第八話
意地
こんなに全てが嫌になることは今までなかった。
なんで、優也はダイキのことを嫌ってるんだろう?
あんな風に言うなんてひどいと思う
『ダイキに話し聞いてもらったって一緒だろ』
一緒なんかじゃない。むしろ、助けになる。あたしの不安を取り除いてくれる
優也の話を聞いてもらったりしてたのに。
何も分からないくせに・・・・何も知らないくせに。
足元の缶を蹴った時、ふと気が付いた
あれ?何であたし泣いてるんだろう
ムカついて泣いてる・・・そんなことはない。
悲しくて?悔しくて?
悔しくてが一番近いのかもしれない
優也に対してもだけど、あたし自身に対してものすごく腹が立つんだ
どうして、ちゃんとダイキのこと説明できなかったんだろう。
どうして、逃げてきちゃったんだろう・・・・
好きなのに・・・好きなのに、素直になれない・・・
あたしはどうしようもなく意地っ張り。
優也の顔を見るだけで、今までと違った感覚が私を取り巻くのに
どう動いていいのか分からない。
どういう風に優也に言葉を伝えたらいいのか分からない。
やっぱり、恋なんてするもんじゃない。
恋していいことなんてまるでない。
文化祭当日。今日は朝から忙しそうに皆動いていた。
もちろん、私も朝から忙しく動いた。
憂鬱な気分なんて引きずっていられない
優也の姿はまだ見ていない。
男子と女子はすることが違うから。優也は厨房担当だ。
あたしら女子はウェイトレスみたいな奴で、昨日作りそこねていた、手作りメニュー表を
切り張りして作った。結構可愛く仕上がっている
着物を持ってきたり、食器を数えたり。まぁひたすら忙しい。
何気に注目されているらしい。ウチのクラスの和風喫茶は。どこがいいんだか分からないけど
やっぱり、着物目当てが多いか?
そういえば、ダイキは今日も屋上にいるのかな?
せっかくの文化祭なのに。
「女子〜着物に着替えて〜」
学級委員長の麻美が大声を張り上げて女子を図書室に移動させた
ポニーテールの似合う学級委員長。皆をまとめるのが上手いリーダー格ってやつ。
少し男勝りだけど、女子からの支持率が高い。
一人一人着物の柄と色が違うようで
理沙は濃い赤の生地に紅葉の模様の入った着物を渡されていた。まさしく秋の文化祭にピッタリ。
私はというと、淡い青色の生地に白い花柄のシンプルな着物を渡された。
渡しているのは着付師をしている先生のお母さんらしきひと。一人一人に似合った着物を
選んでいるそうだ。
この着物、あたしに似合うかな・・・
理沙はよく似合っている。他の子も。みんな和風美人だ。
先生のお母さんは嬉しそうに着付をしていた。
「やっぱり、若い子が着ると違うわね〜。着物がイキイキしてるわ」
私も、一応着替え終わった。
「あなた着物似合うわね。ステキよ。柄もぴったりだし」
「ありがとうございます・・・」
ステキって・・・・嬉しいけど。
動きにくいな。お腹苦しいし・・・。いっぱい食べられない。
図書室から出てクラスに戻る時の他学年や他クラスの生徒からの視線が
痛い・・・。着物は目立つな〜・・・照れるし。
途中、新聞部の奴に写真を取られた。
文化祭が始まった。
やっぱり、和風喫茶は忙しい。着物の女子生徒を一目見ようと様々な人が波のように
押し寄せてくる。
今年は入場人数が多いらしい。まぁ、生徒の数が半端ないから
仕方ないといえばそれまでの話なんだけど
