ディアナの恋
己の迷いも、アルディスの想いも、まるで何もなかったように、陽は落ちて一日が過ぎようとしていた。
一日の猶予が出来てアルディスを部屋に返してから、時間はそろそろかと食堂へと向かおうとドアに手をかける。
「アズール! アズール居るのでしょ?」
大きな音を立ててドアが開き、そのドアは己に思い切りぶつかった。
「──っ! 痛ぇよ」
ドアの前でしゃがみ込んで、顔を押さえる。
「あら、アズール、どうしてそんな所に座っているの?」
ドアを開けた当の本人が己にのんきに声をかける。
「……ディアナか……」
食堂で話した時よりも、ご機嫌な様子のディアナが笑顔で己を見下ろしていた。
「ねぇ、アズール聞いてよ」
このご機嫌な様子、さては──と。
「騎士長とうまくいったか?」
予想した答えを口にすると、ディアナの顔が赤く染まった。
「ええ、今度お昼をご一緒することになったの!」
「──はい?」
「思い切ってお誘いしてよかったわ、騎士長と一緒にお昼を食べられるなんてね」
「一つ、聞いていいか? それは昼飯だけ、なのか?」
返事は、ディアナの満面の笑顔で頷かれて、あれだけ告白を煽ったのに、その結果がこれかとがっくりと肩を落としてしまう。
「──ったく、せめて夕食にしろよ。 いい雰囲気の店でいい酒と食い物と、店を出たら二人で少しのんびり散歩するくらいのプランを立てろよ」
そのくらいやって、いいムードになったらキスのひとつくらいはノリでいけるだろうと思うのだが、ムリな注文だったのだろうか。
騎士長も騎士長だ、こんなイイ女から誘われて、なぜ昼飯にするんだろう。
はぁ、と思い切り溜息をついてしまう。
己であれば、そんなまどろっこしい事はしない。
夕飯を誘って、酒を飲ませて夜の公園なんかを歩いて、キスで酔わせてから送り狼に……考えるだけは考える。
実際に実行したことはないが、己に考え付くプランを、なぜ騎士長もディアナも思いつかないのだろうか。
「でも、初めてお昼をご一緒するのよ? 私、それだけでも嬉しくって胸が一杯よ」
「おいおい、いい年して何言ってんだぁ?」
思わず、姉妹逆だったらよかったんじゃあ……と思ってしまう。
あげく、ディアナの好きな騎士長は堅物だ。
誘い方を間違えたらただの昼飯になるってのが今回分かった。
仕方ない、己が一肌脱ぐか……と考える。
「昼飯はいつだ、明日か?」
「ええ、明日の予定だけど?」
「それ、俺に譲れ」
「えー、嫌よ、せっかく……約束したのに」
「昼飯を夕食で約束しなおしてやる、店の予約でもして待ってろ、いや……店の予約もしといてやる」
騎士長との昼食を譲ってもらい、明日己が騎士長と話をすることに決めた。