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吸血鬼のミュージックコントローラー  作者: 朱田 秀隆
吸血鬼のコインランドリーブルース
5/13

5.突き詰めればみんな変です

もう、玲子さんをどうしたものやら。

とりあえず、本日完結です。

 ロックンロールという言葉は性行為を意味する言葉に源流をもつ。

 ロックによって身を滅ぼす例は少ないが、性欲によって身を持ち崩す例は枚挙にいとまがない。 女の又に宿る心はすべてを打ち滅ぼす力を持っている。


「野郎、捕まえたら玉を抉り出して口にくわえさせて、ごめんなさいって言わせた後噛み砕かせてやる。棒の方は切り取ってケツの穴に突っ込んでひーひーいわせてやるわ!」


 もう多分、テレビでは絶対放送できないような内容をぶつぶつとつぶやく玲子の隣で、まどかはお祈りしていた。

 七十年もアンチキリストの顕現である吸血鬼をやってきたが、この頭に血の上ったパンツ泥棒の被害者が、殺人やらの加害者になるのを止められそうもない。


(助けて神様!)


 深夜二時の商店街を駆け抜けて、少し大きな道に出たコンパクトカーは、交差点を見切り発車 ――しかも後輪を少しドリフトさせるような高速で右折。

 ぐりぐりとハンドルを切る玲子は、凶相を浮かべたまままどかに話しかけてくる。


「私がどうしてこんなに怒ってるかわかる?ブラジャーひとついくらするか、まどかちゃんにもわかるわよね?」

「五千円くらいですか」

「おこちゃまじゃあそんなもんか」


(いえ、私のは一枚九百八十円です)

 とは本当に言い出せない迫力で玲子はアクセルを踏んでいる。

 もう、さっきの下着泥棒の男性が見つからないことを祈るしかない。

 ないのだが。


「あ、いた」


 間の悪いことに声が漏れてしまった。


「あぁぁぁいぃぃぃつぅぅぅかぁぁぁ!」


 まどかは横目で玲子がサイドブレーキをひくのをみて、反射的に助手席側にある取っ手というか手すりというのか。

 とにかく、ドアの上に設けられたつかまるためのそれをギュッとつかみ身構える。


 それと同時にコンパクトカーはアスファルトにタイヤを切りつけながら二百七十度ターン。


(死ぬ、もう死ぬ!)


 歩道に乗り上げて下着泥棒の進路をふさいだ。そんなに住宅の多い地域ではないが、それでもこの大音響は近所迷惑のはずで、まどかの心の中にある絶望という名前の建物はすごい勢いで屋上屋を重ねていく。


「ちょっとあんた! 人のパンツ盗んでどうするつもり!?」

「玲子さん、声が大きいです!」


 あんまり大きな声でパンツパンツと言わない方が絶対いいはずなのに、玲子は大音声で呼ばわった。

 顔が整っているとかおっぱいが大きいとか、そういった美点を全部帳消しにして余りある玲子の行動を止められるものはまどかしかいない。

 けど、最初っから無理そうだった。


「どうせ匂いをかいだりなめたり頭にかぶったり、そのしょぼいち○こにかぶせて自慰的なことでもするんでしょ! とにかく変態的なあれこれをするに決まってる!」

「玲子さん、恥ずかしい事を大きな声で言わないで!」


 下着泥棒に人差し指を突き付けて、のしのしと歩み寄ろうとする玲子の腕をつかんで精一杯引きながら、それでもまどかは見逃さなかった。

 下着泥棒が後ろ手からナイフを取り出すのを。


「あの」

「なによ!」

「危ないです!」


 無造作に突き出されたナイフが届く前に、まどかはその腕を強くひいて玲子を引き倒す。

 空を切ったナイフは、だがまだその殺意を失っていない。


「ぼ、ぼくは変態じゃない!」


(いえ、どう考えても変態です)

 まどかは玲子を後ろにかばいながら、低い姿勢で身構えた。

 玲子の場合は未遂どころか計画のみだが、相対する下着泥棒は窃盗犯から殺人未遂犯に進級し、まどかの前に立っている。


「お兄さん、ナイフなんかしまってください」

「嫌だ! こんな事になってつかまったら、人生おしまいだ! お前らも道連れにしてやる!」

「意味がわかりませんけども!」


 錯乱した人間二人に挟まれて、まどかは心に誓う。

(洗濯物はもう溜めないようにしよう)

 だが、そんな事はどうでもいい。

 気のふれた下着泥棒をどうにかしないと、朝までに家に帰れそうもない。 そうなったら本当の意味で死んでしまう。

 その現実をしっかり認識すると、まどかは男を制圧することに決める。


「っ!」

 短く気合を入れて男の懐に踏み込み、顎に向かって掌打。脳を揺らして叩き伏せてしまうつもりだったが、反撃を予想していなかったのか、腰の引けた男がのけぞるように倒れて不発。

 引き戻した手の勢いを使って重心を移動。 手の届く間合いから大きく外れた男の胸に、身体をひねりながら前蹴り。

 跳ねたスカートがふわりと翻える。


「まどかちゃん、なんでパンツ履いてないの!?」

「あ、忘れてた!」


 玲子の言葉を聞いて、倒込んだ身体の向きを変えて、スカートの中を覗こうとする辺り、下着泥棒は本物の変態だと再確認。

 ありったけの嫌悪感を込め、まどかはその鳩尾を全体重をのせて踏んだ。

ノーパン健康法とかおしっこを飲む健康法とか、健康になるのに下半身を駆使する流行が一時ありましたよね。

いまは骨盤ですか……。

胡散臭いような気もします。

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