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第50話、ゾンビとグール?

「ああーーっ、くそ暑い。何なんだ?」


昨日までは過ごしやすい気温だったのに、いきなり真夏の暑さになった。


他人事だった温暖化の危機がゴブリンの大群のように押し寄せて来る気分だ。


不快 極まりない。


ほんと、ゴブリンは迷惑でウザイ。



とりあえず熱中症は怖いので水分を補給する。


水道の蛇口を全開にして数秒の間待つ。


水量をもどしてコップに(そそ)いで水を飲む。


「ああーっ、美味い。七飯の水道水は最高だ」


コマーシャル乙、とか言われそうだけど本当に水道水が美味しいレベルなのだ。


水を出して少し待つだけで井戸水の様に冷たい水が出て来る。


勿論、同じ町でも水道工事の方法や地域によって多少の変化は有るだろうけど。


給水している水源地の質が良いのか、夏場でも消毒用の塩素臭が殆ど無い。


東京在住の姉が「何で水道から氷水が出て来るのよ」と意味不明にキレていた。


以前はこの地に住んでいたくせに忘れてしまったらしい。



我が家にはクーラーもエアコンも無いが、暑さに耐えられなくなったら

頭から冷たい水を被ったり、シャワーで水を浴びるだけで何とかなる。


エアコン設置すれば?、とも思うけど 何か負けた気がする。(笑


数年前までは海水浴ができる暑さの日は数えるほどしか無かったからね。


最近では一週間連続で真夏日とか普通に成った。


夏場は気温が安定している涼しいダンジョン内で暮らそうか悩む今日この頃だ。




ピンポーン☆


「兄様、ただいま♡なのじゃ」


前世の勇者で妹だった豊条院 芽芽 (ほうじょういん めめ)。今でも俺を兄と呼んでくる。


彼女のパーティが全国ダンジョン行脚(あんぎゃ)から帰って来たらしい。


見ると全員が健康的に日焼けして、南国のバカンスを楽しんで来たようだ。



「帰ったぞマコトー。良い子にしてたかーっ、ハハハ。これ、沖縄土産な」


前世でマッチョな男だった轟 鏡華(とどろききょうか)はTSして今は少女だ。(笑


海外ではジェンダーとか呼ばれて体と心が一致していない人間として過保護にされ、

ポリコレとか言う頭のおかしい奴らのオモチャにされて逆の意味で差別されている。


ただの人間として関わるならサッパリした性格のネェチャンだぞ。



「うえぇーっ、何よ この暑さ。

沖縄の方が涼しいって何よ。・・・アイス食べ過ぎて太りそう」


前世では魔界の悪条件な環境でも平然と斥候役をこなしていた轟 春奈 (とどろき はるな)


彼女ですらグチが出る今年の厚さとは・・・。



「ただいま、マコト。寂しかった・・・はずもないわね。

ニュース見たわよ。楽しそうな事してたじゃない♫」


最後はお嬢様な見た目だが実態は極道の姉御、琴平 涼香(ことひら すずか)


