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第8話、いざ、千歳ダンジョン

彼女たちは魔力が存在するダンジョンの影響下にある地に一歩でも踏み込めば その瞬間から一流の戦士に変わり、周りの男たちの対応も違ってくる。


ただし、オレに対するヘイトは変わりなく、むしろ外よりも実力行使の可能性が高いため油断ならない。


表面(おもてづら)は善良な一般市民を演じているくせに オレとすれ違いざまに熱い拳を一発腹に入れてこようとするから陰湿で(たち)が悪い。



「やぁ、深緑の方々 ボクたちと一緒に探索しないかい。

同じ階層ランクのメンバーなら守ってあげる必要も無いしさ。どうかな?」


出た、ナンパ野郎。


恥ずかしいセリフを自然体で言ってのけるキモイ奴。


「守ってあげる必要も無い」とか言うあたりでオレの方をチラ見していたし、

オレと比較して自分たちが上だと言いたいらしい。


この手の男は断ってもネチネチと付き(まと)うだろう。


メメ達の今後の為にも あと腐れ無く撃退してあげよう。


ダンジョンの中では外の常識は通用しないのだよ。


口先の嫌がらせなら報復されないと誰が決めたのかね。くっくっくっ


こつそり魔法発動。



「お断りですよーん。同じ階層ランクって嘘なんでしょ」しっしっ


「えっ、本当だよボクたち・・」


「それ以前の問題じゃ‼。

血の匂いを振りまいている者と一緒に探索パーティを組むバカはおらん」


女性陣は全員がジト目で見ている。


ナンパ野郎の股間を・・


「うああーっ、何だこれぇ」


薄いグレー色のズボンにはタップリと血が滲んでいた。


まるで血の小便を漏らしたようだ。


ただし、女性たちが その姿を見た感想はオレとは違った。


「あなた・・その見た目で女性だったのですね。探索しやすいように男装するのは良いのですが・・

その・・あの日でしたら家で安静にされた方がよろしいですよ」


「あっ・・・あの、・・これは・・」


「匂いで魔物を呼び寄せますから今日は探索しないで下さいね」


ぷっ、自信満々にナンパしたのに女だと思われ、美少女たちから可哀そうな目で見られ、心配されて注意されるとか・・キツイわー。


しかも、衆目の中でだ。


恥ずかしさも跳ね上がるだろう。


ナンパ野郎は軽く頭を下げてから逃げるように走り去っていった。


一生忘れない黒歴史だし トラウマになるかも・・


男として立ち直れるかな・・。


そのまま「オネェ」になったり。くっくっくっ。



などと、腹の中でザマァしてたら今度はオレが皆からジト目で見られていた。

あれっ?ひょっとして バレてたのか・・さすが元勇者パーティだ。


「さぁ。時間が勿体ない、行こうぜ・・(笑)」


TS少女の轟 鏡華(とどろききょうか)が 何事も無かったように注目されていた視線を散らしていく。


この辺りは多くの場数を経験している者の落ち着きなのだろう。


他のメンバーも落ち着いている。表向きは・・・。


内心では興味津々らしく歩きながらボソボソと会話を始めた。


(真は凄いのぅ、誰にも気付かせずに魔法を使えるのじゃな)ヒソヒソ


(何で、あれほどの血が出るケガしてるのに本人すら気が付かないんだよ)ヒソヒソ


(傷つけずに血液だけ転移・・いえ、それなら絶対に気付かれますわ)ヒソヒソ


四人の少女たちは男の存在など無かったかのように一切気にもせず情報分析をしている。


彼女たちの関心は唯一「どうやって?」という謎解きに向けられた。



どうやって?


