赤いドレス
アルディスとディアナの為の服を見に行くことになってしまった。
アルディスを避けていたのだが、これは話が別だ。
ディアナがよくこの店の前で足を止めることがあるという店へとまずは向かうことにする。
「確かこの店だ。
ここの店の前で中の服を眺めていたのを見た事が数回ある」
「おいおい……こりゃあ……俺には敷居が高すぎる!」
思わず足が引けてしまい、逃げ出しそうになる。
「……俺にも敷居は高いな……この店は」
婚礼用の服がどーんと正面に飾られて、白とレースと何か見てると目がチラチラするような気がする。
「流石にこれはカンベンしてくれ……」
漸く、振り絞るように言うとアルディスが同意とばかりに頷くのが見えた。
「……アズール、中にパーティ用のドレスなんかもあるようだが……」
どうする、という顔で己を振り仰ぐアルディス。
毒を喰らわば皿までよ、とばかりに頷くと一歩店の中へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
上品な声の店員が出て来て、己とアルディスを見てびっくりしたような顔をしている。
「騎士様方がこの店に何用でございましょうか。
婚礼用のご用命とは思えませぬが……?」
お前らには結婚なんて縁がないだろうとばかりに、さらりと失礼な事を言われる。
「いや、ドレスを──ちょっとしたディナーに相応しいものを見せて欲しいだけだ」
店員の言葉に傷ついている間に、アルディスが店員と話をしていた。
「身長はこのくらいで、サイズは──こんな感じ」
ディアナのサイズ、という所で知らないなとばかりに手で曲線のカーブを示してみる。
「騎士様、ドレスは身体にピッタリしたものが多いのでそんなんじゃ分かりません」
「サイズは確か……」
アルディスが店員に耳打ちする、どうやら己には聞かせてくれないらしい。
「分かりました、ではそのサイズで何着かお出ししますので──」
「よろしく頼む」
主にアルディスと店員とが数十分悩みに悩んで、決まったドレスを見せてもらう。
真珠のような光沢のある、胸元が大きくVの字に開いて身体にぴったりとしたデザインで、膝辺りでドレープを作って広がった赤で、瞳の色にとても映えるものでディアナが着ているのを想像してしまい、アルディスに腕を抓られた。
「痛ぇな、おい」
「……いやらしい顔してたからだ」
「…………すまん」
「ショールを用意して、ここに花をつけますので、お待ち下さいね」
どうやら予算ギリギリの値段だったらしく、ほっと胸を撫で下ろす己は、店の中で所在なげに椅子に座っていて、ふとアルディスもこんなドレスに興味があるのかと聞いてみることにした。
「アルディス、お前が着るとしたらどれだ?」
「……特に、はないな……お前が選んでくれるなら別だが」
これは──早く返事をしろとせかされているのだろうか。
「俺に女の服はよくわからん……」
せめて、ディアナと騎士長がなんとかなるまでは待ってくれと思いつつ、視線を逸らしてしまった。