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不死の令嬢の5000年の恋

作者: 冬眠
掲載日:2026/03/24

 昔々、とある国にリーリャという名前の公爵令嬢がいました。リーリャは可憐で聡明、しかもよく気が回る令嬢としてはこの上ないほどの才女です。そんなリーリャには、もちろん婚約者がおりました。その婚約者の名前はカインと言いました。カインもリーリャと同じ身分である公爵令息で、カインも剣術が上手で屈託のない性格をした美青年でした。2人はその当時は珍しい恋愛による婚約をしました。2人はそれぞれ公爵家の4女・4男だったので政略結婚のための婚約を強いられなかったのです。


 学園で出会った同い年の2人は卒業後すぐに18歳で結婚しました。リーリャはカインのことをとても慕っていましたし、カインもリーリャのことをとても信頼していました。これは確かです。2人はそれぞれの公爵家の政略などに巻き込まれることもなく仲睦まじく余生を過ごす……予定でした。


 そんな時、事件が起こります。

 リーリャに呪いがかけられてしまったのです。リーリャが湯浴みをしている時に肩に呪いの紋があったことで発覚しました。その呪いは夜会の途中にかけられた無差別なものでした。しかし犯人がわからず呪いを解くことは非常に困難でした。

 専門の魔術師によると、その呪いは「不死の呪い」。名前の通り、年も取らず死ななくなります。いいえ、正確に言うと「死ねなくなる」でしょうか。高いところから飛び降りようが、心臓にナイフを突き立てようが死ねないのです。

 また、今までこの呪いは犯人が特定できたため解呪をすることができていました。しかし、今回は犯人がわかりません。犯人も誰に呪いをかけたかわからないでしょう。


 カインは妻を守れなかったことを悔やみました。そしてリーリャに婚約の破棄を持ちかけました。ずっと若いままのリーリャにこれから老いていく自分は割に合わないと思ったのです。しかし、普段は優柔不断なリーリャがこの時は断固として反対しました。


「嫌です、私はカインと一緒に生きていくって決めているんですから。あなたが死ぬまで添い遂げます。それに、1人で生きていくのは寂しいです。あなたが生きている間だけでも一緒にいさせてください」


 カインは泣いて喜びました。リーリャが一緒にいたいと言ってくれたことがとても嬉しかったのです。

 2人は王都の公爵邸から辺境にある別邸に引っ越し、数人の使用人と共に慎ましやかに生活を送りました。カインはその生活の中で密かに解呪の方法を調べていたことをリーリャは知っていました。リーリャは限りある寿命を自分に使ってほしくない、と言えませんでした。カインの優しさを無下にしたくなかったのです。結局、解呪の方法は見つからないまま刻々と時間は過ぎていきました。

 それから5、60年が経ち、カインの死期が迫り始めました。カインの枕元の椅子に座るリーリャは18歳のままでした。


「なぁリーリャ」

「……何でしょう?」

「僕が死んだら君には好きに恋をして生きてほしい。……でも、もしまた生まれ変わって君と会えたなら。また一緒にご飯を食べたいし、デートもしたいし、くだらないことで笑いあいたいし、抱き合いたい。絶対に君のことを見つけに行く。……いいかな?」

「……はい」


 リーリャの目からは涙が零れ落ちていました。大切な人を亡くす悲しみに、これからの長い人生への不安。彼女の心はいっぱいいっぱいになっていました。


「じゃあ、また会おう」


 そう言ったカインは穏やかに微笑んでいました。その夜、カインは空へと旅立ちました。



 カインの埋葬が終わってから、リーリャは使用人への給料の支払いを終え、旅に出ました。生まれかわったカインを探す――のは少し早いかもしれませんが、外の景色を見てみたいと思ったのです。


 外の世界は未知であふれていました。知らない人に知らない町、知らない食べ物に知らない本。彼女は10年ごとに違う国や町を回り、いろいろなものを見聞きしました。「この食べ物はカインが好きそうな味付けですね」「次カインに会えたらここに住みたいです」。いつもリーリャの心の中にはカインがいました。

 また、リーリャはその長い寿命の中で研鑽を積みました。ある時は魔法を極めて冒険者になってみたり、ある時は薬草を育てて薬師になったり、また違う時には経済を勉強して商人になったこともありました。


「ねぇ、魔法使いさんは好きな人いないの?」


 彼女が魔法使いだった時、仲良くなった村の女の子の言葉に彼女はカインのことを思い浮かべました。


「いるんですけど、少し離れてしまって。今はその人のことを待っている最中なんです」

「へぇ! その人はどんな人なの?」

「優しくて剣術が得意でかっこいいんです。でも、食べ物の好き嫌いが多かったり、照れ屋だったり少しかわいいところもあって。そういうかわいいところに惚れたというか」

「魔法使いさん、その人のことすごく好きなんだね」


 女の子はリーリャの恋話を楽しそうに聞き、次に自分の好きな男の子の話を始めました。リーリャもその話をあいづちを打ちながら楽しそうに聞いていました。


 その後もリーリャは剣術を磨いて騎士になったり、動物になる魔法を覚えてきままに過ごしてみたりと楽しく日々を過ごしていました。それでも頭からカインが離れる日はありませんでした。


 そんなこんなで5000年の月日が流れていました。その間、リーリャは様々な職業に就きました。魔法技術もどんどん進化していき、離れたところに声を伝えられる魔道具なんてものもできました。



 ……6回でした。生まれ変わったカインと出会った数です。

 村の少女に、勇者パーティーの勇者、薬屋に訪れた患者、取引相手の商人、騎士団の団長、ついでに角兎。毎回カインに気づけているのは妻としての直感、そして左手にある同じ形の傷です。5人(と1匹)は揃いに揃って生まれつきのものだと言います。しかし、カインのそれはリーリャと初めて手をつないだ時に、リーリャが驚いて引っ搔いてしまったものでした。カインはその時、「目に入れても痛くないんだから、引っ掻かれても痛くないよ」と言って笑っていました。

 しかし、いつもカインはリーリャに気づくことはありませんでした。いつも他人でした。


 それもそうです。前世の記憶を持ち越すことなんて不可能なのですから。

 また、カインの人生を自分の呪いの解呪に使わせたことをリーリャは後悔していました。だからリーリャからも話しかけることができなかったのです。これからも2人がリーリャとカインとして顔を合わせることはないでしょう。

 それでも彼女は幸せでした。好きな人と時々でも会うことができるのですから。彼女は「こんなに幸せなことはない」と思っています。1度愛した人をいつまでも好きでいられるのです。


 まだこの1000年、いや5000年の恋は冷めることがないでしょう。

ちょっとメリバ?気味かもです(後出しですみません……!)。

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