今はまだ周りから注目されているので話すのは非常にマズイ。


オレ 藤原 真は他人事のように沈黙したまま最後の準備に向かうのだった。




などとカッコ付けてはみたが、活動のホームベースが千歳ダンジョンである彼女達と違い

オレの個人ロッカーなどここには無い。


つまり オレは いつも使っている探索用の装備が無い。


ただでさえ寄生虫に見られているだろうに 普段着でダンジョンに入るなど顰蹙(ひんしゅく)を買うどころではない。


悪目立ちして名前まで拡散したら平和な探索生活はありえない。


とりあえず更衣室を占拠して対策を考えている。



とは言っても選択肢は一択なのだが・・それはそれで問題なんだよな。


何とかするしかないか・・・。


先日解放された「秘匿(ひとく)ストレージ」を開いた。


パッと見ても存在感の有る高性能な装備達が(そろ)っている。


その中から一番地味な防具を装備してみた。


武器も普通に見える直剣を装備する。


これもゲームで言えば Rレア装備であり付与されている性能も普通ではない。


装備を全て身に着けると肉体がブーストされていくのを感じる。


久しぶりに味わう 能力が跳ね上がる時の全能感・・・。


あーっ、こりゃあ凄いわ。


ブーストがハンパ無いわ、久々に味わう強者の感覚だ。




バカな現実逃避はほどほどにして、これなら まぁ一風変わった一般の防具で誤魔化せそうだ。


保険で装備の鑑定が出来ないようにジャミングすれば問題無かろう。


ただなー・・・異世界の記憶が残っている彼女たちにはバレるだろうな。ははっ





「「「「‼?」」」」


「色々と質問したいだろうけど 他人の耳目が有るうちはノーコメントだからな」


案の定、着替えて合流した転生女子4人はオレの装備の出所に気が付いたようだ。


好奇心が爆発寸前だろうけど懸命にも堪えて平静を装っていた。


早く色々知りたいのか狩場の一層目に入るなり 走るように次の階層を目指している。


この分だと誰もいない深い階層まで最速で行きそうだ。




「やはり何組かストーカーが付いていますね。何層まで付いて来れるかしら」


「今まで男子を寄せ付けなかった私たちのパーティが男のマコっちゃんを(はべ)らせてたから自分たちもチャンス有ると勘違いしたんじゃないかなー」


侍らせるって・・やっぱ そう見えるのか・・複雑な気分だ。



「この探索速度に付いて来れる程度には実力者らしいのぅ」


「俺たちが露払いしてるんだし当然じゃね」


今は午後の2時と少し。ほぼ1時間で既に5階層を終えようとしている。


モンスターが出ようがペースを変えずに全て彼女達だけで蹴散らして何の障害にもならない。


オレはただ走っているだけだ。寄生の鏡だねぇ。


ここの最深レコードが15階層とか不自然だろ。


やはり彼女達は手を抜いている。



しかもだ、彼女たちの武器防具は上等な品物ではあるが前世で言えばノーマルと言えるほど悲しい性能でしか無い。


「秘匿ストレージ」に入っている高性能な装備を渡したならどうなるか・・・。


ダンジョン全てを余裕でクリアしてしまうだろう。


それは即ち 日本だけでなく全世界から注目される事を意味する。


他の国々も自国にダンジョンが生まれるのを危惧しているらしいからね。



次の6階はオークがメインとなる狩場。


下りは階段では無く坂道を下っていく。


降り立った階層は大き目な部屋を廊下で縦横に繋いだような構造になっている。


部屋と言っても粗雑な削りで掘られた石造りの空間だ。


スペースは広く槍や大剣を使う人なら戦いやすいと思う作りになっている。



ここでも彼女達は苦も無くオーク達を撃破していく。


しかしなぁ・・何事にも理論づけたい学者さんたちはオークが消えた後に肉をドロップする現実を見たとき発狂するんじゃないかな?。


それくらい異常で気味が悪い光景なのだ。


「そういうものだ」と思うしか無いのだろうな。


などと暢気(のんき)に探索していられたのはここまで。


異常事態は予期できないから異常なのだ。



「なっ、これは‼」


一瞬だが赤いランプが点滅したように視界がユラめく。


「トラッブが作動した現象じゃ、誰か引っ掛かったのぅ」


皆が一斉にオレを見ている。


信用無いな・・無理も無いけど。



「マコっち・・・・」


「オレじゃねーぞ」


うわあああーーーっ、


少し遠くから悲鳴と戦闘音が聞こえてくる。


それ以上に多数の魔物の気配が感じられる。


「マズイぜ、これ。前方の部屋と後ろの部屋に大量の魔物が湧き出た。

ゲームで言うところのモンスターハウスってやつだ」


轟 鏡華は魔物の気配を察知できるスキルを持っているのか危機的状況を告げる。


だけど現実はそれ以上に過酷だった。


何と全ての部屋に大量のオークが湧き出ている。


ハウスどころでは無い。モンスターシティ(笑)だな。


たまたま廊下を進んでいたオレ達は湧き出た瞬間にカチ合わなかったが、もし部屋に居たなら突然魔物に取り囲まれた状態になる恐ろしいトラップだぞ。


悲鳴を上げたのは後ろから付け回していた奴らだろう。


トラップを作動させたのも彼等なら同情の余地は無い。



まぁ 本当ならピンチなんだがパーティの少女達は皆が落ち着いている。


そこが経験の差と言えるだろうか・・


この程度の危機は何度となく切り抜けて来た自信なのだろう。


でも 全員無事で帰るなら少し不安ではあるかな。


特に武器は最後まで耐えられないだろう。



溜息が出るなぁ。


運命が意地悪だ。


このタイミングでダンジョンに居て、オレが同行している。



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