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銀の輪  作者: 翠歌
2/21

第二話

再会





「え?優也??一緒のとこだったんだぁ」

「おう。偶然だな」




席にかばんを置きながら隣の席の男子に話しかける。





入学式も終わり、クラス替えも終わった。クラスの皆は思い思いに隣の席の子と話したり

メルアド交換をしたりしている。

まさか、同じ高校だとは思ってなかったものだから、すっかり懐かしい気分で

話に花を咲かせていた。




優也は兄同士が友達で、小学校の頃は親しかった。

一緒に遊んだりしていたけど、中学に入ってからは兄から話を聞いたりする程度で

交流はあまりない。






「お前、全然変わってないな〜」

「言っとくけど、あんたもそんなに変わってないよ」

「嘘つけよ〜こんなにカッコよくなったのにか?」



そういって急に席から立ち上がった。

すると、びっくりするくらい身長が高くなっている。

私も負けじと立ち上がると、自分が随分小さくなったかのように思える。




「え?ナショ縮んだ?」




「縮んでないよ!!あんたが異常にデカくなっただけ!

っていうか、まだナショって覚えてたの?」

「うん。」



遊んでいた頃は私の漢字「奈緒」というのを読み間違えて

「ナショ」と呼んでいた。




「まぁ、別にいいんだけどさ。」

「でも、あの頃よりは女っぽくなったじゃないの?」




そんなことを突然いわれると、やっぱり緊張というか慣れてないものだから

ドキドキしてしまうのは仕方ない。


「なにらしくないこと言ってんの。」


「いやいや。だって、あのころは俺、ずっとお前のこと男友達だと思ってたから。

まぁ、その頃よりは成長したんじゃないかなって。」





あぁ・・・なるほどね。

だからあんなに親しかったのか。確かに小学生で男女一緒に遊ぶってのは

結構恥ずかしいものもあったりするはずだもんな。




「・・・・・」

「なに・・・怒った?」




不安げな表情を浮かべて私の顔を覗き込んでいる。

その顔がまぬけと呼ぶ以外なんでもないような顔で笑ってしまった。

でも、男友達といわれて悲しくないってことはない。

納得はしたけど非常に複雑な思いでいっぱいだ。









「でも、ホントに身長大きくなったね。なんかあったの?」

「別に。なーんもなかった。」



何もなかったと聞いて少し嬉しかったのは、きっと私が負けていないと思ったから。

そうだ。きっと。



「あ。メアド教えてよ。せっかく同じクラスになったんだし。」

「いいよ。あ。ナショも教えろよ」

「分かった。えっと・・・・」



椅子を横に向けて、携帯に優也と登録をした



「じゃあ、気が向いたらメールするね。」

「朝方とか、夜中はやめてくれよ!!」

「分かってますから。」



新しい先生の話を聞いて、配布物を配ってもらい、あっという間に高校最初の日は

終わった。

同じ中学だった友達とはクラスがだいぶ離れた上に、先に帰ったという。

一人寂しく帰ることにするか・・・薄情者めが・・・

初めて通るような道、一人で帰るには心細いけど仕方がない。

門を出て朝きた道を思い出しながら歩いていると後ろから声が聞こえた。



「ナショ」




振り返ってみるとそこには優也がいて、一人?と聞いてきた。




「うん。友達先に帰っちゃってさ」

「お前の家、変わってないよな」

「え?うん」

「帰ろうか」



一言、優也が呟いた言葉が信じられなくて、もう一度聞き直した。

明らかにその言葉は、私と帰ろうと言っている。

まさか、そんなお誘いが来るとは思っても見なくて内心バクバク・・・

あの小心者だった優也がこんなに積極的になったのだと、関心すら感じる。



「え・・・でも・・・2人?」

「何いまさら緊張してんだよ。」

「誤解とかされたら嫌なんだけど」

「じゃあ1人で帰れ」

「いや・・・帰る」



下を向いた。私照れまくりだ・・・

仕方なく、というか正直な気持ち嬉しくて仕方ないという気持ちで、優也のあとを付いていった。

どうしよう・・・何話していいのか分からない。

沈黙が流れる


「ナショはさ・・・」

「何」

