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第43話、父親の権利?

目の前には豪華な懐石料理のお膳が並んでいる。


今、俺の対面にはギシッっとパンチパーマを決めた50代と思えるくらいの

オッサンがナイフのようなギラギラした目で俺を睨んでいる。




「おめぇ、・・・涼香(すずか)()いたそうだな」


いきなり、どストレートの冤罪が降りかかる。


「それはどちらの意味での《《抱いた》》ですか?

彼女を助けた時のお姫様抱っこの事を言ってますか。

それとも、まさか俺と涼香さんが、

その・・・

子作りをしたと言いたいのでしょうか?」


俺の言葉でその場にいる複数の存在から殺気がほとばしり

部屋の空気がキリキリと張りつめていく。


普通の一般人なら恐れて硬直するレベルの殺気だろう。


だが、それは異世界での戦場経験者にとってはそよ風のようなものだ。


対面から向けられる濃厚な殺気もペイっと()らして受け流す。


何もしてないんだから当然だ。



宴会場には同じように懐石膳が並び大勢の男達が静かに座っている。


全員黒のスーツを(まと)いこちらの様子を伺っていて一触即発の緊迫した空気だ。


一見すると和風の宴会会場なのだが誰一人として食事に手を出す者は居ない。



いや、違うな。手を付ける《《男は》》居ない・・・だ。


ただ一人、俺のとなりで小さなハイエルフの幼女だけが殺気の充満している

この場で楽しそうに食事を満喫していた。


エルフなのに肉も魚も平気で食っている。


エルフは菜食主義者(ベジタリアン)じゃ無かったらしい。





確かに相手のオッサンは涼香の父親でいわゆるヤクザの組長だし、周囲の男たちは

組織の構成員たろうから普通ならビビリまくって漏らしてもおかしく無いな。


えっ、俺は極道にビビらないのかって?。


まぁね。相手が本気で殺そうとしてないからね。


要するに、この場の恐ろしい雰囲気はアウトローな方々の使う圧迫面接なんだ。


前世では何度も経験してるから平気だ。


過酷な前世ですみません。




《兄様、どこに居るのじゃ》


おっ、芽芽 (めめ)から念話が届いた。


ダンジョン入り口のセイフティゾーンまで戻ったようだな。


ダンジョン入り口にある巨大な空間はダンジョンと現実世界との狭間(はざま)のような場所だ。


ダンジョン内部であの場所だけはPCや電化製品が使える。


テレビやスマホ、さらにネットによる通信も可能だ。


もしや、と試してみたら魔法による念話も外部に向けて使える事が分かった。


ただし、外部から念話が使えるのは俺だけなので他の人には使い様が無いだろう。




《あぁ、皆もやっと外に出れたのか。俺が居るのはどこかのビルの中だ。

エルフの子と二人で涼香の親父さんに招待されて食事に誘われているよ》


《何ですって?、(あのクソおやじ)何してくれてるのよ。

マコト無事?今から行くから暴れないで待っててね》


涼香・・・言葉の行間に品の無い思考が流れ込んでるぞ。


彼女達と交信していた事で俺が場を平然と無視していたら相手が折れた。



「ちっ、俺も焼きが回ったもんだぜ。

こんだけガンつけても毛ほどもビビらねぇときた。

兄さんよ、その節は涼香(むすめ)が世話に成ったな。

余興は終わりだ遠慮せずに食ってくれや」


「では、いただきます。豪華な和食なんて久し振りだ」


「この程度で喜んでくれるのは ありがてぇが、・・・

意外とセコイな、探索者っつーのは涼香と同じで大金稼いでんだろ。

若けえのに普段は豪遊せんのかい?。夜の帝王にも成れるだろ」


組長・・今度はニヤニヤしながら俺を値踏みしている。


俺が夜遊びしてる男ならハニートラップとか仕掛けて来そうだな。


「その豪遊が男らしい色恋の遊びを指すならやってないですよ」


「おいおい、若けぇのに覇気が無ぇぞ。女の一人や二人作れよ」


期待外れな事を言ってガッカリさせたかな・・・でも それで良い。


大方、涼香と結婚させる相手として面接してるだろうから

男として期待外れな位が丁度良いだろ。


是非とも俺を花婿候補から外してくれ。


俺はこの人生、平穏に生きると決めてるからな。



最近は次々に理不尽なトラブルに巻き込まれて平穏とは言い難く成って来たし、

せめて、精神的にのどかな生活は何としても死守しないとな。




それはともかくとして・・・・


「美味いですね」


「くっくっく、こんだけの極道に囲まれて

平気でめしを食えるだけで普通じゃねぇ。

その上、味を楽しむ余裕まで有りやがる。

半グレの集団に一人で乗り込むくらい胆が据わってるのも頷ける。


さすが涼香は極道(おれ)の娘だな。

目の付け所が良いぜ」


えっ?、飯食っただけで高評価なんですけど。



「なぁ、にいさんや。

一つ提案なんだが、俺の娘の涼香をくれてやる。

ついでに この組もツ・・・

ちっ!良い所で・・・」


いや、良く無いよ。縁談を断るセリフって難しいんだぞ。




それはともかく・・・


会場にはその道の男達が本気の警戒をしている。


こんどは本物の極道が放つカミソリのようなマジな殺気だ。


「何事なんですかい? 

こちとら刑事さんに踏み込まれるような山は踏んで無いですぜ」


俺と幼女エルフの後ろ、宴会場の入り口から別種の寒気が流れて来る。


刑事?警察が来たのか?


