三回ぐらいで終わる
僕はテニスをしている。現在進行形。
I'm playing tennis。
うむ、あっているはずだ。
……いや、違うか。テニスじゃないのか?やわらかいほうだ。
薄汚れた白い球が、目の前ではねた。球は空気が抜けていたのか、思っていたよりははねずに、僕の足元におちる。太ったウサギみたいだなと、僕は思った。
僕はラケットでボールを軽くひろった。ボールはよれたネットを越え、相手のコートに入る。ようし、次はどうかえそうか、と僕は考えた。
しかし次はこなかった。
オレンジ色の影が揺れて、ボールは僕の反応できないぐらいのスピードで脇をぬけていった。とられた、と思った時には遅かった。
「40-0だよ」
ナイキのテニスウェアに身をつつんだ女がこういった。テニスラケットを突きつけてさえもくる。表情は誇らしげだ。
彼女がこんなに強いのはわけがあるはずだ。
「お前やっぱりテニス部だろ」
「違うよ。帰宅部だよ」にひひと笑った。
「さあラスイチラスイチ」
しかし、僕はボールを拾いに行こうとはしなかった。どうも腑に落ちなかったからだ。そんな僕を見かねてか、彼女は急かす。
「はやく!」
「もうよくね」
「は」
「もう俺の負けで良いよ。負けるに決まってるじゃん。金も払うよ」
彼女は黙った。僕はポケットの中に手を突っ込み、まさぐりながら彼女に近づく。ネット越しに手を突き出し、たなごころを開く。手のひらには五百円玉一枚がのっていた。
僕たちは賭けテニスをしていた。勝てば儲かり、負ければ損する。しかも五百円。中学生の僕らにとってはそれなりだ。それに、僕はテニス部だし、彼女は帰宅部だといった。そうならば、僕が負けるはずがない。
けれども、結果はコテンパン。テニス部でも強いほうだった僕のプライドは、へし折られた。むかつくぜ。
僕は名も知らない彼女に対し、イライラしていた。
「ふざけんな」
そう怒鳴ったのは彼女だった。