「魔女の宅急便」と「ロミオとジュリエット」は午後からの部らしく、あたしと理沙も
午後は丁度休憩を入れた。いろいろ見て回りたいし。
まぁ、また和風喫茶に戻るからずっと着物なんだけど・・・・
「いらっしゃいませ〜」
他校の生徒らしい男子3名が入店。私が店内まで案内することになった。
髪は茶髪、耳にバッチリピアス。パッと見の不良がやってきた。
驚きはしなかった。さっきなんて校長と教頭と理事長らしき人が来たし(しかもあたしが担当したし)
不良どもは私をジロっと全体を見てからニヤッと笑った。
気色悪い。
「ねぇ。今何年生?」
席に案内してメニューを渡した時、3人の中で一番背の高い男が聞いてきた
「2年です」
「へぇ。俺ら3年なんだぁ」
別に聞いてないんですけど
理沙を見ると私を不安そうに見ていた
「これ終わったら、一緒に動かない?」
「いえ・・・忙しいので」
「え〜」
「ご注文は何にいたしましょう」
「じゃあ、君で。」
ゲラゲラ笑い出した。
何考えてんだこのアホどもは。ウチの弟よりもタチ悪いし
「そのメニューよりお選び下さい」
「頭かてぇなぁ」
「じゃあ、これよくね?白玉団子」
「白玉団子ですね」
「3つ」
「かしこまりました」
その場を一刻も早く立ち去りたかったから
そそくさと厨房へ戻った。
厨房って言ったって、教室の奥なんだけど。
まだこっち見てるし。。。
「白玉3つ〜」
「はーい」
疲れたと椅子にもたれかかりながら座った
こんなに忙しいのって何年ぶりかな・・・
「白玉・・・・3つ」
私に白玉団子を渡してきたのは優也だった
私が思っているだけなのか、少し心配そうな顔をしているように見える。
「・・・」
黙って、店へと出た
何で何も言わなかったんだろう・・・さっきが一番「ごめん」って言えるチャンスだったのに
「白玉団子3つお持ちしました」
「ねぇ。マジでいってるんだけどさぁ」
「けど・・・」
「仕事なんていいじゃん別に。」
「すいません。」
「え〜。じゃあ、俺らここ動かねぇし〜」
困ったことになった・・・・どうしよう。お客さんいっぱいだし
「申し訳ございません。ただいま混んでますので・・・」
「じゃあ、一緒に遊ぼうよ」
だから、それは無理って言ってんだろ!?
でも、今あたしがこの人たちの要望を聞かなかったらずっとこのまま居座るつもりらしいし・・・どうしよう
「だから・・・・あの・・・」
「何?」
「どうしようもない奴らやなぁお前ら」
聞きなれた関西弁。店内にどよめきの声が響いた
「はぁ?・・・!お前・・・・」
「もう食ったやろ。楽しんだんやったら店から出ろ」
「何様だぁテメェ」
「ちょっと待てって・・・コイツ・・・」
3人のうち、一番背の小さい男子が隣の男子に耳打ちしていた
「はぁ。お前が北見大喜かぁ」
ダイキは呆れたようにため息をついて
見下したように3人を見た
「お前ら、営業妨害やから、出て行け」
男ら3人はガンを飛ばしながらダイキを見て
立ち去った。ダイキはその後に着いて行った
「なんだったんだろう・・・今の」
「ねぇ今のって、北見大喜でしょ!!初めて見た!!」
「超カッコいいね!!」
店にいた女子生徒は一斉にダイキの話で持ちきりになった
あたしも少し頭が混乱しポーっとしてたら
いつの間にかお客さんが来てて、また仕事に戻った
それにしても・・・タイミング良かったなぁ・・・・
屋上から降りてきたんだ。