どうやら先日のダンジョン拡散のニュースの事を言っているらしい。


楽しくは無かったぞ。苦肉の策だった。



「そうじゃった!、あんな大事な情報を何故 隠していたのじゃ」


「そうそう、本当のことゲロってもらうからな」


「ちょっと待て。

この部屋で話すのはマズイ。場所を変えよう」


俺の家は他国のスパイ諸君に大人気らしいからね。




***************




エアコン完備の新築・・・くそっ、涼しいな。


「ようこそ、私たちのパーティハウスへ。歓迎するわ」


「大げさな・・・前にも一度 来ただろう」


「まあまあ、良いから。座って座って♡」


笑顔でごまかす女性陣。


前回は有無も言わさず千歳ダンジョンに連行されたからな。


今居る応接室も初めて入る魔境だ。


なぜ魔境かと言えば・・・



「お前が娘二人を(たぶら)かしておるウジ虫か?」


「父ちゃん、初対面の人にそれは失礼だぞ」


初対面じゃ無くても多大に失礼なセリフだが。


藤原 真(おれ)の対面に座る渋い顔をしたオッサンの最初のセリフがコレ。


腕を組んだまま親の仇を見る目で か弱い少年を睨んでいる。


会話の流れからして轟 鏡華(とどろききょうか)春奈 (はるな)姉妹の父親だろう。


また変な誤解を受けているのが丸分かりだ。


彼女達 深緑の鏃(しんりょく やじり)とつるむ以上 当然 覚悟すべきトラブルなので今更ではある。


だがしかし、オッサン。俺は無実だ。


そもそも、親がなぜこの場に居る?。


居ると知ってたら来なかったのに・・・。



「父ちゃんもマコトに会う為に来たんだって。

後でマコトを呼ぶつもりだったけど手間がはぶけて良かったぜ」


俺に会うって何で?。


娘の二人に手なんか出して無いぞ。


責任取れ、とか言うなよ・・・結婚なんかしないぞ。



「うちに神社本庁から確認しろと何度も問い合わせが来ているのだ」


「神社本庁?」


「父ちゃんは神主なんだ。神社本庁は神社の中央政府みたいなものだね」


「お前に尋ねたい事が有るのだ。本庁の奴ら自分達で聞きに来ればいい物を

娘達がお前と懇意にしていると知って俺に白羽の矢が当たったのだ」


ほーん・・・。


政府関係者の次は神社か。


次は寺か?。


となりの函館市はキリストの教会も多いしバテレンとかも来たりして。


「神社の神主さんが何の用です?。俺は信者になる気は無いぞ」


「その心配はいらん。日本人のほぼ全てが神道の信者だ」


「よしてくれ。神社に行くなんて正月に遊びに行くのが精々だぞ。

そんな程度で信者扱いすんなよ」


「この世界には沢山の神々が存在する、と無意識に思っておるだろう。

それだけで十分に神道の信者なのだ。信仰するとは狂人になる事では無い」


む、会話の流れがマズイ。


この手の話し合いは相手の思う壺だ。


このオッサン、わざわざ札幌から派遣されるだけあって かなりの曲者だ。



「説教はいいから、なんでわざわざ来たんだよ」


「む、説教は仏教のすることだぞ、・・・まあ良い。

例のダンジョンが増える件で聞きたい事が有る」


へぇ・・・、一瞬で雰囲気を変えて来た。


「我らの立場から見た怨霊系の魔物や腐敗した死人の魔物。

今でいうゾンビやグールなどだ。

それらが今後 増えるだろうダンジョンに居るのかどうかだ」


日本では今のところスケルトン以外ホラー系の魔物は確認されていない。


他の国に発生するダンジョンが前世のダンジョンの転生なら確実にゾンビもグールもついでにリッチとかも標準装備されているだろうな。


でも、何故知っている?、となるのが目に見えているから答える訳にはいかない。


「知らんよ、そんな事。

ダンジョンが出来るかどうかも予定なのに、中身何て分かる訳が無い。

先日の情報だって俺が発表したんじゃ無くて妖精(笑)が言ってた事だし」


「むむっ、確かにそうだな。

・・・では、今度も聞けば良いのだな。ならば行くぞ」


「「「「「えっ?」」」」」




*******



そんな訳で七飯ダンジョン入り口の大セイフティエリアに来た。


先日、他国にダンジョンが発生する旨の情報が公開されたのがこの場所。


秘密裏に発表されたはずなのに、ニュースになるほど拡散されているのは

現代社会の恐ろしい一面だろう。


人気の場所がニュースになった事でさらに賑やかになって来た。



深緑の鏃(しんりょく やじり)の人気と 俺に対するヘイトに揉まれて受付までたどり着き、

会議室の使用許可を申請したのだが・・・


「藤原様が会議室を使用する場合はこちらの責任者が同席するのが条件に加わったと伺っております。

この条件で使用申請なされますか?」


「えっ、会議室借りるだけでどうして?」


「先日の情報が拡散した事で当施設の責任者が過労死するほど対応に追われた。

と伺っております」


受付嬢が怒っている?。


にこやかなのに、額に青筋マークが見えるようだ。




「やあっ、お久しぶりですね。

