気付いた理由 2
思い過ごしの恋──と呼ぶのがいいのかどうかは分からない、が己はアルディスの己への想いをそう判断した。
きっといつか、他にもっといい男が現れて、そいつと恋をして、笑顔をもっと見せるようになるんだろうと──そう思った。
それは、ほんの少し苦味を帯びた感情ではあったが、己よりも似合いの男が、未来のアルディスの横に並んでいるのだろう。
その背を守り、愛していく──それは己ではない、と。
今は、己しか側に居ないから、勘違いをしているだけなのだと。
「なぁ、アルディス……」
お前の気持ちはただの刷り込みで、恋じゃないと口に出して言えればどれほど楽だろうか。
だが、口に出してしまうには、軽く冗談めかして言ってしまうのには遅すぎた。
己は確かめる為に『恋人のキス』をしたし、己が倒れて苦しむのを見てアルディスは涙を零した。
それを、ただの刷り込みだと、気の迷いだと口にするのは憚られた。
何を思ったのか、アルディスが己にしがみ付いて、己を床に引き倒し、その上にのしかかってくる。
「アズール、俺じゃダメなのか?」
真上に見えるアルディスの顔から涙の雫が己の頬に落ちて来た。
「俺……可愛くないし、姉さんみたいに綺麗でもない、けど、けどっ、アズールが好きだ」
いや、お前は可愛いよと口に出そうとして、その唇が塞がれた。
「……んっ……」
おずおずと触れる唇の僅かな振るえ、柔らかい小さな唇の感触、割れ目から入り込む舌が己の舌を探して口腔を彷徨う。
慣れてない、その覚えたばかりのつたない口付けを受けて、己の心が歓喜する。
己の舌で、アルディスの舌を捕らえて先の方から奥へとゆっくりなぞり上げると、くぐもった声が吐息と唾液と共に下になっている己の口の中へと流れ込んで来るのを飲み込む。
「……あ……んっ……んぅ……」
舌を絡めた取ったまま、唇を少し離すとアルディスの甘い声が漏れて、その声の艶やかさに『女』であることを意識してしまう。
銀の糸を連ならせて口付けを解くと、頬を赤らめるアルディスの顔を見つめる。
「……はぁ……」
右手を伸ばして、アルディスの頬に触れ、指先が耳朶を擽りながら首筋を巡って項へと向かう。
「んっ……」
項に指先が触れると、声が上がって肩を竦める、それを見ながら己の唇が笑みを作り、無意識の内にもう片方の手はアルディスの背にと向かい、抱き寄せていた。
「……アルディス、お前は可愛いよ……」