気付いた理由 3
「……ほんと、に……? 俺を可愛いって……?」
紅い瞳がびっくりしたように開かれて己を見つめる。
そういえば、己はアルディスにそんな言葉をかけたことは一度もなかった。
いつも、少年めいたこの騎士は凛としていて、可愛い、なんて言葉は似あわないように思えた。
今、己の身体の上に跨っているアルディスは、頬を赤らめて、年相応の少女のような顔をしていて、可愛いと己はその言葉を口にしていた。
「ああ……可愛いよ、アルディス」
気のせいか、己の声は少し擦れていて、指先がアルディスの項を擽るように触れてなぞっていた。
「じゃあ……俺のものになってよ……アズール……」
本気か、と問いかけそうになった。
己の理性と、意識をしっかりと持って、頷きそうになるのを押さえる。
「……一晩、考えさせてくれ」
それだけ言うのが精一杯だった。
だが、一晩あればアルディスの頭も冷えて、この告白が思い過ごしの恋だと気付くだろう。
そして、己は先ほど浮かび上がった感情に、名前を付けることもせずに心の奥底に沈めるのだ。
己はこの姉妹の、兄という存在でいい──。
今日己に触れた柔らかな唇も、潤んだ紅い瞳も、小さくて華奢な肢体も、甘い吐息も、明日になれば忘れる、それが兄としての己の役目だろう。
姉のディアナにも、妹のアルディスにも、己は幸せになって欲しいのだ。