第十六話
月光
始業式の日は気分が乗らない。っていうか、むしろめんどくさい。
長い休みの始まりの儀式とか正直いらないと思う。
クラス替えがあるわけでもないのにさぁ・・・・
校長先生のありがたく、そして恐ろしく長い話がやっと終わり、激しい気だるさが襲ってきた。
教室に帰ってくると、皆の顔がやっとよく見えた。
あれ?あのこ、この間まで髪黒くなかったっけ?
あのこも。耳元がなんか明るくなったと思ったらピアスしてるし。
皆茶髪にしちゃってんなぁ。
黒髪って、あたしを含めて2〜3人になってない?
優也も理沙も、二人とも茶髪だ。理沙はどっちかって言うと黒に近い。
優也は何気に前より赤くなってるし。いつ染めたんだ!!正月にバチ当たりな・・・
「え〜あけましておめでとうございます!!」
「「おめでと〜」」
先生から新年の挨拶が聞こえた。
皆元気にやってたか?とか、頭髪の乱れが目立つぞとか。
正直、あたしには大して関係のない話ばかりだけど、先生がすごく懐かしく感じる。
一応全部終わって、帰ることになった。
「ナショ〜帰るぞ」
カバンを背中にリュックのようにしょっている優也があたしに話しかけてきた。
あたしは机の中に入れていたふでばこやらノートやらをカバンに急いで詰め込んで優也にかけよった。
「あ!!ちょっと待って」
「ん?」
「屋上行っていい?」
「いいけど」
まだハルさんに新年の挨拶をしてなかったことを思い出して急いで屋上へと駆け上り
久々に屋上の空気を吸った。
落ち着く。風は冷たい冬の匂いを運んできて、その匂いがダイキを思い出させた。
ハルさんが飛び降りたという所で一歩下がってしゃがんだ。
「あけましておめでとうございます」
「ございま〜す」
ビックリして後ろを振り返ると優也も手を合わせていた
少し笑って、前へ向き直る
「去年、ダイキは一歩踏み出しました。ハルさんはそれを寂しいと思うかもしれませんが
ダイキの一歩を大切にして、見守ってあげてください。
きっと、いつかハルさんを思い出しにここに戻ってくるはずなんで、そのときは迎えてあげてください。」
「ちょっと待てよ。」
「何?」
「ダイキが来るなんてわかんねぇじゃん」
「分かるよ」
優也は不思議そうに首をかしげた
「ダイキは、たそがれ屋で寂しがり屋だから。絶対また戻ってくる。」
「・・・・寂しがり屋ねぇ」
一瞬、ダイキのタバコの匂いが冬の風に混じって鼻を掠めた。きっと、どこかでまた会える。
絶対に。
久ぶりに会いたいな・・・色んな話がしたい。
「さぁ。帰ろうか。」
「おう」
二人で寒さに身を縮ませながら並んで歩いた。
「もし霊能力があったら、ハルさんと話が出来たのかな?」
「さぁ。出来たんじゃないの?」
「たまに思ったりしない?寝る前とかに、自分に霊能力あったらどういう感じなんだろう・・・とか」
「思う思う!!で、いつの間にか寝てるっていう・・・」
「そうそう」
一瞬、二人の間に沈黙が流れた。
世間一般的には、この沈黙が大いに気まずい雰囲気を運んできたり、また一方では天使が通ったなんていうけど
あたしたちの間に流れた沈黙は、二人とも同じことを考え込んでいたから起こった訳であって
だから多分天使も通ってないし、気まずい空気でもない。
優也が口を開いた。
「死人と話できるって、どんな感じなんだろ」
「怖いよね。やっぱり幽霊なわけだし」
「けどさ。自分の知り合いとか、ずっと会いたかった人とかだったら怖いとかそういう感覚はないと思わねぇ?」
「そうかな。」
「死んでも会いたいやつとか誰にでも人生に1人は現れるんだよ。」
「・・・・ふ〜ん」
「俺はもう巡り会ってる。」
「え」
変な声がとっさにでた。優也は笑ってる。
だって、俺はもう巡り会ってるなんて言うから。誰なんだろう。