「中学の時って、彼氏とかいた?」

「あぁ・・・いなかった・・・ような気がする」

「何それ」

「あんたはどうだったのさ」

「俺?俺は−・・・何もなかったさぁ。片思いはしてたけど」

「へぇ」




片思い・・・誰にしていたんだろう・・・少しショックだ・・・

話を変えよう。そうだ。




「あ、慶太さんは元気?」

「兄貴?元気だよ。」

「章一君は?いくつになったんだっけ」

「14。あっという間に中2になりましたわ」

「そうか・・・はやいね。あの頃はまだちっちゃかったのに」

「うん。お前のとこは?」

「兄ちゃんも、亮も元気にしてるよ。」



他愛もない昔話や家族の話に夢中になり、あっという間に時間が過ぎた。

気が付けば、家の前についていた



「まだ覚えてたんだ。あたしの家」

「記憶力はいいから」

「じゃあ、バイバイ」

「おう。また明日な」



そういって優也は私に背中を向けて歩き出した。

その背中に少し笑いかけ、家に入った。





この日から、私と優也は一緒に帰るようになって



周りの人にはカップルだと勘違いされていた。

席も隣でよく喋るし、帰りにコンビに寄ってアイス買って公園で食べてから帰ったり。

でも、私と優也はそんな関係じゃなくて・・・だからといって私は優也のことが好きじゃない

訳でもないし、中途半端な関係といってしまえばそれまでのはなし。



「今日も前市と帰るの?」


理沙がニヤニヤしながら話しかけてきた。

理沙とは中学から仲がよくて入学式の日に先に帰ったのはこいつだ。


「どうだろう。多分。」

「奈緒も女になっちゃって」

「事の発端はあんただっつーの」

「え?あたし?」



きょとんと私を見つめている。頭には疑問符が並んでいるようだ。



「そういえば、彼氏できたんでしょ。」

「あぁ。まぁね。3組の後藤くん」

「入学してまだ1ヶ月も経ってないのに・・・」

「奈緒に言われたくないさ」

「だから、あたしと優也は付き合ってないって・・・」


疑り深い目で私をみてくる。付き合ってない・・・確かにそうだ。

だってあたしと優也はただの友達だもん。

きっと、あっちだってあたしのことをただの友達って思っているはずだし。


「付き合ってないか・・・ちょっと期待してたのにな。」

「何に」

「奈緒は彼氏が出来たらどんな風に変わるのか」

「出来たとしても変わらないから。」

「そうかな?そんな事いって、実際はすごい変わったりして」

「変な想像はやめてください」





昼休みはあっという間に終わり、帰りのHRもあっという間に終わった。

帰りのHRとか、まず聞く気がなくて寝てたからやけに早く感じただけかもしれないけど


「さっき、よだれ垂らして寝てたぞ〜ナショ」

「ウソ!」

「ウソです。」


帰り際に先生に呼び止められ、そこで掃除を頼まれた・・・っていうか、命令されて

現在掃除しながら会話している。


「「お前HRずっと寝てたんだから罰として掃除しろ」」


あの先生はきっと鬼です。そう確信した。

優也もとばっちりを受けて、となりで拭き掃除をひたすら地道にしている。

その姿がなんだかかわいらしくて笑ったら優也は笑うなって言った。


「なんか夕日赤いね〜」


「あ、知ってる?夕日がかなり赤いって言うかオレンジの時って

その日か近いうちに地震が起こるんだってよ」


「ウソ〜」

「マジだって!!じゃあ、ホントに今日地震おきたら100円な」

「なんであたしがあんたなんかに100円もあげなきゃなんないのさ」

「信じなかった罰」

「えぇ〜」

「じゃあいい。」


ふてくされたように優也は後ろを向いてせかせかと掃除をし始めた。

分かり易い怒り方だな・・・・全然変わってないじゃん。



「仕方ないなぁ」

「え!?くれんの?」

「本当に起こったらね」

「よっしゃあ!!」

「100円ごときでそんなに喜ぶって・・・あんた相当金欠でしょ」

「・・・・」



とぼけたふりをして視線を宙に浮かばせている。

それに笑ってしまった。そういえば、小さい頃もこんな風にいつも笑わして

くれたっけな。


掃除も終わって職員室によった



「よし。よく頑張ったな。帰ってよし」



確認もせずに先生は笑っていった。なんかご褒美とかないんかい!!

