第67話、最強の覗き魔
宮内庁長官 南条 光正は大役を果たして落ち着いたのか
今は普通の老人のように穏やかな表情をしている。
「藤原君、こちらの要望を飲んでくれて助かったよ。心から礼を言いたい」
「はぁ・・・俺も日本が平和な方がありがたいですから。
それに何の負担も有りませんし」
これで国の為に無料で働けとか言われたら対応を考えるけどね。
「君たち若い世代は皇室に対して反感とか無いのだね。最高だ・・・
戦後70年以上掛かって やっとここまでたどり着けたよ」
年寄りの昔話かな?
「少し前までは他国の謀略で日本国内にも多くのデマが流れていたのだよ。
今でも他の国でデタラメな日本の悪口を言いふらす奴らが居るだろう。
私達はそんなウソの情報を無くそうと苦労したのだよ」
そう言えば、外国で悪事を働いて「自分は日本人だ」と
デタラメを言うクソ野郎の記事をネットの情報で見た事が有るな。
コンコン☆
ん、誰かきた?大事な話は終わったようだし俺は帰ろうかな。
「・・・どうぞ」
カチャッ☆
「失礼するぞ、話は上手くいったようだな」
「えっ、白鳳院様!。何故、貴方様がこのような所に?」
「愚問だな、国家の命運がかかった交渉だぞ。
リアルタイムで結果が知りたくなるだろう。
むしろ、私を同席させかった事に悪意さえ感じるがな」(笑
「いえ、けっして悪意など・・・」
変な茶番劇が始まった。
言葉使いは男子のソレだが、部屋に入って来たのは女の子だ。
身長は140位、腰まで届く長いストレートヘア。
見た目の年齢からすると中学一年程度かな?。女の歳は知らん。
幼女じゃないのは助かるが、何故 子供がここに?
しかも、南条のオッサンが明らかにビビってるし・・・
まぁ良いか、触らぬ女に祟り無しだ。
「用件は終わったんだよな、なら俺は帰るよ」
「待たぬか。私もおんしに用が有るぞ。深淵の引導師ティート・セレデティア」
「・・・お前、何者だ?」
もちろん、俺が聞いたのは今の話では無い。
前世の俺を知ってるこいつは転生者であり、問題なのは前世の事だ。
前世の俺は不本意な二つ名が付くほど有名だが、それは同時に多くの敵が居た事を意味する。
この女の返答次第では今後の対応も変わると言うものだ。
「これ、藤原君 失礼ですぞ。
この方は先ほど話した大巫女 白鳳院 司華様です」
「シカ?面白い名前だな」
「お主、微妙に発音が違うぞ。奈良の公園に居る奴らと同じにするな」
「悪いな、今 せんべいは持って無いんだ」
「ははは、相変わらず太々しい男だな」
「あ、あの・・・大巫女様?」
可哀そうに、宮内庁長官の南条 さんは訳が分からずオロオロしている。
≪ひさしいのぅ、ティート。私が誰か分からぬか?悲しいぞ≫
≪念話!・・・大巫女とか、それ スキル使ったペテンじゃないのか?≫
≪そのスキルを普段はどこで使ってると思う?私は探索者共とは違うぞ。
前世でもこの世でも私は高貴な生まれなのだよ≫
は?、こいつも外で能力が使えるのか!。
≪さて、あまり焦らしても良くないな、そろそろ自己紹介をしよう。
我の前世は大国シュレンゲティアが女王、
マグダレーナ・フィフィス・シュレンゲティアだ。思い出したか?≫
「・・・思い出したぜ。マグダレーナ《《王女》》、ここで会ったが百年目だ‼」
ザンッッ☆
「ふっ、私の特殊能力すら忘れているようだな。
お主の凶悪な魔法でさえ私には効かなかったであろうが」
白鳳院 司華を殺すつもりで放った魔法、次元素の鎖は彼女の後ろの壁を切り裂くに終わった。
少し記憶の封印が解けた。
そして思い出したく無いものまで鮮明に思い出してしまった。
前世の俺が死んだ原因はこの女だ。
「そうだった・・・お前は魔法を完全無効化する変態だったな」
「私にそんな口を利くのも、王女と呼ばれるのも懐かしい響きだ。
私はお主の死後、女王に即位したからな・・・
会いたかったぞ、愛しい婚約者殿」
「ななな、何ですとおぉぉっ!大巫女様に婚約者ですとぉ。何時の間に」
「南条さん、本気にするなよ。
こんなアタオカなのを厨二病の妄想って言うんだぜ」
騒がれても困るので南条さんには誤解しててもらおう。
幸いにも彼は厨二病の事は理解しているようだった。
「つれないのぅ、私のフィアンセは相変わらずだ」
このストーカー女、まだ前世の執着を引きずってるのか?
