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悪役令嬢に転生しましたが、前世のいじめっ子もヒロインに転生してきていたので、ゲーマースキルで逆転劇をお届けします!

掲載日:2025/10/02

私は死んだ。

しかも、考えうる限り最悪に近い、まさに「人生ってクソゲー」と思わざるを得ない死に方で。


私を殺した女の名は灰原。

思えば小学校の頃から嫌なやつだった。資産家の娘で、カースト上位のいじめっ子。

まさに絵に描いたような悪役令嬢だ。これが物語なら大きなしっぺ返しもあるかもしれない。

しかし、現実の悪役令嬢は強い。


こう言うのもアレだが、私はちょっと可愛かった。本当にちょっとだけ。

そして漫画やアニメが好きで、おとなしい子だった。

ほら、最近話題になってた短編アニメ映画の、あの子みたいな。


そんなオタク女子で社交性ゼロの私だったが、わりに男子からの人気があった。

それが気に食わなかったのだろう。私は灰原グループからいじめの標的にされた。


理由として浅すぎないか?


しかし、小学生のいじめなんてそんなものなのだろう。

理不尽な敵意によって私は不登校になり、10代中盤までは引きこもってネットと漫画、ゲームを謳歌する。


幸いにも中流で温かめの家庭に生まれたので、そこまで腐らず。

バイトができる年齢になったら仕事をし、20歳そこらで派遣社員になった。

仕事はそこそこやりがいもあり、定時で帰ってはゲーム実況を見て覚えたFPSで、撃ったり撃たれたりの毎日を繰り返していた。


そして数年後、第二の不幸が訪れる。

親会社から出向社員が新役員として来るという話が社内で噂されていたが、私は「ふーん」と興味を示さなかった。

その噂が現実になるまでは。


賢明な方はお気づきだろうが、この新役員があの灰原であった。

なんでも、親会社の重要クライアントが灰原家一族経営の会社で、政治的な意味合いもあって、なんやかんやでこうなったらしい。

お上の事情は知らないが、流石に勘弁してほしい。


久しぶりに見た灰原の顔は、あの時と変わらず…いや、あんなにはっきりした二重だったか?

それに不自然な鼻筋…。メイクで女は変わるのよ、というには無理のあるアップデートを果たした彼女だったが、吐き気を催す蛇のような眼光だけは、昔と変わらず健在だった。


流石に人生を狂わされたやつの下で働くのはキツい。

灰原に気づかれる前に退職した。

そもそも、そんな小娘を役員にする会社なんて危ないだろうし――という真っ当な言い訳もあった。


そしてまた引きこもりに戻った私は、現実から逃げるように四六時中オンラインゲームに没頭した。

青春と女の盛りと引き換えに腕前は上がり、どんな状態でも標的に弾を当てられる神エイムの能力をゲットしていた。


ゲームが上手いとモテるのは男子だけの話ではない。

一緒のチームになったプレイヤーからは「女性なのにすごい」「こんな子見たことない」と、令和的でないジェンダー発言の褒め言葉を賜わり、か弱き男どもを守る「オタサーの女騎士」として活躍していた。


いつしかeスポーツチームにスカウトされ、「これで飯が食えるなら」とメンバー入りした。

ゲームが上手いとバフがかかるのだろう、ちょっと可愛い私はまたモテた。

人生2回目のモテ期である。忌まわしき初回モテ期のようなことにはならず、同じチームの“人によっては刺さりそうなややイケメン”と付き合うことになった。

理由は「君の神エイムに惚れた」だって、所詮はオタクか。


ちょっと社会不適合なところも私と波長が合い、交際半年で結婚の話が出た。

正直人生を諦めていた私にとって、やっと良いことが起こった!

この幸せは離さないようにしよう!


と、大層幸福を感じる出来事だった。

人生経験の多い方は「こんなスピード婚、大丈夫?」と思うのではなかろうか。

しかし、こちとら20数年男性経験なし。

お互いゲームばっかりやっている非常識なカップルなのだ。

ちょっとした相似を運命だと感じ、切磋琢磨しながら成長し合える相手だと信じていたのだ。


相談できる友人というブレーキのない暴走列車は止まることを知らず、親も「落ち着いてくれるなら」と好意的だったため、ついには「明日、婚姻届を出しに行く」というところまで来た。


ゴールインまであと一歩、というところで――人生最後の不幸が訪れる。

またあの女、灰原だ。


私の彼は、人によっては刺さりそうな顔をしている。

そして、その刺さった相手がよりにもよって灰原なのだ。

なんでも、新しくeスポーツ事業に参入するべくリサーチしていたところ、たまたまうちのチームを見つけたとか。

彼の顔がドタイプだったらしく猛アプローチ。

彼は婚約者がいると言ったが、金と地位と重課金の美貌を持った相手にはなす術もなく、やられてしまった。

つまり、奪われたのだ。


この意志薄弱野郎!!