そう思いながらとぼとぼと二人でいつものように帰った。


「暗くなってきたね」

「うん」


さっきまでの明るい雰囲気は消えて、なんだか寂しい雰囲気に

包まれていった。

二人とも下を向いて私は優也から少し遅れながら歩いた。


ガガガ・・・ッ

突然地面が揺れた。地震にあったことのなかった私はとりあえず

しゃがみ込んだ。


「ヤッ・・・」

「ナショ!!」

優也がそばに駆け寄ってきた。

「大丈夫か!?」

「うん・・・」


地震もいつのまにかおさまり辺りには妙な静けさが広がった。

ハッと気付くと、優也の手が私の肩を包んでた。

気付かなかったのは、優也の手は安心感があったから。なんの違和感もなかった。


「あ・・・ごめん」

「いや・・・いい。ありがとう」

「立てる?」

「うん」


立ち上がった。正直、優也の顔がまともに見れない。恥ずかしくて。

優也も必死で目をそらせているように見えた。

私と優也は似てる。恥ずかしがり屋なところとか、けど、優也はあのころとは

比べようもないくらいに男らしくなっていた。



私は財布を取り出してこっそり105円を取り出して

優也の制服のポケットに入れた。




優也は少し驚いたような顔をして、ポケットの中の物をすべて出した

家の鍵、ガムの包み紙、糸くず、ロッカーの鍵と、それについている

ドナルドのキーホルダー。それに混じって入っていたのは105円。

優也はいたずらっこのようににこっと笑った。私もつられて笑った。




「なんで105円なわけ?」

「助けてくれたお礼」

「・・・ふーん」


照れ笑いのような笑みを浮かべて、二人で歩いた。







5限目教科は理科。ただひたすら眠たさに打ち勝とうと戦っている時間だ。

隣をふと見た。優也はあっさり眠気に負けて熟睡中だった。



うとうとする。でも私が寝たときに限って先生に注意されるんだよね・・・

シャーペンで刺したあとが手に赤く残っている。

ダメだ・・・もう限界。

優也を見ながら少し幸せな気分で目を閉じた。途中、先生の声が聞こえたけど

もう遅かった。意識なんてもうすでに夢のなかに引きずり込まれていたから。




目を開けると、優也が目の前にいた


「なにしてんの」


私は静かに言った。寝起きは昔から悪かった。優也はもろにびっくりしたようで

後ろに倒れかけていた。


「いや・・・違うから!!ナショ起こそうと思って・・・」

「・・・今何時?」

「6時7分」

「うそ!!もうそんな時間!?」

「皆帰った」

「何で起こしてくれなかったの?」

「起こしたらなんか悪いかなって思って・・・・」



はぁ・・・呆れる。で、今の今までずっと私が起きるの待ってたわけ。




「早く起こしてくれてよかったのに・・・」

「でも・・・なんか悪いし」


窓の外をふと見た。時計はすでに6時を回っていて

空は茜色を過ぎて紫色をもうすぐ越そうとしている。


「あーぁ。もうこんなに暗くなっちゃったよ」

「俺が居るだろ?」

「女の子1人、起こせないような男には頼りませんから」


優也はすこし膨れて教室のドアへと向かっていった。

私はカバンに教科書やなんやらを詰め込んで優也の後を急いで追いかけた。


「うっわ。寒」

「こりゃあ寒いな」


外はすっかり冬の気候になっている。

昼は暑そうだったからブレザー着て来てないし、こんなに気温って急に変わるもんなんだ。


「もうやだ〜」

「ナショ、ブレザー着てないし。アホだ〜」

「うるさい。暑いの嫌いだから着て来てないんだよ〜」

