第44話、上野美術館ダンジョン
あの日、千歳ダンジョンコアとの話し合いは
世間には知られていない 細やかなイベントでしかなかった。
しかし、後の人々が知ったならきっと言うだろう、
世界が変革していく重要な会談であった、と・・・。
***************** それはともかく
あれから地元の七飯市に帰った藤原 真 と深緑の鏃の面々は意図的に平凡な探索者活動をこなしていた。
一方ではダンジョンコア達からの問いかけに応えるべく答えを探している。
ダンジョン側でもネットの掲示板などを利用してさり気なく世間に
「ダンジョンに何を求めるのか」を問いかけていた。
そして今日、特別大きな変化が世の中に示される。
「ほーん、ここが東京のダンジョンか・・・」
「正確には上野公園ダンジョンと呼ばれておるのじゃ」
名前の通り東京の上野公園に出来たダンジョンだ。
地元の人には上野美術館ダンジョンとも呼ばれている。
ある日 美術館の外壁に 突然洞窟が出現、それがダンジョンだった。
当時は世間を驚かせたものだ。
何故そんな場所に来ているかと言えば、
以前 轟 春奈 が千歳ダンジョンで何気なく呟いた提案のアレ。
《《日本のあちこちに点在しているダンジョンの入り口がリンクした方が便利になる》》、というアイデアが実現したからだ。
今日は初めて七飯ダンジョンの入り口からこの上野公園ダンジョンの入り口に一瞬で転移して来た歴史的瞬間でもあった。
長距離転移なんてマンガやアニメの妄想だと思われていた。
ところが今後は誰もが体感できる現実にになってしまったのだ。
その意味する所は途轍もなく大きい。
世界中の科学者がその原理を知りたくて色めき立つことだろう。
「おい、あそこに居る女の子達は深緑の鏃じゃないか?」
「ほんとだ、間違い無い。 ちっ、寄生虫の魔法使い男まで一緒だぜ」
空気を読んで近寄っては来ないが、彼女達に気が付いた人たちがザワザワと落ち着かなくなる。有名人は注目されて大変だな。
「兄様はこのまま先にダンジョンに入って依頼を果たして欲しいのじゃ」
「ああ、分かってるよ。そっちも気を付けてな」
「マコトの事、よろしくね。エルルちゃん」 うふふ
「俺が《《引率されてる》》みたいに言うな ‼」
その会話を聞いて誰も居ないはずの隣りで小さな笑いが漏れる。
「♬ ~ ♪」
ついで、楽し気に俺の右手を握る小さな手応えを伝えて来る。
大人しくしててくれよ。バレたら面倒な事に成る。
わざわざメメ達と別行動をするのは理由が有る。
空気を読んだ一般の人達は気を使って彼女達 深緑の鏃に群がる事はしないが
マスコミは別だった。
徐々に取材陣が集まって来て緊急記者会見のようになってくる。
だが、これはダンジョン側の計画通りであり 思う壺と言えた。
ダンジョン入り口がリンクした事を世間に知らせる為に有名な彼女達のパーティ深緑の鏃がプロモーションの広告塔になることを懇願されたからだ。
「今日、私たちが急に上野ダンジョンに来たのは
ダンジョンの入り口がリンクされたからです。
七飯ダンジョン入り口で入るダンジョンの選択肢が表示され、
入る場所を選べるようになっていました」
「それはつまり、北海道のダンジョン入り口からここに跳んで来た、
と言う事でしょうか?」
早速マスコミが食いついて来る。
今はネットで一般人が情報を拡散するから情報を売り物にしているプロのマスコミも生き残りに必死なのだろう。
「はい、そうです。ただ、入った事の有るダンジョン以外は選択肢が出なかったので
その辺の検証は今後の調査が必要かと思いますね」
これで情報は日本全国に広がるはずだ。
「えっ!、マコトなの。何でここに居るのよ?」
突然聞こえる面倒な身内の声・・・バカ姉貴だ。
「あー、そう言えば東京のダンジョンは姉さんのホームグラウンドだったっけな」
「東京に来るなら知らせなさいよ。もしかして上京して来たの?
