第40話、ゴーストプレイヤー
急遽 道南の七飯市から札幌のとなり千歳市に行く事になった。
今は千歳ダンジョンを探索している・・・一人で。
唐突すぎるので少しだけダイジェストで語ると・・・
あれから4時間くらい高速を走り続け千歳市に到着。
何処から情報が漏れたのかダンジョン前には 深緑の鏃のファンが集まり、
地元に帰ったアイドルに歓呼の嵐。
そして俺には盛大なブーイングと合わせてヘイトの嵐だった。
この地での俺、藤原 真 の立場は彼女達を七飯に連れ去った憎っくき害虫なのだ。
本来なら袋叩きに遭いそうなものだが深緑の鏃と組んでいるのを知っている為、
彼女達に嫌われないように我慢しているのだろう。
「やぁ、深緑の方々 ボクたちと一緒に探索しないかい。
同じ階層ランクのメンバーなら守る必要も無いしさ。どうかな?」
例のごとくダンジョンに突入前にナンパな男に声を掛けられる。
「何かデジャヴーを感じるのじゃが・・」
メメの記憶は正しい。
恐らく以前と同じナンパ男でセリフまで同じだった。芸が無いな。
「邪魔ですわ、立ち去りなさい。
そもそも、そのような姿で私たちの前に出て来るなど不愉快ですのよ」
「このコーディネートは御気に召さなかったかな?。
最新の冒険者むけファッションなんだぜ」
「そんな事はどうでも良い。問題はソレじゃ。
嫌がらせでもしておるのかの?」
芽芽 が指さすのはナンパ男の股間だ。
以前と同じくその場所は血で赤く染まっている。
勿論、俺が魔法でやった事だ。
男の最大の弱点、はっきり言えばキャンタマ。
それが入っている袋は大事な部分だけあって血管が充実している。
ほんの小さなキズでも大量の血が流れる。
だから、魔法で極小さな穴を開けるだけで大事になる。
皮膚の厚みが無いから止血に少し時間が掛かるけど命に別状は無いよ。
ただし出血が多いからインパクトは絶大で、大の男が恐れおののく事になる。
周りの観衆に白い目で見られた男は今度も逃げて行った。
《兄様、悪戯もほどほどにせぬと世間に叩かれるぞ》
《アレ、恥ずかしくて対応に困るから今後は止めて下さいね》
皆から念話で苦情が送られて来た。ははは
そんなアクシデントを終えてダンジョン内部に侵入・・・
それと同時に芽芽 達 深緑の鏃のメンバーだけが消えた。
この地ではマコトさんはダンジョンコアにすら嫌われてハブられるらしい。
ダンジョンコアが召喚したのは良いが少し心配だ。
えっ、過保護だって?
心配なんだよダンジョンが・・
『七飯に帰したく無いから彼女達を幽閉しました』
とか言って ダンジョンが深緑の鏃を監禁でもしたら、
怒ったメメがコアを砕いて千歳ダンジョンが死ぬ。
ダンジョンは今や地域経済の要なのだ。
経緯はともかく、それを機能停止にしたら深緑の鏃はこの地域の人々から
恨まれるし、他のダンジョンからもハブられる。
ダンジョンを擁する市町村からも敬遠されるだろう。
そんな訳で 取り残された藤原 真は久々にソロでダンジョン探索を楽しんでいる。
これはある意味、好都合な状態と言える。
近頃は七飯ダンジョンに入ると速攻で召喚されて魔力の補充を強請られる。
帰りに沢山のアイテムをお土産にくれるから経済的には豊かになったけど、
何か釈然としないものがある。
仕事をした充実感?が無くて、女のヒモに成ったような虚しさが有った。
もちろん社畜なんて嫌だし、ノンビリ自由な生活を願っている。
しかし、それはそれ、これはこれ。
長時間 仕事で拘束されるのは御免だが、逆に働く事が無いのも空しいものだ。
何事もほどほどがベストなのだと思う。
言うまでも無く、我がままで贅沢な話なのだ。
そう、最高の贅沢だよね。
今は色々な意味で自由を満喫している。
だから危険なダンジョン内部を移動しているのにルンルン気分で楽しかった。
今居る場所は8層のオークが出る場所だ。
以前は6層がオークステージだったが規模の拡大で変化した。
次の階層に降りるべく最短ルートを早足で進む。
他の探索者が戦っているのと遭遇した。
「何やってるのよ、ちゃんと戦ってよ。視聴率上がらないじゃない」