「優也は、誰に死んででも会いたいの?」
優也は少し笑って何かいたずらっぽく私を見た。
その瞬間、もしかして優也の死んでも会いたい人って、あたし?・・・なんて自意識過剰なことを思ってしまった。
だって、そんな顔するから。こう思ってしまうのも仕方がないと思う。
結局、優也は最後までそれを教えてくれなかった。
本当はあたしじゃないかもしれない。それこそただのあたしの勘違い止まりかもしれないし。
けど、もし、優也が私に会いたいって思っていてくれたなら
それ以上の幸せなことは思いつかない。
外は雪が降り続いている。
昨日ほど吹雪のような天候じゃない。しんしんと降りしきり、粉雪のようにキラキラと輝いて
地面へと落ちる。
音も立てずにひらひらと舞い散る雪の花びらは人々の無数の願いのように見えた
なんだかんだ言って、優也と再会してからかれこれ2年が経とうとしてる。
早かったような。長かったような。あと1年で卒業だ
それまでに・・・思いは伝えられるかな
翌日。っていうか今日。
朝から目覚めが悪かった。
早朝から亮とお母さんがケンカしていてしかもお母さんあたしにまで当たってきた。
イライラしてんだかしらないけど何であたしがそのハケ口にならなきゃいけないのか訳が分からない。
まぁ最近忙しそうだし、ピリピリするのも仕方ないのかな
・・・・・なんて冷静に考えて行動するほど私は頭が賢いわけではない。
もちろん反抗してきた。
で、そんなこんながあって。まともに朝から勉強する気になれず屋上にいるというのが現在の状況。
すぐ感情的になってしまうのは母親譲りだなぁなんてゆっくり流れる時間の中で空を見上げながら思う。
かちゃ・・・
屋上のドアが開いた。
「ナショ〜」
「・・・理沙・・・」
理沙がわざと優也の呼び方であたしを呼ぶものだからてっきり優也が来たものかと思った。
理沙はいたずらっぽく笑い、鼻歌を歌いながら隣に寝転んだ
理沙の甘い香りの香水が鼻をつついて
うとうと気分がさらに増した
「亮とケンカしてきたんか?」
「お母さんとケンカしてきた」
「何で?」
「朝から亮とケンカしてて、そのイライラをあたしにぶつけてきてあたしがムカついてさらに亮に当たったら
さらに仲がこじれてきたという・・・」
「ふ〜ん。ややこしいな」
理沙がボソッと呟いた。確かにややこしい。人間ってややこしい。
「星に帰ろうかな」
「奈緒さんはどこの星からきたんだい?」
「・・・・キラキラ星」
「分かったから。もういいよ帰りなさい。さよなら〜」
「迎えに来て〜」
そういって宇宙船と交信するかのように空に手を伸ばすと、ますます自分の小ささが嫌になった。
心せまいな。あたし。
「前市が悲しむんじゃない?」
「悲しまねぇよ。あんな薄情者」
「あぁ〜拗ねてるんだ」
「拗ねてないし」
「前市が心配して来ないこと」
別に心配してきて欲しいわけじゃない。むしろ、来なくて気が楽だ。
でも、私の体はとてつもなく正直者で心臓が『そうだ!!優也が来なくて寂しいんだ!』とでも言っているかのように
強く鼓動を打つ。
「もうなんとでも言って」
「私悪いこと言った?」
「あたしなんでここに居たんだっけ」
「前市が心配して来ないから」
「多分お母さんとケンカしてモヤモヤしてたからだ〜」
「・・・・・・」
「そうだそうだ」
「奈緒ってさぁ」
「?」
「意地っ張りで強情っ張りで、そのくせ誰よりも寂しがりやの泣き虫だよね。」
「意地っ張りは認める」
「全部当てはまってるよ」
「当てはまってないよ」
理沙は呆れ顔であたしを見るといきなり立ち上がり私を置いてけぼりにし
さっさと屋上を出た。
なんだったんだ・・・今のは。
あたしは、意地っ張りの強情っぱりなのか・・・?