「明らかに今日は暑くなかったよね」

「もー・・・過去を悔やんだって仕方ないし。」

「ほら。」


優也は私に自分の着ていたブレザーを渡した。


「なにちょっとカッコいい事してんの」

「うるせー。着ないなら俺が着るぞ」

「凍死させる気!?」

「何言ってんだ」


ブレザーを後ろから掛けられて、私は黙って袖を通した


「あ〜。あったかい」


私が振り向くと、バッと勢いよく目をそらした。きっと、ものすごい恥ずかしがってるんだろうな〜

そう思うと、なんだか自分まで恥ずかしくなって下を向いた。


「あ・・・明日からは本格的に冬に突入だってさ」

「ふ〜ん」

「寒くなるよな」

「そうだね」


冷たい風は二人の頬を撫でていって赤く静かに染めていく

二人にいつもみたいな笑顔はない。

優也の気持ちは分からないけど、少なくとも私は、いつもと違う気持ちを感じていた。


ただ二人、黙ったまま歩いてる。その距離は近くて、肩が触れ合う寸前。


いつもはこんなにドキドキしないのに、何故だか今日はいつもと優也の表情が違って

顔を直視することなんて出来ない


白い息とも

消えてしまえや

恋心



暖かな

君の隣に

いる証明

この肩の

温もりに

重ねて



ふと、本で読んだ短歌や俳句を思い出した。

状況にあまりに当てはまりすぎているから。


「とても寒い、何も喋らぬ、君の横」


優也は突然喋りだした私に対して目を大きく開いて驚いている。



「何それ」

「短歌」

「そんなの興味あったっけ」

「ううん。ただ、言ってみただけ」

「なんだっけ」

「・・・とても寒い、何も喋らぬ、君の横」

「・・・・・」


優也は黙って下を向いた



「それって、今の状況のこと?」

「さぁ、どうでしょうね」



立ち止まり、さっき借りた優也のブレザーに顔をうずめて

目を閉じた。

優也に、少し構って欲しかったから。



「もうだいぶ暗いぞ」

「怖くない」

「もっと寒くなるぞ」

「ブレザーがあるから平気」

「誰かに襲われるかも」


少し目を開けて、しゃがんだ。


「優也がいるから、別に大丈夫」


優也を困らせたいわけじゃない。けど、ずっと黙って家に帰るのは長い道を歩いているような気がして、

なにか、私の中で空白が生まれそうになったから。

優也はただ私を見つめている。




「帰ろ」




優也は私の手を握って立たせた

手を握られていることが私にとっては大きなことでびっくりして

口を開けっ放しにしている


「何お前情けねー顔してんの」

「誰のせい・・・」

「うるせー、俺もだいぶ恥ずかしいんだから黙ってろ!!」




こんな積極的なことしながら、何恥ずかしがってんだ。こっちまで恥ずかしくなるじゃん・・・




「優也、手あったかいね」

「お前は冷たいね」

「心が暖かいから」

「あーそうですか」

「そうですよ」




さっきよりも、口数が増えて嬉しくなった。

優也の手が暖かくて、さっきまで凍えそうだった私の心も優しくあっためてくれた




「俺の手まで冷たくなりそうなんですけど」

「仕方ないじゃん体質なんだから」

「俺の体温がナショに吸い取られていく〜・・・」

「なにバカなこと言ってんのさ」


何気に優也の手を握り返してみると

優也も私の手を握り返してくれた。寂しかったさっきまでの気持ちは薄れていって

もう、温かい気持ちが私の中を渦巻いていた









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