以前 君が忠告してくれた過労死と言う言葉の意味を存分に味わってるよ」


俺達が会議室に入って程なくヨロヨロのオッサンが入って来る。


日本秘境探索センター七飯支部の所長、鮫島 五郎だ。


目の下のクマも色濃く激務なのが伺えた。



あまりの姿に回復魔法を使ってやりたくなるが、それは悪手だ。


この手の人は「回復できるなら」と、それを当てにしてさらに無理をする。


「今回もダンジョンに関する極秘情報なのでしょう。

私は立場上 情報を漏らしませんから、聞かせていただきますよ。

後で問い合わせが来た時に何も知らなくては対応できませんから。

はははははははは」


「・・・・・」



「了解しましたわ。

とりあえず部屋には結界を張って音声が漏れないようにしますね」


杖の先から青い光が広がり魔法の使用を知らせている。


この手の便利魔法は賢者だった琴平 涼香(ことひら すずか)に勝てない。


今はまだ魔法に対する失望が強いから『支援魔法』は注目されないだろうけど

攻撃以外の魔法が有用だと知れ渡れば、いずれは探索者の花形になるだろうな。





≪ゾンビとグール?、そんな事はマコト達が知ってるでしょう。

この妖精コスプレ?って無駄に魔力使うから嫌いなのよ!≫


≪すまん。後で補充するから協力してくれ。

俺達の口から回答すると余計に言い訳が必要になるんだ≫


≪人間社会はメンドウね。補充忘れないでね≫



前回と同じようにダンジョンコアのアバターには妖精モードで来てもらう。



「ゾンビとグールですか?当然出てきますよ。

むしろ今後に出て来るダンジョン全てに存在します。

それらが出ない この地のダンジョンの方が特殊な存在になるでしょうね」


「そうか、やはりな・・」


やはり?、年寄りの考えは分からないぞ。



「父ちゃん、何でそんなに汚い魔物に(こだわ)るんだ?」


「日本の起源、そして日本人の先祖に関係する最重要案件なのだ」


「えーっ、日本人のルーツが死体なんて気持ち悪いじゃん」


「バカ者、日本神話だ。子供の頃に教えただろ、忘れるでないわ」


日本最古の書物『古事記』に集約されている日本の神話だったな。



「たしか・・・男の神様と女の神様が日本の国土を作った、ってアレですか?」


「おおっ、若いのに良く知っておるな」


この程度の知識が無くてはゲームやアニメを楽しめないからな。常識だ。


「今回 大事なのはその後の話だ。春奈 (はるな)は忘れて無いよな?」


「えっ、えーっと・・・旦那さんが怖い奥さんから逃げて海で泳いだ?」


「はぁーっ、・・・神社の娘が、情けない」


「にゃははは。子供の頃に聞いた話なんて憶えて無いよ」


「まぁ良い。お前たちに分かり易く今風に言うとだな、

奥さんの女神が死んだ事を悲しんだ男の神が黄泉の国に行って

彼女を連れ戻そうとしたのだ」


死んだ人?を迎えに行く、・・か。


ご都合主義というか、昔の人もラノベ作家の才能が有ったらしい。


「へぇー、ロマンチックな話じゃない」


「そうでも無いぞ、黄泉の国で出会った奥さんの女神は、何と腐った死体だった。

男の神は必死で逃げた。そして何とか逃げ切り、海で(みそぎ)をして体を洗った。

その時に日本の名だたる神々が生まれて来たとされる」


ホラーだ・・・凄いな昔のラノベ作家。


ぶっ飛んだ発想がマンガやアニメの世界だぞ。



「つまりは その黄泉の国と言うのがダンジョンで、

腐った死体がゾンビやグールなのではないかと考えているのですね」


急にダンジョンコアのアバターが要点を突いてきた。


さては 面倒くさく成ったな。


「それが何、どういう事?。意味が分からないんだけど」


「要するにだ。神社本庁の中央は、いや、日本の中央は日本人の起源がダンジョンを潜り抜けて来た『別世界の力ある存在』なのではないか、と予測しているらしい。

日本人はその言葉や文化的にも他の国々とは独立して別の存在らしいのだ」


マジか?、基本的にその手の人達ってファンタシー的な考えをバカにしているのに。


「今の科学的な考えからするとバカらしい妄想なのだがな、その事で後に記されている『スサノオノミコトとヤマタノオロチ』の話に信憑性が出て来るのだ」


「だからダンジョンにゾンビやグールが出るのかが重要なのですね」


「たぶん、そうなのだろうな。

今後 世の中が激変するかも知れんし、デマを言いふらす国も出て来る。

日本の国を混乱させない為のカードは多いほど良いからな」


さすが国の中央。先の先を考えてるな。


「でも、そう考えるならダンジョンは異世界と繋げる力が有ると言う事になるわよ。

国の中央がそんなマンガみたいな事考えるかな?」


「何を今更、若いくせに年寄り臭い事を言うな。

現に今もダンジョン間で空間移動しているだろ。何の不思議も無い」


ぷっ、

娘が父親に年寄り臭い、言われた・・・・



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