「ごめん、もう会えない」と電話口で言われた私は激昂し、「ちゃんと話をさせろ」と要求した。

結果、灰原を含めた3人で会うことになった。

3人で!!


吐き気と怒りで眩暈を起こしながら向かったのは、灰原の会社のビルの屋上だった。

人に見られて彼のキャリアに傷をつけたくないから、人目のつかないところで話そう――だそうだ。


「あの、ど、どうしてこんなことになってるんですか」


2人と対面し、嗚咽混じりにようやく搾り出した疑問は、降りしきる大粒の雨音にかき消された。


「初めまして。悪いけど、彼が私を選んだの。だから文句を言うのはお門違いじゃない?」


初めまして?あ、そうか。私のことなんて覚えていないか。

ずっと、ずっと私はあなたを忘れられずにいて、呪いのようにまとわりついて――

それでも一生懸命生きて、私なりに大切なものを見つけたのに。

それなのに、それなのにまた奪うの?


気づいたら声にならない叫びを上げながら、灰原の膝にしがみついていた。


「お…ぃがです!!おねがいでずから!!おねがいですから返じてくだざい!だいせづなんです!!これ以上奪わないで!!」


これには灰原も面食らったらしく、私はプラダのヒールで顔面を蹴り飛ばされた。


「お、おい、やりすぎだろう…」


意志薄弱男が何か言っている。


口の中に鉄の味を感じながらよろよろと立ち上がった私の胸ぐらを、灰原が掴んだ。


「ぐだぐだウッセーな! お前がいると邪魔なんだよ! 死ね!!」


突き飛ばされた私はビルから落ちた。


ああ、こんな風に死ぬんだ――と、やけに冷静になりながら遠くなる屋上を見ると、彼が屋上の端まで走り寄っていた。


今更遅いぞ! ダーリン♡


私は死んだ。


とまあ、私はこうして死んでしまったのだ。どう? 最悪でしょ?


「それは辛かったわねぇ」


真っ白い光の中で、青いローブを着たおばさんは私の手を握りながらしみじみと言った。


「そんなんじゃ浮かばれないでしょう」


そりゃそうだ。


「じゃあ次の人生、いい人生にしてあげようかね」


どうやらこのおばさん、霊的な…なんというか、高次元な存在らしく。私が死んだ瞬間に目の前に現れたのだ。


「新しい世界では、辛さが報われる素敵な人生を送れるように」


どっちにしても辛いんかい。


「あなたの新しい器はこれ。さあ、魂となってお入り…」


感覚的に何をすればいいか分かった私は、人の形をした光に体を重ねようとした。


ドンッ! 私は押しのけられ、別の魂がその体に入っていった。


「まあっ!!」


青いおばさんもびっくりしている。


「待ちなさい! あぁ! ああー!」


魂の入った体は星になり、新しい世界へとキラキラと落ちていった。

おばさんが必死で追いかけていったが、すぐに汗だくで戻ってきた。


「ぜぇぜぇ…まったく…なんなの、あれは」


はっ!と思った私は、私が死んだ現世の様子を見せてもらうように頼んだ。


すると案の定、駆け寄った彼氏に突き飛ばされる形で灰原もビルから落ちていたことが分かった。ナイスだが、相応の罪だぞダーリン…


つまり、さっきの魂は灰原の魂なのだ。なんてこった、幸せな来世まで奪われるのか私は!


私はおばさんにキレ散らかした。「管理を怠ったあなたのせいだ、どうにかしろ」と。


子供部屋おばさん候補生だった私はこういう時に強い。


「はぁ…分かったわよ。人は違うけど、新しい世界でも手助けしてあげるから」


話によると、新しい世界では人によってその役割が決まっているらしい。だから、さっき私がなるはずだった人にはなれない。でも、幸せになれるように力を貸す――ということらしい。

よく分からないが、ゴネ得だったようだ。


「この器に入って」


言われるがままに私は新しい器に入り、星になった。


新しい世界での人生の始まりである。


⸻


目が覚めたとき、私は重厚なカーテンと豪奢な天蓋付きベッドに包まれていた。


「……ここ、どこ……?」


目の前には見覚えのない白く美しい天井。

部屋の中にはレースをふんだんに使った家具と、使用人らしき人物の影。

いや、そんなことより自分の姿が問題だ。


鏡を見てみると、しっかり西洋少女になっている。ややブス寄りの。


転生したのは、中世ヨーロッパ風の世界。


幸いにも裕福めな家庭だったので何不自由なく成長はできた。


——そして、ほどなくして私は気づいた。


自分がシンデレラに出てくる悪役、“トレメイン夫人”の家に生まれたことに。

どうりでママンの目つきがわっるいはずだわ。暗闇で目が光ってるのママンだけだもん。


んで、私はシンデレラの物語における、あの「意地悪な姉」。

えー、嫌だなぁ、あんま幸せになれないじゃん。


ほどなくしてパパンが亡くなりママンは再婚した。

さて、幸せが確定しているシンデレラが義理の妹になった訳だが…


初めてシンデレラに会った時、私は凍りついた。


あの吐き気を催す蛇のような目つき…忘れもしない…


シンデレラは…灰原だ。

つまり、私は本来シンデレラに転生するはずだったのか。


「私の人生……またしても灰原に奪われた」


悔しい。殺された上に、今度は主役の座まで持っていかれるなんて!