「バカか、状況見て言えよ」
やっかいだな・・・現場を通過するだけでケチが付きそうだ。
面倒な事にならないように光学迷彩と同じ魔法が付与されている
クロークを装備する。
これで彼等には見えなくなっているだろう。
このまま何事も無ければ素通りするし、危なければ助ければ良いだけだ。
正体が分からなければどちらにしても問題は無し。
彼らの編成は一人が 剣士、二人目タンク、そして魔法職(たぶん回復系)の三人と
撮影係の女性の4人編成。
相手のオークは2匹、つまり実質2対2で戦っているのと同じ状態で非常に危うい。
こうなると腕力に優れたオークが俄然 有利になる。
ガキン☆
剣士の剣が折れた。
市販のノーマルな剣は型に鉄を流し込んで作った量産型だ。
剣術を使って敵の攻撃を受け流せなければ簡単に破壊される。
「うあっ、まずいぞ」
見た感じ二十歳前後の男性は必死にオークの棍棒を回避している。
一撃でも受ければ命に係わる攻撃だ。
そろそろ介入しようかな・・・
あっ、あらかじめ声掛けしないとまずいか。
「おーい、助けがいるか?」
「助かります、お願いできますか」
パーン☆ パパン☆
オークの目玉を破壊した。
これで彼等だけでも対処できるだろう。
自分は直ぐにその場を離れる。
後の事は知らん。
必要以上に介入すべきではない。
あのメンバーではこの階層を戦うのはまだ力不足だ。
上に上がる階段まで近いから撤収するのも、そのまま戦うのも自由だ。
姿を見せて無いし、放置しても苦情は言われないだろう。
立ちはだかるオークを蹴散らして進み、9層に降りる階段にたどり着いた。
そこには4人の探索者がケガをして座り込んでいた。
重体には成っていないが重症ではある。
危なくなって階段に逃げ込んだのだろう。
命が有っただけ幸運と言える。
死ななければ次の挑戦も出来るのだ。
武器や装備はまだ使える状態だし、ケガさえ治れば自力で帰還できるはずだ。
だが、全くの他人にポーションを使うのはアホらしい。
とは言え、回復魔法は専門外なのだ。
装備に付与された魔法陣を通して初歩的なヒールが使えるだけ。
おまけに回復魔法で助けた記憶が殆ど無いので経験不足は否めない。
まぁ良いか。魔力の強さでゴリ押しすれば何とかなるだろう。
言い訳になるが、前世の魔族との戦いでは
初級ヒールで治る程度のケガは相手にされない。
「その程度は自分で治療しろ」と言われて終わりなのだった。
さらに攻撃魔法特化の俺は攻撃に専念していたので
治療の経験など積む暇が無かった。
ちっ、考えるだけ無駄だな、
「ほれ、ヒール」「こっちもヒール」
などと声を出してから回復魔法を発動していく。
いきなりの事で4人は硬直して驚いていた。
目の前から声を掛けられ、魔法を使われた。
なのに目の前には誰もいない。
さぞ恐ろしいホラーだっただろう。
4人のケガは鑑定で見た限りほぼ回復していた。
結果オーライ♫
今回も深入りせずにスルーしてそのまま9層に降りていく。
この階層はオークがメインだが、イレギュラーで黒オーク
が出て来る。
ゆえに・・・
「キャーツ、誰か助けてー」
調子に乗った探索者が対処できずに追い込まれる。
久し振りに通常使う武器の『改良型園芸用クワ』?に魔力を纏わせて
黒オークの膝の裏を切り裂き、立ち上がれなくする。
探索者パーティはケガ人多数だが逃げる事くらいは出来るだろう。
悲鳴を上げていた女性は何やら撮影していたようだが
俺の事は見えないはずだし問題ない。
まだまだ探索者の練度は低いようだ。
無理も無い、地上では喧嘩すらしたことが無かった少年少女が
いきなり殺し合いをするのだ。
たとえ死体が消えて無くなるとしてもキツイだろう。
それなのに撮影スタッフを守りながら戦う何て自殺行為だ。
などと見えないのを良い事に好き勝手していたのだが
いきなり足元が光り出して注目を集めてしまった。
ダンジョンコアからの召喚の魔法陣の光だ。
そのせいで黒い人型の姿だけが浮かび上がる。
「ひぃぃーっ、死神!」
ちがうわ ‼、




