第51話、前世のダンジョンは恐ろしい?
轟姉妹の父親の用件で七飯ダンジョンに来ていたが、
疑問は解消されたので神主のオッサンにはお帰り願った。
「じゃあマコっち、またあとでねー。エルルにもよろしくー」
轟姉妹は父親に親孝行?すべく同行して観光案内するらしい。
藤原 真は約束通りダンジョンコアに魔力補充をするべく
ダンジョン最奥の空間まで行く事になる。
オリハルコンのインゴットが欲しい豊条院 芽芽 と琴平 涼香もそれに付き合ってくれる。
今後は前世のハードなダンジョンが発生する事が決定している。
それを攻略するなら本気で戦う必要が有る。
彼女達も初心に帰って体を鍛えたいのかも知れない。
**************そしてダンジョン最奥
「ふうっ、あのチッコイ体を維持するのは存外 魔力の消費が激しいのよ」
七飯ダンジョンの人型、アバター?は今のところ中学生ほどの姿に成っている。
「もう少しで100階層に到達ですか。
ダンジョン内部の充実にもガンバッテルみたいですね」
「もちろんよ。侵略型ダンジョンがテリトリーに入らないように もっと強く、
大きくならないと危ないからね」
ん!、テリトリーは盤石ではない?
「その言い方だとこの国にも進入してくる可能性が有るのか?」
「可能性はゼロじゃないよ。
一番心配なのは住人が望んで受け入れてしまう事ね。
思念の流れに乗って入り込む可能性も出て来るから」
前世のダンジョンは難易度が高いからな。
その手のダンジョンが日本に出来たら遠慮無くコア破壊できそうだ。
「だからね、能力アップの為にもドロップアイテムの充実が必要なの。
アイディア考えてくれたんでょう?」
「ああ、人気が出るかは分からないけど、一応候補は考えたよ」
「わたし達は国中を飛び回ってたから考えて無いかな」
「マコトはナイスだね。メメちゃん達は気にしなくても良いよ。
今後も絶えず考えないとならない難問だし、一度に全てが解決する事は無いし」
それもそうか。
今後もダンジョンは成長していくだろうし、
何より世界樹を手に入れた事で可能性の大きさは予測不能と言える。
少し前までは世の中がこんなに激しく変わるなんて思ってもみなかった。
世の中の変化を見るのは楽しいものだ。
できるだけ長生きして前代未聞な世界の変化を見ていきたいな。
「未来の世界を見たい」と言うのは生き甲斐として上質なものだと思う。
絶望しか無い国に生活していたらそんな生き甲斐なんて思いも付かないだろう。
「OK、全ダンジョンとリンクしたからマコトのアイディアを聞かせて欲しい」
ダンジョンはすっかりこの世界に馴染んでハイテクに成ってしまった。
見えない注目が感じられてテレビで放送されているみたいだ。緊張するぞ。
「まずは地球上で発見されているレアメタルだ。今も需要が高いと思う。
色々な種類が有ってバリエーションが豊かになる。もともとが この星の金属だし、たぶんミスリルやオリハルコンを作り出すよりも魔力消費は少ないと思うぞ」
「それ、良いですわ。レアメタルは今も産出量少なくて必要な金属だし、
採掘する時の環境破壊が問題になるからダンジョンから出るなら喜ばれますよ」
「・・・確認しました。
各地の同朋と試作してみたところ異界の金属の十分の一のコストで生成可能です。
サンプルの収集に多少時間が必要ですが各種レアメタルをドロップさせれば
ダンジョンが鉱山としての地位を確立できそうです」
「一攫千金とはいかないけど安定した収入が見込めるから地味な人気が出るな。
比較的に浅い階層のドロップ品で換金可能な品が出るなら人を呼べると思う」
まぁ、金属は重いし運ぶカートの改良とか、
背負う為のリュックも売れるだろうし、経済効果も少しは有りそうだ。
「もう一つのアイディア・・・というか、これは奥尻ダンジョンのアイディアだけど
名産品だった海産物の食材を複製してドロップして欲しい」
「それって探索者を呼ぶ魅力有りますか?」
「たとえば、となり街の函館市は以前は獲れたての新鮮なイカが名物だった。
でも、今では少ししか獲れなくなってイカは庶民の手に入り難い。
水産加工会社は材料が手に入らなくてわざわざ輸入までしている。
初心者向けの階層なら食材がドロップ品として使えそうだよ」
この時代 海に出れば必ず魚が居るとは言えなくなった。
「温暖化が理由だ」と言う人も居るだろうけど、それだけじゃない。
分かり易いのは北海道名物で知られる魚、サケだ。
漁師の話では近年獲れるサケは油が載って無い瘦せこけた魚が多くなったらしい。
サケだけで無くサンマもホッケも貧弱で成長が悪い。
見ただけで栄養失調なのが素人でも分かる。
エサとなる小魚を人間が根こそぎ獲り尽くすのだから当然の結果だろう。
近年は魚すら貧困に喘ぐ時代なのだった。
今まで当たり前に手に入った食べ物が今後も手に入るとは限らない世の中だ。
