第60話、ピュア? ヒーラー
ここは大セイフティエリア内に出来たファミレス。
それもパーティで打ち合わせが出来るように作られた個室だ。
ダンジョン探索から戻った俺達4人は早目の夕食をとっている。
「意外と美味いな。一人だとこんな店は敷居が高いから久しぶりだ」
「なに 言ってるかな、藤原君はハーレムパーティで来てるくせに」
「ハーレムパーティ言うな、俺はソロだ。外食する自体久々なんだよ」
「むぅ・・・ずるいです。師匠、責任取って私ともデートしてください」
茉莉野 毬奈、莉々奈の姉妹は盛大に誤解しているが深緑の鏃の4人と
外食する事なんてほとんど無いぞ。
ましてファミレスに入った事は無かった。
前世の生活を思い出すのか 彼女達の普段の食生活は質実剛健で質素なのだ。
「コレモ オイシイ。ミセ、キレイナ トコロデス」
まだ難しい日本語が分からないアフリカ出身のアルサは食事に夢中でマイペースだ。
「それはともかく、これが今日のアイテムの換金した取り分だ」
女子三人はそれぞれに3万6千円が今日の収入として渡される。
探索時間が短かった割に臨時収入としては良い方だろう。
黒オークの魔石はそこそこの良い値段で買い取られるからね。
「あれっ、藤原君の取り分が少ないじゃない、おかしいよ」
「俺は10階層からの参加だから、それ以降の分け前はちゃんと貰ってるよ」
ちなみに俺の取り分は2万くらい。
ただし、それとは別に午前も働いてるからな
当たり前だが全部合わせた金額は彼女達よりも多い収入だったりする。
藤原 真はすでに学生では無くプロの探索者だから当たり前だ。
「スゴイ、ワタシ レベル15ニナッタ」
「おめでとう。それを踏まえて、今後の事だけど
通訳しながらだと話がややこしいから先に念話で
アルサさんと話し合ってから茉莉野さん二人には結果だけ話すよ」
茉莉野姉妹は「へっ?」と驚いていたが・・・
「ふっふっふ、その心配は無用だ藤原君。
ダンジョンの中、二人だけで話しててイラッとしたから
私達二人も念話のスキル取ったんだよ」どやっ
≪驚きましたかマコト師匠。これで私も会話に参加できますよ≫
おいおい、貴重なスキルポイント使ったのか?
≪心配しなくても無駄にはならないよ。
今後も姉妹でダンジョン入るし、万が一はぐれても連絡できるっしょ≫
二人とも すでに念話を使いこなしてるし。
≪それもそうだな、二人で協力していればスキルの取り方も変わるか≫
ソロで探索してると必要なスキルをギリギリ無駄なく習得しないと危険だ。
そんな俺の考え方には余裕が無かったかも知れない。盲点だった・・・。
≪ま、二人にも聞いてもらった方が話が早いから良いけど、
まず要点から言うとアルサさんの特性は魔法使いではなく純粋なヒーラーだ≫
≪ゲームで言うところのプリーストって感じで良いの?≫
≪ああ、その認識で間違い無い。
いずれ探索が進めば 本来なら必要不可欠な存在に成る特性だよ≫
≪私が聖職者の特性なんですか?。結局・・・戦えない特性なんですね≫
≪良かったじゃない。もうパーティから追い出される事も無くなるわよ≫
≪そう甘く無いな。リアルな世界で聖職者特性はかなりマズイ事になるぞ≫
≪どうして?、一番平和的な特性だと思うけど≫
≪分かり易く言えば利権の問題だ。こいつはドロドロしていて奥が深い≫
≪回復に関する利権って言うとお医者さんとか製薬会社なんかの事かしら?。
魔法で回復できると言ってもあくまでダンジョン内の事よ。
そんな事でいちいち目くじら立てないでしょ≫
≪そうかな。怪我ならヒール、病気にはキュアだったかな。
どちらも魔法を使えば一瞬で回復するんだぞ。
重症患者は今後、病院では無くダンジョンに運ばれるように成るだろう≫
≪でもマコト師匠、ヒールで治せるのはちょっとした傷くらいですよ≫
≪それは俺達魔法使いが使うヒールだからだ。
純粋なヒーラーが使うヒールなら初級でも骨折くらいは瞬時に回復できる≫