そして、あたし達午前で大忙しに動いていた女子は
午後の部の女子と入れ替わる。
「はぁ〜。マジ疲れた。あたし接客無理っぽい」
エプロン(腰巻き?)を外しながら理沙はぐったりして喋った。
「客の接待なんかしてられっか!?って感じだよね」
「あはは。そんな感じ」
少しウキウキ気分で文化祭を回る。
「あ!唐揚げ食べよう!!お腹すいた」
「いいね」
唐揚げを買った。どうも、3年5組の出し物らしい。はちまきを巻いた威勢のいい先輩が
唐揚げを渡してくれた。
やっぱり、他の生徒と違う格好をしていたからか、目立っているような気がしてしょうがない
自意識過剰かな・・・・
いつもは寂しげな渡り廊下。今日は見事に派手なポスターやら生徒の展示物でいっぱいになって
賑やかだった。
そこにピカソの絵にもなっていない意味の分からない絵があって
それを見て理沙と爆笑した
立ち並ぶ出店や色んな格好をして宣伝をしている生徒
先生はなんだか照れくさそうに変装させられていたけど、どうもまんざらでもない様子で
パンダの着ぐるみは良く似合っていた。
忙しく動く生徒たち。普段の授業ではかったるそうにしていたり
先生に反抗したりしているけどやる時はしっかりやって盛り上がるんだなぁと
初めて感心した。
今まで見てきた生徒の中でつまらなさそうにしていた子は一人もいなかったような気がする
それにしても、ダイキは一体どこに行ったんだろう。
ピンポンパンポーン
「10分後より、3年2組の演劇『ロミオとジュリエット〜これこそ運命!ホストとキャバ嬢〜』を
上映いたします。ご覧になる方は体育館へ来てください。
大変混雑する予想なので、体育館に入りきらない場合は2回目公演へ回されます。
それでは、学園祭をお楽しみください」
ピンポンパンポーン
「ホストとキャバ嬢!?」
「もっと悲しい切ない系の話かと思った」
「コメディー狙ってるんだろうね・・・」
「そろそろ行こうか。」
「そうだね。立ち見って嫌だし」
「それにしても、高校の学園祭の劇って2回も公演することってあるんだね〜」
二人でぺちゃくちゃ喋りながら体育館へ向かった
幸運なことに、席は思ったよりも空いていて、真ん中の方の席を陣取った。
その数分後から人数が一気に増えだして、2回公演する理由が分かった。
あっという間に満席状態。外は寒いのに、体育館は人の熱気でムンムンする。
ブーーーーー!!
けたたましいサイレンの音が、劇の始まりを示した
放送部の子の声が聞こえる。そういえば、さっきの声もこの子っぽいな。
忙しいんだなぁ放送部も・・・・・
「ただいまより、3年2組生徒による演劇『ロミオとジュリエット〜これこそ運命!ホストとキャバ嬢〜を
お送りいたします。監督、北原一くん。脚本、遠山アサミさん、・・・・・・・」
幕が上がって最初に目に入ったのは、髪をアップに上げてキラキラのドレスを着た
化粧の濃い女と、丸いテーブルと、その周りに座っている男数人。
うわぁ・・・風俗店だよ・・・・
テーブルの上に乗っているグラスやワインボトルなどの小道具もバッチリそろっていた。
中身は入ってないだろうけど・・・・・
あ。先生もテーブルに座ってる。先生も出演するんだぁ
その世界は、いかにも風俗店って感じで、誰がこんな風にセッティングしたんだろうと
疑問に思うほどリアルだった。っていうか、高校生がそんな劇していいのか?