・・・次から次に厄介な。



「邪険にしない方が良いですよ♫。

はいはい、退いて下さいお邪魔しますね。

今日は子供が誘拐されている、と通報が有ったのでね。

おやおやー、幼い子供を連れ込んではいけませんよ」


「誘拐たぁ不本意だな。

確かに子供は居るがな、大切な俺の客人なんだよ。

宴会の場が白けるから今日は遠慮してくれねえか」


「幼い子供がこんな時間に繁華街のビルに居るだけで問題でしょう。

我々としてもハイそうですか、と帰れないものでしてね」



氷のように冷たい意思が背中から近づいて来る。


この男、言葉使いはチャライが、強い。


これは武人の気配だ。




「お嬢ちゃん、名前を教えてくれるかな?」


猫なで声を出すキショい気配が俺の背中に来た時、

探索者の藤原 真(おれ)の体は本能的に動く。


一瞬で身体強化魔法が使われ、手に持った(はし)

短剣のように刑事の喉元(のどもと)に突き付けていた。


「くっ!、・・・何のつもりですか?、公務執行妨害で逮捕しますよ」


30代と思われる刑事?のオッサンは自分が反応できなかった事に驚愕している。


どんな荒事にも対応できる自信が有ったのだろう。




「魔物みたいな強い気配をさせて探索者の背中から近寄る方が悪い。

ダンジョンの中だったら今ので殺してるぞ」


あっ、ヤバイ。かなり強く殺気を向けてしまった。


これだけの殺気を向けられて小便チビらないのは さすがマル暴の刑事か。


「刑事の私に脅迫ですか・・・危険人物ですね。

それより、君は探索者なのか?。

何故こんな場所に居る。組員にでも成りたいのかね」


「仲間の父親にメシをご馳走に成ったら変か?」


「となりの子供はどうなんです?。

年齢的にどう見ても君の子供では無いですよね」


うっ、こちらの弱みを的確に突いて来るとは恐ろしい奴だ。


どう説明したものか・・・



「失礼ね、こんな見た目だけど 私は子供じゃ無いわよ。

このお兄さんと組んで探索者するんだから邪魔しないでよね」


もくもくと飯を食っていた幼女エルフが急にその手を止めて抗議している。


そう言えば前世でもエルフは年齢不詳だったな・・・ロリババアですか?



驚いた事に彼女は俺達の発している思念を読み取り言葉をマスターしていた。


日本語は世界で一番 困難な言語、と言われている。


その日本語をほんの《《数時間》》でほぼ完全習得しているのだ。


さすがハイエルフ?。



「あんまり変な事言って食事の邪魔するなら私が警察署に行って、

刑事さんに痴漢されました、って言って泣いてあげましょうか?」


出た、メスガキの冤罪攻撃。



これには鉄面皮の刑事も顔を引きつらせている。


キャリア組とか呼ばれてる公務員のエリートにとって

醜聞(しゅうぶん)はマジ怖いだろうしな。




「ほぅ・・嬢ちゃん、気分の良い担架切るねぇ。気に入ったぜ」


「そうかしら?。じゃあ、組長さん、ご褒美にコレもう一つ食べたいな」


「はっはっは、茶わん蒸しか、良いぜ。俺のも持って行って食べな。

嬢ちゃんは大物に成るぜ。ますます気に入った」


おいおい、強面の極道がすっかりただの好々爺(こうこうや)になってるぞ。


このエルフ確かに大物だわ。



「やれやれ、凶悪な貴方にそんな顔をさせる子供ですか・・。

確かに犯罪の可能性は無いですね。引き上げるとしますか」


「子供じゃ無いってば」


「ははは、そうですね」


痴漢の冤罪が余程怖いのか、ボーナス時期で手柄が欲しいはずの刑事は

そそくさと退散していった。


まぁ良かったよ。子供?の素性を追及されたら厄介だったからな。



「あの刑事は(マル)暴の中でも武闘派でな、空手やら色々な武術の使い手だぜ。

そいつに何もさせずに無力化するとか、その年で考えらんねぇ動きするなぁおい」


うっ、瞬時に身体強化使ってしまったのはまずかった。


目の前の組長さんは美味しい獲物を前に嬉しそうにしている。




「そこまでよ。お父ちゃん、良い加減にしてくれる。

里帰りする代わりに私の仕事の邪魔しないって約束よね。

それ破るならもう帰らないからね」


お父ちゃん?この声は涼香か。


「おぅ、涼香やっと帰ったか。待ちかねたぞ」


ザザッ、「「「「「お嬢、お帰りなさいやし」」」」」


おおっ、今まで平然としていたヤッチャン達が急に活気づいたぞ。


涼香、慕われてるな。



「そんなにブリブリ怒るなよ。

娘が連れて来た男を品定めするのは父親の権利ってもんだぜ」


「なっ、何 恥ずかしい事 言ってるの!。

止めてよ、マコトはまだ私の男って訳じゃ無いのよ。

お客さんなの。探索の仲間なの!。

分かったら今度から組に連れ込まないでよね」


「あれっ、マコトは人族の男に分類するはずだよね。

何故、涼香は違うと騒いでいるの?」


「あー・・言葉は分かっていても空気は読めないか。

後で教えてあげるから、今は静かに観察してね」


「ふーん、中々高度なコミュニケーション方法だね」


幼女エルフは言葉を覚えたての外国人みたいな反応をしている。



ぼそぼそ


「あいつお嬢ほどの良い女に惚れられて まだ手を出して無いらしいぞ」


「信じられねぇな。あいつカマじゃねぇのか?」


「いや、話し方も男のそれだし、きっと不能(インポ)なんだろ。

誰かバイ○グラを渡してやれよ」


組員達が好き勝手な推測でコソコソ言っている。



藤原 (まこと) 16歳はここに宣言する。


俺はオカマでもインポでも無い。



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