんだろうが、あいにく赤の他人に友人の姉を紹介だとか、橋渡しなんか誰がするものか。
残念だったな。
「ねぇ、アズールここは私に奢らせて?」
周りのヤツラに注意を払っていると、そんな声が隣からした。
「いや、いいよ」
「だって……」
いかにも瞳がお礼をしたいとキラキラしているような感じがしている。
「……じゃあ、首尾よく言ったら酒でも奢ってくれよ」
「ええ」
嬉しそうに微笑む顔が眩しい、ほんのり白い頬に紅がかかって、ちょっと騎士長が羨ましくなってきた。
「俺も恋人が欲しーぜ、ったく……」
溜息と共に口にすると、くすくすと笑う声がして、隣を見ると髪を揺らして肩を震わせているのが見え、こんな美人でなくてもいいから、己にも恋人をと神に祈りそうになる。
「私の妹なんかはどうかしら」
「……はい?」
ディアナに妹が他にもいただろうかと記憶を巡る。
「……アルディスの他にも妹が?」
いた、だろうかと聞いてみる。
「いいえ? 私に妹はあの子だけよ」
にっこり笑って口にするディアナ。
「ちょっと待て、俺とアルディスか? 無い無い、在り得ねぇだろそりゃ!」
「あら、アルディスでは不満?」
「いや、だから……俺とあいつはそんな気持ちまったくねぇって。
たとえ俺がそんな気持ちを抱いたところで、あいつにゃねぇよ。
それに俺とあいつじゃ年が離れすぎてるだろ」
確か、10近くか、それ以上じゃなかっただろうか、と思い出す。
「だって、たまに会うとあの子あなたの話ばかりするんですもの」
「……そりゃ初耳だ」
何の話をされていたのかと思えば、がっくりと己のしてきた所業を振り返りかけた。
多分、ろくな話はされてないだろうと思えて。
注文したコーヒーが届いて、一息に飲むと、その日のコーヒーはやたら苦く感じた。