≪骨折を直ぐに治せるんですか?私の魔法・・・≫
≪そう、病院で適切な治療をしても骨折が完治するまで長い時間がかかる。
仕事などで早く治したい人がどちらを選ぶかは言うまでも無いだろ。
病気ならなおの事はやく治す方を選ぶだろう。医療関係者は大混乱だ≫
病気なんかはもっと顕著だぞ、なんせ癌や糖尿病まで完治するからな。
≪お医者さんのドラマでも 利権を巡ってドロドロの権力争いしてるしね≫
≪探索が進めばケガも大きくなるから低品質のポーションでは
間に合わなくなるのが目に見えている。
今後は純粋なヒーラーを求めて争奪戦に成るだろう≫
≪アルサにとって良い事じゃないの?≫
≪今のところ、俺が知ってる純粋なヒーラーはアルサ一人だけだ。
恐らく今回みたいに自分を魔法使い特性だと誤解して挫折しているんだろうな。
分かるか?、世界にたった一人だけだ。それを手に入れる為なら殺し合いに成る≫
≪マ?、怖いんです。普通の探索者に成りたかったです≫しくしく
≪師匠、またアルサちゃん泣かせたね。責任取って何とかするべき!≫
≪莉々奈、師匠として一つだけ教えてやる。
責任という言葉をしつこく使っていると男に嫌われるぞ≫
「「えっ、ほんと?」」
姉妹で驚くなよ。
その言葉に縛られ、仕事でプレッシャーを受けている社会人の男にとって
私生活で何度も使われたら相手を嫌になるだろう。地雷言葉だと思う。
≪とりあえず、アルサの事を心配して今こうして密談してるからな。
純粋なヒーラーを続けていれば大人気に成って死ぬほど働かされるし、
下手すると奴隷のように酷使されかねない。そんなの嫌だろ?≫
コクコク ≪嫌です、普通に生活出来るだけで良いです≫
これって、自己顕示欲が強い人なら喜んでヒーラーを選ぶんだろうな。
≪それなら、このままハズレの魔法使いの振りをすれば良い≫
≪魔法使いのフリ、・・・魔法使いに成りすますって事?≫
≪ああ、今後レベルが上がっても回復魔法はヒールとキュア以外は選択しないで
他の便利な魔法を習得するんだ。それだけでもパーティでも活躍できるからね≫
ハイヒールとか高度な回復魔法何て使ったら誤魔化しようが無い。
注目されて逃げられなくなるだろう。
特に医療が発展していない国では便利に使われて忙殺されるのがオチだ。
≪ただなぁ・・・本来の特性がバレたら本国に連れ戻されそうなんだよな≫
≪えっ、ワタシ帰りたくないです。日本で探索者して親に仕送りしたいです≫
≪なんだ、そんなの亡命すれば良いじゃん≫
≪いや、今後は日本も亡命移住者に厳しくなるから難しいぞ≫
≪私の親はソレ関係の公務員だから移住のプロなのよ≫
≪それなら良いけど、ついでに責任取って茉莉野さんとパーティ組めばいいよ。
二人とも前衛の攻撃タイプだろ。今後、深く探索するなら大ケガする可能性も有るし後衛のヒーラーは必要だと思う。嫌なら俺が深緑の鏃に推薦してやるし≫
≪その必要は無いわ。アルサちゃん、パーティに入ってくれる?歓迎するわよ≫
≪嬉しいです。よろしくです≫
これなら茉莉野姉妹の安全は爆上がりだ。お互いに良かったな。
えっ、ダンジョンの呪いで貞操逆転の危機はどうしたのか?・・ですか。
そんなの藤原 真には今更な事なのでどうでも良いんだよ。
すでに恋愛願望も結婚願望も消滅している独身主義なんだから。
何やら実現不可能な計画を企んでいるメメ達はアタフタと各地で事の重大さを
訴えている。
だが、人類が地球上に増えすぎた事の自己防衛で種族的に少子化へと
移行している社会なのだよ。
このタイミングで男性側に性欲が無くなるのも自然の摂理だと俺は思うぞ。
要するに、無駄な努力。無駄な抵抗なのだよ。ふはははははっ。
少なくとも今の人生が終わるまでは社会に大きな変化は無いだろうから
他では有り得ないエンタメ文化を堪能させてもらうさ。
今度の人生は順風満帆なのだよ。
世の人々はこんな何気ない、油断したセリフをフラグと呼んだそうな。




