騎士長とディアナ
約束の日の朝、今日の昼は騎士長とディアナが一緒に昼食をというのを己に譲ってもらい、ディアナとの約を夜にしてもらうのと、ディアナの想いを騎士長にそれとなく伝えて意識させるのがひとつ。
アルディスに答えを告げるのがひとつ。
「なんだよ……ったく今日は忙しいじゃねぇか……」
己は本来そんな働き者ではなかったはずだ。
あくびをひとつしながらベッドから起き上がり、騎士服を纏う。
ボサボサの髪を手串で押さえ、ドアから廊下に出て行く。
さて、昼までに一度騎士長を訊ねておかねばと考えながら歩いていると、廊下の先に歩いているアルディスが見えて、その目立つ銀色の髪にどきりとした。
それは昨日の事があったからだろうと思うものの、ある意味意識してしまったのは確かなようで、このまま会うのはまだ早いと足を止める。
「とりあえずはディアナの方をなんとかしねぇとな……」
こういう回りくどいのは、己らしくないなと溜息をひとつ、つく。
腹もなんだか空いてないと、食堂に向かうのをやめて騎士長にまず会いに行くかと兵舎を後にする。
「考え込むのはもうやめだ、やめ。 はっきり言って、それで通じればよし」
皆が朝食を取っている時間であるというのに、己は騎士長の執務室の前に立っていた。
思い立って来たはいいものの、騎士長が居なかったらどうするんだ。
「騎士長、ちょっとよろしいですか」
とりあえずは声をかけてドアをノックしてみる。
───返事はない。
「やっぱ早すぎたか……」
かといって、兵舎に戻るのも──としばし迷う。
腕を組んで、ドアの前で立っている姿は間抜けに見えるだろうなと苦笑を浮かべる。
「私に何か用かい?」
声がかけられて、騎士長が来たのに気づく。
騎士の簡易な礼を向けながら、さっき無人の部屋にかけたと同じような言葉を口にする。
「おはようございます、騎士長──ちょっとお話が、よろしいですか?」
「かまわないよ、しかし、珍しいね」
金色というにはくすんだ感のある、髪が目の前を過ぎてドアを開けて中に入って行く。
中に、と促されるままに執務室の中に入る。
「確かに、改まってあんたに用があるってぇのは珍しいかもな」
己の顔に苦笑が浮かぶ、丁寧な言葉使いも、かしこまった礼も、己らしくない。
「実は──」
「まぁ、待ってくれ。急ぎでないのなら茶を用意しよう」
騎士長自らが茶を入れて、己の前に置かれる──何と言うか、居心地が悪い。
騎士長が飲むのを見つつ、己も茶を口にする。
「ん……意外に美味い……」
「そうだろう、この所補佐のディアナが美味しい茶を入れてくれるのに私も影響を受けてね、淹れ方を少し変えてみたんだ。
まぁ、彼女の淹れてくれる茶にはまだまだ叶わないのだがね」
楽しげに笑みを浮かべてカップから立ち上る香気を吸い込む様子に、やはりあと一押しでいい線いくのではないかと思わされた。