目指す背中 【月夜譚No.359】
一体何処からがテストだったのか。落ち着いてゆっくりと思い返してみても、その境が判らない。
少年は縁側の欄干の間から足を投げ出したまま、身を捩って背後の部屋の中を見遣った。彼が師匠と仰ぐ妙齢の女性が、酒瓶を片手に笑いながらこの神社に仕える神使だという狐と談笑している。
彼女に弟子入りしてから数年経つが、未だに何を考えているのか判らない人だ。気が向かないと何も教えてくれないし、かと思えば突然引っ張り回して無茶な難題を吹っかけてくる。お陰で力はついてきたが、正直まだ判らないことだらけだ。
正面を向いて顔を上げると、暗い夜空に大きな満月がぽっかりと浮かんでいる。それを見て思わず甦るのは、風に裾を靡かせた頼もしい背中だ。
あの時、少年は恰好良いと思った。あんな風になりたいと思った。
月に手を伸ばし、拳を握る。しかし、そこには何も掴めない。
まだまだあの背中は遠い。けれど、一歩ずつ近づけている実感はある。
今日もテストには合格できたようだし、また一歩、前に進めた。
師匠の笑い声を聞きながら、少年はそっと口元に笑みを浮かべた。