ディアナ 2
すっかり冷めた己の昼食、ビーフシチューはすっかり冷めて薄っすらと脂が表面に浮かんでいたが、温かい内より味は落ちるが、それでも美味いと思わせる味だった。
ディアナは頬に薄っすらと赤が残るものの、サンドイッチを食べていて、よくもまぁ、今までこんな乙女みたいなままでいられたもんだとアズールは内心感心する。
「なぁ、お前さ……いつまでも今のままじゃ取られちまうぞ?」
いい加減、他の女に取られる前に動けとばかりに煽ろうと試みる。
「……何を?」
何を、かがまったく伝わっていないのは己の言葉足らずが原因なだけではないだろう。
言葉足らずの己、言葉通りに受け取るディアナ、仕方ないなと頭を掻くように右手が上がる。
「騎士長の事だよ、お前が動かねぇと他の女に取られちまうかもしんねぇぞ」
「えっ? ……騎士長が本当に好きな人がいるなら……私は……」
寂しげな笑みで、騎士長の意思を尊重するとばかりに言う。
「だからっ、そうなる前に言っちまぇよって」
まだ、騎士長のそんな噂はない、特定の恋人も作ってない、なら今だろ、と己にしては分かりやすく言ったつもりだった。
「だって……私なんかが言ったって……きっと迷惑よ……」
「なんかって、何だよ。お前自分の事知らなすぎじゃねぇの?」
思わず声を荒げてしまう己、内心、ディアナは自分にどれだけの奴があわよくばと狙ってるのを知らなすぎると、思わず溜息が出る。
「ディアナ、お前はイイ女だ。綺麗で優しくて、色っぽい、もっと自信を持て。
誰かに取られてから泣くよりも、当たって砕けてから泣く方が諦めもつくだろ?」
いつだって、行動が正確で早い、有能なこの騎士が、こと恋愛に関してはこうも奥手で乙女のようなのに、らしくないと背を押してやる。
「お前の気持ちははっきりしてんだろ、なら言ってみろよ」
騎士長の気持ちは知らないが、決して悪いものではないはずで、可能性としてはイイ線いくのではないかと己は思っていて、思いを告げてみるべきだと告げる。
近くのテーブルからぼそりと余計な事をとか言っている声が耳に届くが、無視して続ける。
「大丈夫、お前ほどのイイ女が好きだなんて言ったらどんな堅物だろうとメロメロさ」
冗談に本音を混ぜて、にっと笑いかける。
「……そうね、ありがと」
返された言葉に、本当に伝える自信がなかったのかと感じると、安心させるように頭をぽんぽんと撫でるように叩く。