4.怒った人には手がつけられません
自分でもなにを書いているのかと思うような内容ではありますが、まぁいいんです。
女の又に心と書くとそこに感情が出来上がる。
多くの男性は女性の又やそれを覆う又布を見ることに執心するが、そこにある心は必ず誰かを傷つけるのだ。
コインランドリーに入ってきたのは女性だった。
身長はまどかから見て少し見上げるくらい。 多分、百七十に少し足りないくらい。
豊満っていう言葉がふさわしい豊かな胸を見ると、自分ではそれなりだと思っているおっぱいが急に貧相な気がしてくる不思議にまどかの頭は少しくらくらする。
その女性は先ほどの男性とは打って変わって乱暴にドアを開け、店内の観葉植物はぐらぐらと揺れた。
まぁ、しかし他人事だ。
虫の居所が悪いときくらい誰にでもある。 我関せずを決め込んで、乾燥機でほかほかに乾いた洗濯物をごみ袋に詰め込もうとすると、その手元に急に影が落ちた。
「ちょっとあんた」
明確に低い声音を作った女性の声。
見上げると、冷えた格闘家のような眼をした先ほどの女性と目があう。
「な、なんでしょう?」
明らかに関わり合いになりたくない雰囲気をまとった女性は、しゃがみこんでごみ袋に洗濯物を詰めようとしていたまどかの手を握って立ち上がらせ、先ほどまでセクシーランジェリーが回されていた洗濯機を指さす。
「あそこにあった洗濯物、とったでしょう!?」
「はぇ?」
戸惑うまどかに対して、女は次々と言葉を投げる。
「いい、女の子といえども、他人のパンツをとるのは犯罪なのよ! だいたいそんな小さいおっぱいを収めるのに私のサイズのブラジャーなんて必要ないでしょう! お子様はスポーツブラでもしときなさいよ! それともなに? あんたもブラジャーを頭にかぶったり、パンツの又布をべろべろなめたりする変態さんなの? 毎週毎週高いパンツばっかり選んだみたいにとっていくからどんな変態なのかと思ってたのに、なかなか見られる顔の美少女じゃない。 そんだけ整った顔なら、油っぽい親父を駅前で捕まえるなり、変態に股を開くなりすればいくらでも買ってもらえるでしょうよ! 大体ね……」
「待って、待ってください!」
黙って聞いていたら、だんだん聞き捨てならないセリフを並べるようになってきたので、必死にさえぎる。
「とにかく、警察に連れて行くから、覚悟しなさいよ!」
「いえ、だから」
ずるずる引きずられるように店の外に連れ出されてしまった。
家を出た時には少し強めに降っていた雨が少し弱くなって、夏の空気に暖められた湿気はじっとりと髪に肌にからみつく。
それ以上にまずい状況にからめ捕られているのをまどかは実感した。
「私はパンツとってません! そもそもお姉さんさっき自分で言ってたじゃないですか。 私にはサイズが合わないって」
「じゃあ、誰が盗ったっていうのよ!」
「さっき、お姉さんと入れ替わりに出て行った男の人が……」
っていい終わらせてもらえない内に、まどかはお姉さんが乗ってきたコンパクトカーの助手席に放り込まれた。 車はあちこちへこんでいて、荒っぽい運転がしのばれる。
(おろして!)
と思った時には、お姉さんは運転席に収まっていた。
キーを回してエンジン始動。
「あんた……名前は?」
「まどか。 神城まどかです」
「まどかちゃんね。 私は下条玲子よ、アマルティアっていう美容院で美容師やってる。 んで、そいつの顔とか覚えてるのね?」
「い、一応は」
「そいつはどっち行ったの?」
「あ、あっちの方……」
言い切るより前にアクセルをいっぱいまで踏まれたコンパクトカーは悲鳴みたいなスキール音を響かせて、急発進という言葉では生ぬるいくらいの勢いで走り出した。
「お、おろして!」
「だぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇ! 持ってった変態野郎をとっつかまえて、パンツを取り返すのよ!」
「あの、そういう人に盗られた下着って、着けられます? あきらめてはどうですか?」
「そうね。 そんな気持ち悪い下着、着けたくないわね。 じゃあ、とっ捕まえてそいつのパンツを全部むしりとってやるわ!」
「え~」
完全に眼の据わった玲子が雄たけびを上げるのを傍らで聞きながら、まどかは死を覚悟した。
不老不死とか関係ない。
社会的な意味で死ぬことは吸血鬼でも免れないのだから。
クリスマスイブにこんなの書いてたんだなあ……と思うと、感無量です。
リアルが充実しないかなあ。しないなあ。