だったら私は、徹底的に“役を演じる”ことにした。


いじめる姉として、完璧に。

復讐のため、物語の進行を崩さず、正史のままに——。


でも、ただのいじめじゃ物足りない。このままじゃ悪役令嬢という立場が変わっただけだ。

いくら物語通りとはいえ、このままじゃ灰原はまた王子と結ばれ、ハッピーエンドを迎える。


私は弓を取った。狩猟訓練と偽り、裏山で血の滲むような努力を続けた。


「風速……5.3m/s、射角42度……距離修正、±0.3m」


矢を放つたびに、脳内で弾道計算をつぶやく。

そう、 “いじめ”では足りない、“復讐”だ。


時に、「こんなにいじめてたらもう十分復讐では?」と思うこともあった。

毎朝歌ってうるさいんだよなあいつ、そりゃ意地悪したくなるわ。


だがすぐに思い直す。


殺された上にハッピーエンドなんて、許せるわけがない。

陰キャは死んだくらいじゃ性格変わんねーんだよ!


しかしある日、うっかり転生前の話を口走ってしまい、灰原にバレてしまった。

そんなに飲みたくはないのにスタバ飲みたい、とかつい言っちゃわない?みんな


「へぇ〜なるほどね〜、やっぱりそうだったんだ?」

灰原はニタリと笑った。


「でも残念ね。この世界は、ちゃんと“物語通り”に進んでる。最後に王子と結ばれるのは、私。アンタの負けだよ?」


キレるのが下手な私はこう言う時になんて言い返せばわからないので立場を利用するしかない。


腹いせにしっかり労働させた。


ちなみに私も灰原も、転生してから十数年。

中身はしっかり中年女性である。


いがみ合う私たちはもう少女でもなんでもない。

中年女の泥仕合は、なによりも醜い。


そして迎えた、運命の夜。

物語はシナリオ通りに進んでいく。


王子主催の舞踏会。灰原(=シンデレラ)は魔法のドレスを着て現れ、予定通り24時前に逃走。

王子は外階段で落ちたガラスの靴を拾おうとする——その瞬間!


「風速1.1m/s……射角41.5度……加速度計算、よし……!」


私が、王宮の最上部から放った矢が、キィンと音を立て空を裂いた。


ガシャーン!!!


見事に、ガラスの靴を貫いた。


「よっっしゃあああ!!!」

ガラにもなく大声で叫んでしまった。

これで結婚イベントは失敗!ざまあみろ!と安堵した次の瞬間——


「なにあれ!? 靴が……粉々……!」


走って戻ってきた灰原が絶叫する。

「魔法が解けようが何だろうが、私は運命のヒロインなのよ!!」


灰原が震える王子の前に進み出て言った。


「王子様、私はシンデレラと申します。

ガラスの靴が割れてしまったのは、24時を過ぎたからでして……

これは魔法の代償であり(以下もっともらしい言い訳略)」


だが、王子はそれどころではなかった。

ガタガタと体を震わせながら、空を見上げて叫ぶ。


「こ……こ、この……神エイムは……! 君なのかっ!?!?」


ん?王子がなんか叫んでる。やべ、バレたかな。


しかし次の瞬間


「え……」


私は唖然とした。


王子が激しく動き出した。

パンケーキが食べたいって言いながら拳を上下に突くあの動きを。


……って、えぇっっっ!?!?

それ、ウチのeスポーツチームの挨拶のジェスチャーなんですけど!!?


恐る恐る近づくと王子が私の名前を叫んでる。転生前の名前で——


「君なんだろ!? あの神エイムは君しかいない!! 僕だよ!! 僕も転生したんだよおおお!!!」


マジ!?王子ってダーリン!?


そう、あの時ビルの屋上で私を助けようと走ってきた彼。

実は灰原を突き飛ばした後、そのまま自分も転落して……死んでいたのだった。


そしてこの世界で、王子として転生してきたのだ。


「奇跡だよ!また出会えた!運命だよ!結婚しよう!!」


歓喜に満ちた王子の腕に抱きしめられる私。

その横で、放心したままの灰原。


「……うそよ……うそだってば……」


魔法が解け、みすぼらしい格好に戻った彼女は、抜け殻のようにうわごとをつぶやいている。

そのまま正気に戻ることはなく、王子の命により城から追い出された。


このまま物語はハッピーエンドに向かいそうなのだが、

そういえばあのおばさん、何の手助けもしてくれてないんですけど?全く出てこないし!!


そしてめでたく彼と結婚。

私とダーリンはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


……ま、ちょっとはスッキリしたかな。


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