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新たな人生の幕開け(3)


 部屋唯一の窓から、暖かい日の光が差し込む。外からは鳥のさえずりが聞こえてる。そして、何故か室内では呻き声がこだまする。


「うっ・・・うう~・・・苦し、い」

 何かに体を締め付けられているようだ。

 蓮は堪えきれなくて、重たい瞼を開ける。すると、すぐ目の前にはアルフレッドの寝顔があった。お互い吐息がかかるほど接近している。

 蓮の苦痛の原因は、アルフレッドが彼女を抱き枕のように抱いて寝ているからだった。結構な力でぎゅうっと抱きついているため、彼を起こさないとおそらく抜け出せない。

「アルフレッド、起きて」

 声をかけられたアルフレッドは綺麗に整った顔を可愛く顰めた。

「ん~?・・・やだ」

 普段では想像もつかない甘え声でごねる彼を蓮は半目で見た。

「ヤダじゃない。起きろ、苦しい」

 蓮は軽くアルフレッドのデコに頭突きをした。

「いっ!?・・・?」

 どうやら覚醒した様子のアルフレッドは、目ん玉を落としそうになるほど目を見開いたまま固まる。

「おはよう。起きたいんだけど、離してくれない?」

 シレっと言う蓮に対し、自分の腕の中に彼女がいることをやっと理解したアルフレッドは、ビックリしてベッドから跳ね起きた。

「なっ!?うわっ!!?」

 裏返った声で驚くアルフレッドを見て、蓮は吹き出した。

「笑うなっ」

 顔を赤面させ、目を釣り上げて言うアルフレッドに、蓮は人差し指を突き立てた。

「言っておくけど、アンタが抱きついて来たんだからね?私は何もしてない」

「ありえん。俺がそんなことするはずがない」

 堂々と否定するアルフレッドを見る蓮の顔が白けた。

「何を根拠に否定してんの」

 ぐっと押し黙ったアルフレッドを無視し、蓮は話題を変えた。彼女はベッドの上に正座し、背筋をピンと伸ばす。

「聞きたいことが山ほどあるんだけど、いい?」

 蓮が訊ねたい内容を大方予想しているアルフレッドは、自身も姿勢を正して頷いた。

「ねえ、アルフレッド。私はまだ何も知らない。化物の正体、私が狙われる理由、ロトスの乙女について、そして何故アナタが地球にやって来たのか・・・私には知る権利があるでしょう?」

 蓮は真剣な眼差しでアルフレッドを見据えた。

「確かに、お前には知る権利がある。そうだな、まずはお前を襲った化物についてだが、俺たちは奴らのことを『イーター』と呼んでいる。イーターは人を喰らい、喰らった人間の容姿や知能をそのまま自分のものにしてしまう。とても厄介な生物だ。そして、この世界では近年イーター達が大量発生し人間を襲っている。奴らを殲滅するには、根源である親玉を倒さなければならない。しかし、俺たちの力では親玉を倒すことはできないとされている」

 蓮は彼の言うことに疑問を持った。

「倒すことができない?何でそんなこと分かるの」

「古文書にそう記されていたんだ。何千年も昔、現在と同じようにイーター達が大量発生した。イーター達の親玉に通常攻撃は一切通じず、唯一、ロトスの乙女の力だけがそれを倒せたんだそうだ」

 ピクリと蓮は片眉を上げる。

「何それ、じゃあアルフレッドは最初から私をこちらに連れて来て戦わせるつもりだったの?」

 蓮の的確な質問に、アルフレッドは少し答え辛そうに言葉を詰まらせる。

「・・・そうだ」

「へえ・・・」

 何処か仕組まれていたようにも感じるこの状況に、もっと怒ったり、非難したり、悲しがってもいいんじゃないか?と思ったりはしたが、蓮の心境は彼女自身もビックリするほど静寂に満ちていた。まるで自分のことでないような、第三者である気さえしてきた。そうやって、冷静に自己分析をしていた蓮の脳内に、ふとある疑問が浮かぶ。

「・・・それって矛盾してない?倒せるのはロトスの乙女だけ。でも、そのロトスの乙女が食われた場合、敵に強大な力を与えてしまうんでしょう?」

「ああ」

 淡々と答えるアルフレッドの表情は、何処か申し訳なさそうな、憐れんでいるような、いろいろな感情が混じっていた。

「簡単に言ったら、負けたらアウト・・・。私に負けは許されないってワケ、か」

 正直、仇討ちさえ果たせれば死んでもいいと思っていたのだが、そうもいかない事態になっている。この世界の未来が自分にのしかかっているなんて、今にも死にたくなる。

 蓮は、己の悲惨すぎる今後を想像し、気が狂いそうだった。


「ところで、何で私がロトスの乙女だって分かったわけ?」

「かつてのロトスの乙女も異世界の住人だったらしい。ロトスの乙女には体の何処かにロトスの模様をした痣があると記されていた。そしてレン、お前の首筋にはその痣があった」

 蓮はそっと、自分の首筋に触れる。

「痣・・・そんなのがあるってだけで私が本当にロトスの乙女だとは限らないんじゃ・・・」

「痣だけではな。だが、お前がイーター達に襲われたのが何よりの証拠だ」

「あー・・・そうか」

 アルフレッドのもっともな意見に、蓮は素直に納得した。

「まあ、色々分かったけど、結局私はこれから何をすればいいの?とりあえず親玉倒しに行けばいい?」

 蓮の至って真面目な意見に、アルフレッドは何故かきょとんと可愛い顔をしたかと思うと、口元を手で隠してクツクツと笑い出す。

「・・・いきなりだな。頼もしい限りだが、親玉の居場所はまだ掴めていない。戦いはもう少し先だ。その前に、レンには会ってもらいたい人物がいる。これからそいつの所へ一緒に来てもらうが、いいか?」

 アルフレッドの言葉に、蓮は肩をすくめて溜息をつく。

「いいも何も、私はこの世界のことはチンプンカンプンなんだから、アンタについてくしかないじゃない」

「それもそうだ」

 アルフレッドはニヤリと口角を上げる。

「よし、じゃあさっさと行こう」

 そう言って、ベッドから立ち上がった蓮は鬼切をしっかり握り、腰に差した。





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