寂しがり屋で泣き虫??
分からない。自分が分からない。どうしたい?どうしてほしい?何を求めてる?
唯一分かることといったら私は相当のバカってことくらいだ。
ちょっとしてから誰かまた屋上に訪問者が来た。
誰かと思ってみればそこにいたのは優也で、一瞬ほっとした。
あぁ、あたし、放って置かれたわけじゃなかったんだと。
「寒くねぇの!?」
「寒くない」
「嘘付け」
優也は私の横に寄ってきてほいっとカイロを投げた。
カイロと優也の安心感が暖かかった
「何泣いてんの?」
薄笑いを浮かべながら優也が頭を撫でてきた
「泣いてないし」
「泣いてるじゃん」
優也は制服の袖で私の涙をちょっと強めに拭くと
背中を叩き出した。もちろん私の
「痛い!バカ!!」
「バカ!?元気付けてやってるんだろうが」
「はぁ!?」
反抗しながらも、ちょっと嬉しくて、反面ちょっと恥ずかしい。
複雑な思いが交差するんだ
優也の肩に頭を乗せてもたれかかった。安心する。
ずっと
このままでいたい
このまま時間が止まったら、動けなくてもいい。ただ、このままで
時が止まって欲しい
人をこんなに愛おしく思うなんて
やっぱり恋って恐ろしい。
けど、いいもんだな。恋って。こんなに簡単に幸せを感じられるんだ
そのまま眠りについて(寒いのに)気が付いたらもう外は暗かった。
ずっと優也は寒さに凍えながら隣で待ってたらしく、少し機嫌が悪かった。
軽く謝って、帰ることにした。
「ナショあの寒さの中でよく眠れたな」
「寒いと眠くなるって言うじゃん」
「しかも見事生還してるし」
「そんなので死ぬわけがないじゃないか」
「寒さの中で眠くなると人間死ぬんだぞ!」
ふ〜ん
軽く相槌をうって、空を見上げると雪が降ってきた
「うぉあ〜雪だ〜・・・」
「女らしくねぇ声あげんな」
「うるせぇ」
寒い。とにかく寒い。そりゃあ、雪が降れば当然寒いのは当たり前のことだけど
手の凍え具合は並大抵のものじゃない。
手をさすりさすり、優也の隣をあるく。
「手、寒いの?」
「うん」
「ナショのくせに」
「意味分からん」
「ほら」
優也は自分のブレザーのポケットを広げて私に入れろと催促してきた。
人様のポケットの中に手を突っ込んで歩くなんて
正直、考えられない。っていうか、恥ずかしくて歩くどころじゃない
「・・・・入れろって?」
「そうだよ。こっちも寒いんだから早く入れるなら入れろ!」
「・・・恥ずかしいよ」
「ならいい」
「いや・・・ちょっと待って」
自棄になりながら入れると、そこは想像以上に暖かくて、びっくりした。
優也の手と触れ合う。
寒さなんて忘れて、お互い恥ずかしさに黙り込んでいた。
・・・恥ずかしいけど、暖かい。
この手を出したら、どうなるだろう。
きっとすごくむなしいんだろうな。
優也の手が私の手を包んで、さらに暖かくなった。
むしろ熱くて汗をかいてきたくらい
家の前に着くまで、ずっと黙りっぱなしだった。
恥ずかしがりでお互いあんまりこういうのに慣れてないものだからか
じっと、その空気をまといながら歩いた。
「じゃあ・・・」
手を抜いた。
虚しさが手から全身へと響く。
「おう。また明日」
「明日ね」
「バイバイ」
心なしか、優也の後姿がなんだか切なげに見えた。
怖いものの、また一つ恋に溺れてしまった。
優也に恋をしている。
ただそれだけで満足できる。
あたし、生まれ変わっても、優也のそばにいたい。
心からそう思える。
嗚呼、17歳の冬。
幸せを感じています。




