気付いた理由
己の事を心配して涙を流す、その気持ちが嬉しくて、抱き締める。
腕の中のアルディスは、腕の中にすっぽりと包まれて、その華奢とも思える身体に、やはり男のような口調をしていても『女』なのだな、と実感する。
アルディスが騎士となり、自分と出会い、年下の同僚として、友人として過ごして来た二年、女扱いをしたことはなかった。
姉のディアナと違って『女』を感じない騎士だと、少年じみた少女騎士──そう思っていた。
「──ったく、俺のどこがよかったんだか……」
本人がその気になれば、ディアナほどとは言わなくても、相手はいくらでもいたろうに、と思う。
「……待てよ、昨日気付いた──って言ってたよな?」
気付いたばかりであれば、気のせいや思い込みである可能性も拭えない。
うっかりと手を出して、アルディスを傷つけ、ディアナに恨まれるはめにはなりたくない。
「昨日、何で気付いた?」
昨日は特に変わったこともなかった、何をきっかけにしたのか、それが思い違いでないのかを確認しようと口を開く。
「昨日、アズールが他の女と仲良く話してて、それで──だと思う」
──誰にも渡したくないと思ったから──アルディスはそう言っていた。
「ちょっと待て、俺が、女と仲良く?」
──女と仲良くしてた? そんな覚えはない。
記憶をどれだけ巡っても、思い当たる記憶はない。
漸くひとつ、まさかと思う事があった。
「……まさか、とは思うがアイゼンヴァイスの嬢……いや、姫さんの事か?」
「……アズール楽しそうだった」
あれを楽しそうだったと言われて、がくりと肩が落ちて、アルディスを抱き締めていた腕も力が抜ける。
やっぱり気の迷いなんじゃないだろうか、と思って、アルディスを己からゆっくり引き剥がす。
「……お前、あれだろう。 友達を新しい奴に取られかけて、それが自分とよりも仲良く見えてもやもやするってあれだ」
『恋』ではなく、一種の独占欲とか、そういった感情を恋だと勘違いしたんじゃないのか、と己は考える。
いや、待てよ。己とキスしたい『恋人のキス』をとも言っていたが……、行き過ぎた友情なのか、本物の恋なのか、判断がつきにくい。
うっかり本気にしてしまうところだったと、思いとどまった己を褒めてやりたい。