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新たな人生の幕開け(1)


 蓮は、見晴らしのよい草原をずっと歩いていた。ずっと、ずっと、ずっと・・・歩き続けた。

「・・・ねえ、いつまで歩けばいいの?」

 いい加減、歩き疲れた。この異世界へやってきて、かれこれ二、三時間は経ったであろう。あれから休むこと無く、ひたすらアルフレッドの後ろを歩いているのだが、一向に建物らしきものが見えてこない。それどころか、人っ子一人見当たらない。蓮はだんだん不安になってきた。

「後一時間ほどで村に着く」

「一時間・・・」

 蓮は大きな溜息をついた。

「何であんたは疲れてないの?こんなに歩いてさ」

 アルフレッドは振り向き、不思議な顔をした。

「?何を言っている。こんなの日常茶飯事だ」

「え、まさか移動手段って徒歩しか無いの?」

「徒歩と、馬や馬車もあるが?訳の分からんことを聞く奴だな、お前」

 蓮はつい頭を抱えてしまった。

 ―何だ、この近代から大きく引き離された感じの世界は・・・これじゃまるで、まんま大昔のヨーロッパだ。あんな魔法陣だしたり出来るのに、日常生活が肉体労働的・・・魔法を使えるなら、ぴゅんって遠くまで移動できそうだけど、そういう訳にはいかないのか?まあ、アルフレッドがそうしないってことは、出来ないんだろう。

 蓮は諦めて、さらに一時間歩き続けた。



 一時間後、アルフレッドの言うとおり、村が見えてきた。村に入り、歩いていると気になることがあった。

「ねえ、何かみんな私たちのこと見てない?怪しまれてるのかな・・・」

「そうか?お前の髪の色が珍しいだけだろ」

 アルフレッドがあっさりと言った言葉に、蓮は驚いた。

「えっ?この髪の色、珍しいの?ただの黒色だよ?」

「ただのって、この世界では黒色の髪は存在しない」

「そうなのっ!?」

 ―黒髪が存在しない・・・確かに、村の人たちを見てみると、みんな茶色や金色、赤、青、緑・・・ピンク!?何か、私からしたら皆さんの方がアニメに出てきそうでかなり珍しいんだけど・・・。

 歩きながら、物珍しく村人を観察していると、蓮はあることに気付く。

 ―んん?確かに、私の見てくれが珍しいから見てるってのもあるけど、明らかに女性の視線は私には向いていない。彼女らの目にはアルフレッドしか写していないように思えるのだが・・・。

 蓮は前を歩くアルフレッドの手前に小走りで回り込み、じいいっと彼の顔を凝視した。

「・・・何だ?」

 少し顔を顰めたアルフレッドが蓮に問うた。

「いや、アルフレッド。君はかなり美形なんだね。よく見ると、確かに。気付かなかった」

「なんだ急に・・・」

 唐突な蓮の意見に、アルフレッドは少し呆けた。

「この痛い視線は私だけでなく、君のせいでもあると言ってるの」

「そうなのか?」

 こいつ、何も気付いてなかったのかっ!あんなにも女性たちが火傷しそうなほど熱烈な視線を送り続けているといのにっ!?・・・こいつは鏡で自分の顔を見たことがないのか?

 異性にモテたことが無い蓮は、少々イラっとした。

「ふんっ!モテるやつは鈍感ってのは、異世界でも同じなんだね」

 アルフレッドは突然蓮が不機嫌になった理由が理解できなかった。

「訳が分からん」

 そう言って、アルフレッドは蓮を押しのけて、スタスタ歩いていった。

「ちょっ!置いてくなっ」

 蓮は急いでアルフレッドの後を追う。


 もう外は薄暗くなり、二人は宿に入った。アルフレッドは受付カウンターに向い、蓮はキョロキョロと建物の中を伺っている。

 ―やっぱり、外も中も雰囲気はヨーロッパって感じだな。何となく知ってはいても、私はヨーロッパに行ったことがないから、結局似ていても、ここにいることに対して違和感しか感じない。

 物思いに更けっている蓮のもとに、アルフレッドが戻ってきた。彼は何やら浮かない顔をしている。

「どうしたの?何か良くないことでもあった?」

 言いにくそうに、アルフレッドが小さな声でボソリと言う。

「悪い。一部屋しか空いてなかった」

「それがどうしたの?部屋取れてよかったじゃない」

 少しポカンとした顔で、アルフレッドは蓮を見た。蓮はというと・・・。

 ―お?その不抜けた顔かわいいな。などと思っていたことを彼は知らない。

「いいのか?二人で一部屋なんだぞ?」

 どこか慌てたようにアルフレッドは確認する。蓮は彼の焦る理由がいまいち分からなかった。

「別にいいじゃない。何か問題でもあるの?」

「え、い、いや・・・問題は無い・・・のか?」

「何で疑問形?」

 アルフレッドの変な態度に笑いながら、蓮はアルフレッドから部屋の鍵をひったくり、先に部屋へ向かった。その後ろ姿を見つめるアルフレッドは、溜息をついた。

「・・・地球とやらの女は皆あいつのように鈍感なのか?・・・分からん」

 アルフレッドはぽりぽりと頭を掻いて部屋に向かった。


「やっと休めるー」

 部屋に入った蓮は開口一番そう言って、ベッドに倒れ込んだ。やばい、すぐに寝そう。と、目を閉じかけた蓮の耳に、突然大声が響いた。

「な、何だこれはっ!?」

「何はこっちのセリフっ!せっかく寝かけてたのに起こさないでよっ」

 怒る蓮にアルフレッドは頭を抱えながら抗議する。

「いや、眠いだの何だの、それどころではない。これはおかしいだろ」

「何が」

「何がって・・・」

 アルフレッドは蓮の乗っているベッドを凝視した。部屋にあるのはこのダブルベッドが一つ・・・。

「あ、ベッドが一つしかないってこと?しょうがないよ。一部屋しか空いてなかったんでしょ?せっかく部屋を貸してくれてるのに文句を言うのはどうかと思うよ。それに、一緒に寝れば済むことだし」

 蓮の爆弾発言に、アルフレッドは目を見開いた。

「・・・本気で言ってるのか?」

「何?本気以外の何があるっての」

「お前、実は男じゃないのか?」

 蓮は口角をぴくりとヒクつかせた。

「失礼なこと言ってくれるじゃないの。信じられないなら、確かめてみる?」

 ニッコリと笑って首を傾げる蓮に、アルフレッドはブンブンと勢いよく首を横に振った。

「いや、遠慮する・・・」

「そう」

 蓮はベッドにボフンと沈んで、数秒後には寝息をたて始めた。

「・・・秒殺だな」

 呆れた顔でアルフレッドはベッドの脇に腰を下ろした。爆睡する蓮に視線を向ける。

 ―疲れが溜まってたんだな。仕方がない。見知らぬ化物に突然家族を殺され、たった一人でそれと戦い、狙われ、異世界にまで来たんだからな。並みの精神力じゃとても耐えれるものじゃない。こいつは・・・レンは大した奴だ。

 アルフレッドは蓮の頭をそっと撫でた。



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