生まれ変わったんだし他にも男は沢山居るだろうに、
わざわざ俺に関わって来るなよ。
「ふっ、そう邪険にするものではないぞ。
むしろ、私に最初に言うべきなのは感謝の言葉であろう」
「あぁ?、殺してくれてアリガトウだな」
前世のこいつは俺が靡かないのを怒って、国家権力を使って俺を塔に幽閉したのだ。
塔に閉じ込められるのは御姫様と相場が決まっているだろうに。
「それは・・・言わないでくれ。あれは私とて予測が出来なかったのだ」
「じゃあ何が言いたい、感謝する思い出が微塵も無いが?」
「豊条院 芽芽 と引き合わせてやっただろう。
彼女にお主の居場所を教えたやったのは私だぞ」
なるほどな、いきなり拉致されて疑問だったが アレもこの女が原因かよ。
「メメ達と出会えたのは確かに嬉しいが、感謝するほどじゃ無い。
別の人生なんだし、お互いに知らなくても何も問題は無かったはずだ」
「そうか?・・・生まれ変わったのだし そうなるのか。これは失敗したな。
私としては仲を引き裂いたお詫びのつもりだったのだがな」
仲を引き裂いたお詫び・・・兄妹を引き裂いたから?
「はぁ・・・それもまだ思い出せぬか?。
前世でお主ら兄妹は相思相愛の仲だったのだ。
この変態、近親相姦野郎」
なにいぃぃぃぃっ!
「ちょっと待て、前世の世の中は呪いで男は女に興味無かったはずだぞ。
まして妹に手を出したと言うのかよ。ありえないだろ!」
「そう、普通ならな。だが 思い出してみろ、お主ほどの魔法使いが魔王の呪いを
無効化出来ないはずが無いのだ。
恐らく妹のファーリアに頼まれて呪いを解除する魔法を作ったのだろう」
思い出せない・・・そのあたりの記憶が抜けている。
「そのへんは思い出せない、だが、それが原因で俺を魔封じの塔に幽閉したのか?
さすがに魔封じのアイテムと建物で二重に封印されてたから・・・ドラゴン?
あれっ?何か思い出せそうな・・・」
「まだ記憶が断片的なようだな。・・・今日はここまでにしよう。
明日 私が直々にお主の家を訪ねるゆえ、望むなら その時に抜け落ちた記憶を
埋めてやる」
コンコン☆ コンコン☆
「失礼、南条さん 政府から緊急の招集がかかっています。至急連絡をとの事」
ドアのノックもそこそこに飛び込んで来たのは七飯ダンジョンの【日本秘境探索センター】 所長 鮫島 五郎だ。
実質、この新しい街のトップなのに社畜社員のように やつれた姿をしている。
「落ち着きなさい、所長。上の者が 自ら騒いでいたら部下に混乱を広げますぞ。
何が有ったのです?」
「そ、そうでしたな。醜態でした」
ふーっ、と落ち着いてこちらを見て話しだした内容は・・・
「ロシアが核ミサイルを撃ち込んだダンジョンから今度は巨大な魔物が出現。
モスクワが・・・消滅したそうです」
「なんですと!」と驚く南条さん。
「ほぅ♬ 」と楽し気なシカ。
「ふーん」と興味の無い俺。
それぞれの立場や気質が表れた三者三様の反応が返される。
「今度の魔物も飛行タイプで移動が広範囲で、付近の町や村はほぼ全滅。
魔物は蛇行しながら手当たり次第に黒い炎を撒き散らしています。
穀倉地帯も壊滅。かの国は今後、農業生産が半減すると予想されるとの事」
「ちっ、また物価が上がるな。それで、魔物はまた日本を目指してるのかな?」
「前回の魔物のように明確なコースで我が国に向かってはいませんが、
このまま進めば いずれは日本に到達するかと」
「放置は無理か・・・今後は地上世界の勢力図も大きく変わるだろう」
「ははは、ならば私が観てしんぜよう」
と言うなり、白鳳院 司華は窓の無い壁を見つめている。
「天限通だったか、それって千里眼のスキルじゃないのか?」
「違うぞ。情報量がケタ違いだし、見ようと思えば別の世界すら見える。
例えば死後の世界とかな・・・面白くも無いから見ようとは思わないが」
「最強の覗き魔だな」
「バチ当たりめ、( ̄∇ ̄;)ハッハッハ」
≪やはりな、アレは前世でお主を殺した奴だぞ。
こちらの言葉で表すならカース グールドラゴンの名が適切だろうな。
お主が今も呪いに掛かっているのはこいつのブレスで死んだからだ≫
≪それは それは、今日は ずいぶんと因縁の相手に関わる日だよ≫
≪歴史は繰り返す・・・と言う事だな≫
≪また俺が死ぬみたいなフラグ立てるの止めろや≫
≪それはあるまい。
今のお主には魔力の封印など無いのだぞ。
全力の魔法をぶち込めば良かろう≫
≪全力でメテオ打ち込めって?w≫
≪・・・・・・!≫
この後、急に慌てだした司華は土下座しそうな勢いで
「全力の魔法はダメだ。止めてくれ」と俺に懇願していた。
彼女の目には何かが見えていたのだろう。(笑