それなら歓迎するわよ。私のアパートにシェアハウスしても良いのよ」
「ハイハイ、ストップ。そんなんじゃねぇから。
今日は大事な実験の付き添いだよ。
ほれ、あそこの記者会見で公表されてる。
詳しくしりたいなら向こうで聞いてくれ、説明がメンドクサイ」
「あら、メメちゃん達も来てたのね。このハーレム野郎」
「うっせえな。それも違うからな。
それより良いのか?ネットで流すネタになるから取材でもしたら良いだろ」
以前 会った時はネットで配信する動画撮影に血眼だったのに・・変だな。
「あれだけ多くの人に撮影されてたら動画の価値なんて低いわよ。
そうね・・・後で直接メメちゃんにインタビューでも頼もうかしら。
私は今、探索だけで落ち着いた生活できてるから動画に拘らないのよ」
そう言えば姉貴は『撲殺魔女』とか危ない二つ名で呼ばれてるんだったな。
「私は優雅で豪華なセレブの生活するの」とか言ってユンチューバーを始めた
はずなのに変われば変わるものだ。
「ハーイ、マナミ。ドウシマシタカ。ナニナニ?ナンパ、ナノ」
うおっ、マジな金髪のねーちゃんが来た。本格的な?外人さんキター。
「マナミ・・・マタ ワカイ オトコノコ タブラカシテ マスカ」
また来た!外国の女性・・・今度はプラチナブロンド?って言うのかな
北欧風な女性。二人とも小柄だから かなり若いのかも知れない。
ちなみにマナミとは俺の姉貴の名前。藤原 真奈美という普通の名前だったりする。
「姉さん・・・英語も喋れないのに外人さんと友達とか、良い度胸してるな」
「うっさいわね。あんただって英語苦手でしょうが。二人はパーティ仲間よ」
は?ぱーてぃ・・・
あの唯我独尊な性格の姉貴が他人と組む・・・ダイジョウブナノカ?
「死なせるなよ。国際問題になる」
「失礼ね・・・って言いたいけど、その辺は大丈夫よ。二人ともすごい強いから」
強い・・・ね。一人はモロに剣士で もう一人は盾とメイス。
西洋らしいチョイスのラインナップです・・・。
これに殴り魔女の姉貴が加わるなら全員前衛の脳筋パーティです。ぷっ
「私達はこれから探索に出発するから時間無いけど終わったら夕食おごるわよ、
東京の良い店知ってるから案内するわ」
「残念だけど、無理」
「なによ、付き合い悪いわね。久し振りに話が聞きたかったのに」
「いやいや、東京めしは食いたいから本当に残念だよ。
入り口から出ても元の七飯市に戻されるから東京観光は無理なんだ」
「むぅ・・・不便ね。それなら今度は普通に遊びに来なさい。良いわね」
いやに強引に誘って来るな・・・寂しく成った・・とか?。
いや、それは無いな。
「変じゃ無いでしょ。マコトに戦い方 教えてもらったお礼をしたかったの。
あっ、そうだわ、こんど渋谷あたりで真の服をコーディネートしてあげる。
せっかく若いのにダサイかっこうしてるから気になってたのよ」
「余計なお世話だ」
俺は苦笑いでシッ、シッと手を振って追い払う。
楽しそうに三人でダンジョンに入って行く姿を見ていると以前のような余裕の無い焦った雰囲気は感じられない。
戦い方を知って収入が安定したのは本当らしいな。
御礼がしたい、とか言ってたのも本心かも知れない・・・だがダサイは余計だ。
ま、身内の安定している姿を見れたのは良かったかな。
『マコト、退屈だよ。そろそろ行こう』
おっと、今日のパートナーが焦れて念話を送って来た。
ネタ晴らしになるが、俺の右隣にはあの時の幼女エルフが居るのだ。
小学生以下の子供はダンジョンに入る事が厳しく禁じられている。
今居る場所は入り口にあるセイフティエリアの大空洞であり、
ここまでは子供でも入場可能。だがこの先の本坑には入れない。
余計なトラブルを避けて最初からエルルにはアイテムで姿を隠してもらっていた。
「それじゃあ、行きますか」
上野ダンジョン本坑のゲートを潜って中に入ると同時に足元には魔法陣が輝き、
例のごとく転移させられる。
『ようこそ、お二人さん。待ち焦がれたよーん♡』
出迎えたのは魔女っ子の衣装でコスプレした幼女。さすが東京のダンジョンコア。
とっととコアに魔力を補充して大きくしてしまおう。
「ねぇ、もう姿を見せても良いよね?」
「ああ、そうだな。ここなら写真とか撮られないから良いよ」
「本当にエルフの子が居るんだね。名前は何て呼べば良いのかな?」
「エルルよ。真名はこの世界では発音できないから使えなくてね。
不便だからマコトに名付けてもらったのよ。
正式名はエルファリアなんですって」
顔の作りがどうしても北欧とかの人に似ているから日本の名前は不自然だし、
かと言って他国の女性の名前何て知らないから如何してもアニメっぽい名前になってしまう。
などと・・尤もらしく言っているが、種族名エルフをこねくり回して作った名前なのはバレバレで、 深緑の鏃の皆には呆れられている。
エルルは流石に伝説の種族だけあって、「AIが3Dで作り上げた画像かよ」と思えるほど完璧なバランスで整った顔をしている。
下手に姿を晒すとほぼ全ての人が振り返るであろう美幼女である。
そんな彼女は何故か この世界に来た時から 藤原 真 に懐いていて離れない。
それ即ちトラブルの原因が常に寄り添っている事を意味する。
男の俺がエルルを連れ回していれば
誘拐容疑で職務質問が確定間違い無しの案件だ。
しかも、外国人の見た目なのにパスポートは勿論、
一切の国籍も無いのだから大騒ぎに成る事 間違いない。
大変に危険な状況なのである。
光学迷彩出来るアイテムが有って良かった。ホント