ストーリーは、キャバクラ嬢としてナンバー1を勝ち取り続けている女ジュリエット(源氏名)と、
ホスト界で名を轟かせ続けているナンバー1ホスト、呂魅男(ロミオ:源氏名)とのラブストーリー。
〜STORY〜
舞台は歌舞伎町で対立し続けてきたロミオとジュリエットの店。
売上金を伸ばすため、双方の店に潰し客を仕掛け合うもののお互いのナンバー1に負かされ続けた。
そしてついに、呂魅男はジュリエットの店へ最終兵器として潰しに入った。
そこで呂魅男はジュリエットと出会う。一瞬で恋に落ちてしまう二人。
だが二人の恋が結ばれるはずもなく、周囲から反対される。敵対し続ける双方の店。
愛し合う二人はやがて、決意を固めることにする。駆け落ちをする。
ナンバー1の座を捨て、二人で新しく店をだすことになった。
自分の元いたクラブから選りすぐりを集め、クラブ「エターナルラヴ」を開店。
ホストクラブもキャバクラも楽しめる店をオープンし、大繁盛。
そして、その名は永遠に歌舞伎町に・・・いや、世界中に残すほどの大きな店となり、呂魅男とジュリエットは
幸せに大富豪生活を楽しむのであった・・・・・
ラストは大喝采のなか、大きな拍手に包まれて終わった。
最高に面白かったし、最高に盛り上がった。
まぁ、原作のロミオとジュリエットとはだいぶかけ離れているけど
こっちも面白い。っていうか、こっちのほうが、あたしは好きかな
今気付いたけど、この話を作った遠山アサミって人・・・・すっごい頭のいいメガネをかけた
いかにもマジメそうな人じゃなかったっけ・・・・いや・・・人は見かけに寄らないな・・・・
ピンポンパンポーン
「次の公演は午後5時30分よりとなっています。
続いては、1年3組による演劇『魔女の宅急便』を公演いたします。3時15分よりとなっております。
どうぞお楽しみに〜」
ピンポンパンポ−ン
「ぎりぎり、見れるじゃん」
「奈緒、見るの?」
「え?見ないの?」
「奈緒が見れるならいいんだけど」
「普通に見れるから」
理沙はあたしのこと何気に心配してくれてたんだな。
ナツコちゃんのことなら別に平気。・・・大丈夫。
あっという間に15分がたった。
ピンポンパンポーン
「ただいまより、1年3組による演劇、『魔女の宅急便』をお送りいたします。
監督、入江孝俊君。脚本、須藤カナさん・・・・・」
ブーーーーーー
最初に目に入ったのは黒いワンピースを着て、赤いリボンを頭につけて黒猫のぬいぐるみを持った
可愛いナツコちゃんだった。
目を奪われるくらいに可愛くて。
あたし、何て身の程知らずなんだろうと、深く深く思った。
もしかしたら、あたしのほうが優也と仲がいいんじゃないかなんて思っていた
あたしは何てバカなんだろう。超ミジメじゃん。
優也も、この舞台見てるのかなぁ
出来れば、見て欲しくない。
なんだろう。すごい今、虚しいよ。
今まで、何であたし気が付かなかったんだろう。
結局、大切なのは心とか言ってる人も、所詮は綺麗なほう、美しいほうを選ぶんだ。
見た目さえ良ければ、人に認められる。
見た目さえ良ければ、何だって出来るんじゃないだろうか?
〜STORY〜
ジブリ映画の魔女の宅急便と、話は一緒だった。
魔女見習いのキキが黒猫のジジを連れてロンドンの町へと修行の旅に出る。
そこで出会う人たちと触れ合うたびに成長するキキ。
途中、魔法が使えなくなったりもするけれど、最後には戻り、町中の人気者になる(?)
みたいな感じ。
その役を、見事にナツコちゃんは演じきっていた。
キキの役もすごく良く合ってるし、会場の人もきっと、ナツコちゃんに見入っていたと思う。
だって、容姿がいいもん。
ものすごく嫉妬してしまう私は、先輩としてなってないし
まだまだ子供だと思う。
けど、彼女の溢れんばかりの才能や美貌に、私は飲まれているのが分かるんだ。
なんだ。あたしって、大した事ない人間じゃん。
静かにそう思った。
劇が終わったあと、理沙と体育館から出た
「すごかったね。1年生って言っても、やっぱり、あなどれないな〜」
「・・・奈緒、本当にそう思ってる?」
「思ってるよ?ナツコちゃん可愛かったね」
「うん・・・可愛かった・・・」
「どうしたの?」
理沙は少しためらうように目線を落とした
「奈緒の顔、劇中に見てたら、すごい辛そうだったよ」
辛そう?何で?
「無理して笑おうとしてさぁ。」
「あたし・・・無理に笑ってた?」
「うん」
そこからは二人とも黙りこくって、和風喫茶に戻った。
優也の姿は見えなくて、
あぁ、見に行ったんだろうな
と、思った。
あたしの恋も終わったなぁ。




