アルはまた出会う 4400年前の出来事
アルは死んだ巨大な化け物の名前を『ギガ』と名付けた。
そして、その巨大な亡骸が横たわる跡地に村を築いた。
集められた住民には、ギガの死体を素材に加工するよう命じる。
それは単なる残骸ではなく、新たな資源だった。
ゲオに続いて現れたギガ。
アルは直感する、きっとこれで終わりではない。
次なる脅威に備え、もっと強力な武器が必要だ。
そう確信したアルは、長く続けていた旅を控え、この村に留まることを決めた。
そして、二度の転生をその村で過ごす頃には、その地は国へと発展していた。
百年を超える研究により、人々の加工技術は飛躍的に向上した。
その成果として、ギガの素材を生かせる技術が確立され始めていた。
そんな矢先、アルの住む王宮へ奇妙な報告が上がる。
小さな地震が頻発し、倉庫の地面の一部が盛り上がってきていると。
確かにここ何日か、王宮でも微細な地面の揺れを感じることがあった。
アルは過去の経験から、大きな地震がこの地に来るかもしれないと思っていた。
過去に、地形が変わるほどの地震を体験したことが何度もあるので、それの予兆かと危惧はしていた。
アルは国民に、大きな災害が起こるかもしれないので、避難準備をするよう指示をだす。
そして、高度な技術を持った職人を半数に分け、家族ごと国外へ退去させる。
過去に大規模地震による地割れなどによって、国が滅んだこともあったからだ。
その後、何度かの中規模な揺れ観測し、ついに大規模地震が起きた。
しかし、準備をしていた甲斐もあり、さほど人的被害も出ずやり過ごすことが出来た。
国民はアルを称えた。
神の知恵への賛美が、街の至る所で響く。
だが、その直後、アルの元へ緊急の連絡が走る。
倉庫に巨大な物体が現れたらしい。
アルが駆け付けると、倉庫は半壊していた。
そこには巨大な楕円の物体が、屋根を突き破り、地面に半分埋まるように鎮座していた。
それは、恐らく地震によって地中から押し上げられるように出てきたのだろう。
ザラついたその青黒い表面は、何かを思い出させる。
鳥の卵を思わせるその形状に亀裂が走った時、アルの脳裏に過去の記憶が鮮烈に蘇る。
そう、この倉庫はギガが倒れた場所だった。
ギガの死骸を運ぶのは不可能で、結局そこに解体した素材を置く倉庫を建てたのだ。
アルは、すぐさま武器と兵士を用意させる。
そして国民全員に緊急避難を指示した。
人々はアルの指示を受け、国外へ向け殺到する。
アルと、集めた百人以上の兵士は、武器を構え罅の広がっていく巨大な物体を囲み、最大限に警戒する。
岩が割れるような音と共に、青黒い殻が割れ『ソレ』が姿を現した。
体は、生まれたてを示すように卵液にまみれていた。
しかし、テラテラと艶を纏う深い青の鱗とその巨体は、すでに完成されていた。
その巨体を大きく身震いさせ、体に付いていた液体を剥がすと、背を反らし咆哮する。
その瞬間、衝撃波が奔る。
兵士たちはそれに当てられ、恐慌状態に陥った。
混乱の渦の中、アルは一切の躊躇なく飛び掛かる。
巨体に向け、武器を勢いよく振り下ろすアル。
しかしその刹那、ソレは巨体に似合わぬ俊敏さを見せ、横に飛ぶことで躱した。
巨体の先にいた兵士が、悲鳴を上げる間もなく吹き飛ぶ。
そして、アルと化け物は対峙した。
その大きさはゲオよりひと回り小さい。
腕と足の太さもそこまで変わらず、這うように構えるその姿は、獣を思わせる。
その尾は長く、鞭のようにしなりこちらを威嚇する。
そして、頭部はゲオによく似ていた。
しかし、ふた回りほど小さくなったその頭部は、より俊敏になった攻撃を予感させる。
ゲオと同じ金色の瞳。
その鋭い視線が、じっとこちらを射抜く。
化け物は、攻撃をしてきたアルを警戒しながら、ゆっくりと動き出す。
体制を立て直した兵士達が再度包囲する。
一触即発の空気の中、アルの号令で兵士達が一斉に攻撃を開始する。
化け物はその場で回転し、しなる尾を使い、迫る兵士を弾き飛ばす。
さらにその腕を振り上げると、その巨大な鋭い爪で人体を易々と引き裂く。
アルへの注意を切らさずに、次々と兵士達を蹂躙していく化け物。
アルは、その姿を鬼気迫る表情で見つめていた。
ほんの数分で、百人いた兵士は片手で数えるほどに減ってしまった。
だが、そのおかげでヤツの動きは十分に観た、今の自分の力なら倒せる。
そう確信したアルは、化け物の動きに合わせて攻撃を開始する。
そして、戦いが一時間を過ぎた頃——先に膝を着いたのはアルだった。
速さには付いていける、攻撃も当たる、躱すこともできる。
しかし、体力が底をついた。
兵士の姿はもはや無く、一騎討のまま戦い続けたアルは、敗北する。
その怪物は、自身も少なくない傷を負いながらも、勝利を確信し満足そうに眼を細めた。
そして、ゆっくりとアルに近づき、真正面からじっとアルの顔を見つめる。
その目には、何かを確かめるような色があった。
化け物は納得したように、立ち上がるとアルを頭上からひと噛みで殺した——。