この国の食料事情は盤石ではない。
それはともかくとして、
収入の少ない探索初心者が少ししか戦えなくても食べ物が手に入るのは大きい。
最低でも食べ物が手に入るのだ。
飢餓状態にはならないだろう・・・たぶん。
ん?、その理屈で言うなら米も良いかな。
「食べ物はドロップさせるのが難しいけど一考の価値は有るね」
「難しいか?。
刃物で切らないと開けられない真空パックの袋に入れれば可能だと思うぞ」
「マコトさん・・・ゴブリンが落とした食べ物、食べたいと思いますか?」
うっ、それは嫌だな。
「この提案は同胞と検討して少しずつ採用しますね」
いつの日か探索者はイカサシやイカソーメンを飽きるだけ食べれるだろう。
心底嬉しい。
「この話はここまでとして、メメさん スズカさんには以前と違う検証に付き合っていただきたいのです。題してモンスターの見た目と強さ」
メメが驚いている。戦闘訓練する気だったのに予定が変わったからだろう。
クアアーーッ、ギッギッ
「うーん、この子カワイイ魔物だから初心者向けの強さで配置すれば良いのじゃ」
「こっちは・・・生理的に受け付けないわ。強めに設定しても良いわね」
メメ達が新しいモンスターを見て感想を言っている。
最近はダンジョンに出現するモンスターもバラエティーに富んで来た。
ゴブリンなどのオーソドックスと言えるモンスターに加えてアニメなどを参考にしたパクリの魔物やオリジナルのものも増えた。
それらの多種多様な魔物とそれぞれが適した特性も加わって探索する難易度の
バリエーションも増加している。
それはそのままダンジョンの攻略難易度にかかって来る事を意味する。
魔物の強さとドロップ品の希少性とのバランスも難しくなる。
「新しく生まれて来るダンジョンとのリンクはダメじゃぞ。
前世の奴らはタダてさえ強いのじゃ。攻略するのがメンドウになる」
「そもそも不可能に近いよ。意思疎通すら出来るかどうか・・・。
別次元の世界に住んでる種族だから色々違うだろうし、まだ何の情報も無いから」
「そう言えば、
何も情報が無いのにどうしてゾンビとかグールが出ると知ってたんだ?」
「あっ、えーっと・・・。皆さんから魔力を頂いている時に
ある程度の脳内情報も流れて来るのでデーターとして知ってました。
さすがに深層心理の個人情報は無理なんですけどね。テヘッ♡」
・・・・・・・
俺達、転生者三人は声も無く愕然とさせられる。
これが戦争だったら極刑に値する大失態だ。
もしも、ダンジョンが敵対する存在だったなら戦力など国の機密情報を
全て漏洩していた事を意味する。
「怒らないでね♡。私達も生き残りたいのよ」
「はぁ、・・・まっ、いまさらか。幸い悪い事態にはならないだろうし」
ポーン・・・
「そうですの。結果として世界樹もこの世界に復活できますし運命なのです」
エルルが特別空間から帰って来た。
「そんな事より、やりましたの。世界樹が発芽したのですわ。驚きの速さです」
「あはっ、それは良かったのじゃ。めでたいの」
ほんと良かったよ。
これで幼女エルフが完全に俺から離れた事になる。
エルルは色々な意味で目立つからな。
都会の雑踏の中なら何とかなるけど地方の狭い環境では誤魔化しきれない。
子供のお世話は男子にとって苦難の連続なのだ。
ゴゴーーン☆ゴゴーン☆
今度は何だ!、唐突に重苦しい音が響き渡り 足元が少し揺れている。
「ダンジョンにも地震が起こるんだな」
ダンジョンが有る七飯市の一帯は丘の町と言っても良いくらい標高が高い。
そして、地盤が良いのか多少の地震ではゆれを感じない土地だ。
近隣の町で震度2くらいの地震なら七飯では気が付かない事も良くある。
この町で心配な自然災害は台風と竜巻くらいなものだろう。
「こ、これは・・・地震などと暢気なものではありません。
私のテリトリーに強引に進入しようとした事による衝撃です」
「空間に干渉した?。もし異世界召喚なら自分で防げるのじゃ」
「いえ、その手の干渉ではありません。
何者かが魔力の多い場所を求めて突撃して弾かれたのでしょう」
「それって、つまり・・・」
琴平 涼香が何時に無く怯えた顔で声も弱々しい。
もしかして、地震が怖い人?
「はい。いよいよ侵略型のダンジョンが生まれて来たようです」
「突撃して来るとか元気なダンジョンじゃな。さすが侵略者であるか」
「生まれて直ぐにこれ程の力が有るのです。
生まれながらに持っている魔力も多いのでしょう。羨ましい事です」
ナナエの声には余裕が有るからダンジョン自体を侵略される事は無さそうだ。
「マコトは記憶に無いようですが、人類は存亡の危機ですから各国政府は顔面蒼白になりますよ。ねぇ、メメさん、スズカさん」
「「!・・・・むむっ」」
気まずい二人の顔を初めて見たかも。
人類の危機って何?、俺には秘密の事なのか。
日本のエンタメ破壊するなら俺が全力で相手を滅ぼすぞ。




