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第4話、後ろから肩を叩くな、縁起悪い。

一日働いて一万円になれば月の収入は30万前後。


それだけ有れば普通の家庭ならムチャな贅沢をしなければ充分に暮らしていける?。


しかし、近年 日本の家庭では夫婦共稼ぎで働いてもそれ以下なのもザラにある。


と言うか、二人で働かないと子供なんて育てられないほど金がかかる。



もともと結婚するメリットは「Hな事」以外に


「役割分担して家庭を守り子供を育てて幸せを得る」という点が大きかった。


戦前の日本では顔も知らずに(・・・・・・)結婚して嫁に行くのは珍しくなかったらしい。


男も女も生きる為に結婚という手段をとっていた訳だ。



近年その役割分担が必要なくなった事で結婚するメリットも大暴落だ。


食事はコンビニや外食で事足りる。


洗濯も乾燥まで全自動。掃除もロボットだし・・。


自分一人で生きられる時代、少子化は当たり前だね。


男女平等を叫んでいた人は念願叶ったね。おめでとう。



まぁ、それはともかく、


今の時代、男一人で働いて家族を満足に養える仕事は少なくなった。


有名大学を卒業しても一流企業に就職するのが難しい時代。


大工や寿司屋などの職人も機械に仕事をとられた。


人が必要で無くなる時代になってきた。



ついでに言うと


戦後の日本では大量に子供が生まれた。


だが地方では働く場所に限りがあった。


政府は余った労働力を企業で働けるように(部品として使えるように)教育をして、オフィスや工場に叩き込んだ。


いわゆる「金の卵」と言われて働き手が大切にされた時代だ。


当時のその方針は間違いでは無かった。



だが時代は変わった・・。


サラリーマンは楽な仕事だと言われたのは過去の話である‼



今の時代、サラリーマンが社畜と言われるほど酷使されているのは何故か。


サラリーマンを大量生産した戦後の方針と教育が今も続いているのが原因だろう。


要するにサラリーマンになりたい人が多すぎるのだ。


だから使い捨てのような待遇に甘んじなくてはらない。


今や3K と言われて敬遠されていた農家の人は毎日フロに入って清潔で、


ホワイトカラーと呼ばれていたサラリーマンの多くが社畜と言われて一週間フロにも入れず、睡眠すらろくに取れないのが現実だ。


いい加減、政府も学校も古い頭を切り替えろ、と言いたい。



そんな時代に突然ダンジョンという働き場所が出来た意味は極めて大きい。


学歴で差別されず、命がけとは言え努力し頑張っただけ収入になるのだ。


睡眠時間すら削って働いても残業代すら出ない奴隷の職場とは大違いだ。


若い世代が 探索者 または 探索師と呼ばれる職種に希望を抱くのも当然だと思う。


こんな時代に生きる高校生の自分 藤原 真もプロの探索者に成りたい一人だ。




**********************************




ダンジョンの入り口から入ってすぐに広がる大きな空間。


俗に言うセイフティゾーン、または待機空間などと呼ばれる安全地帯は東京ドームほどの広さが有ると言われている。


探索者の特性やスキルが使えるのもここまでで 一歩でもダンジョンの外に出ると全て無効となり解除される。


いわゆるアイテムボックスなどの収納系のスキルも解除され中身が放出される。


そのため、出入口ではガッチリと武装した警備員がガードしている。


この制約が有る事で外国の探索者が密輸目的でダンジョン産のアイテムや資源を

不正に海外に持ち出そうとしても水際でくい止める事が出来ていた。



この空間には国営の産出品買取センターは勿論、各種飲食店や専門の武器防具店、

宿泊施設や小さいが病院まで完備されている。


さらに外に持ち出せない武器類を保管してくれる頑強な個人ロッカーの貸し出し施設など、様々な施設が立ち並び さながら一つの町のようである。




「こちらが今回の買取価格になります。高額ですので指定の銀行に冒険者カード振り込みとなります。了承いただけましたらタッチパネルのOKボタンを押してください」


「あっ、一万円以下の端数は現金でお願いします」


「了解いたしました・・では、こちらが七千五百円となります。お確かめください」


ダンジョン産のアイテムや資源の売買は国が一括で行っている。


国防の問題や危険性の問題など理由は色々だ。


わざわざアイテムを外に持ち出すメリットなど無いオレは無難に国営の買取センターで換金してもらっていた。


さすが国営だけあって(金額に驚いて大声で個人情報をぶちまける)テンプレを行う職員などいない。


施設の名前も冒険者ギルドではなく 【日本秘境探索センター】が正式名称である。


まぁ、一般の探索者はゲーム感覚でギルドと呼んでいるけどね。


今回の自分が持ち込んだ売り物は危険なアイテムも有るため事前準備が必要だった。


危険なアイテムとは名前の知らない魔物のキバだ。



個人ロッカーでアイテムをストレージから大きなリュックに移し替え、

さらに危険なキバを安い麻袋に入れてから慎重にリュックに入れて買取所に持ち込んだ。


検査官の職員には予め注意したが ケガしないか心配になる。


それほど切れる代物だ。自分用に二本だけ残したけど。



そして査定され 出された買取金額は557.500円。


55万はほぼ名前も知らない不気味な魔物のドロップ品。


高校生が一日で手にして良い金額なのか・・。


こんな事も有るから一攫千金を夢見る人々が危険と知りつつ秘境探索を止められないのだろう。



ただ現実は過酷で苦労して手に入れた宝が思った通りの値段とは限らない。


相場の上下も有るし 必ず高いアイテムを落とす訳でもない。


まして、パーティなどの人数が多くなるほど一人の手取りは減るだろう。


それでも、一般家庭の収入としては大きいのだが。


命がけだが高収入、「一昔前のマグロの遠洋漁業の漁師みたいなものだ。」

と、知り合いの爺さまが懐かしそうに言っていた。



たぶん 自分の能力と知識が有ればダンジョンのかなり深い所まで潜れるだろう。


俗に言う「オレツエー」すれば夢の大金持ちに成れる。


でも やらない。


えっ、夢が無くてジジくさい?。


まぁ聞け。


最前線の戦場で戦っていた兵士が平和な街に帰ってきても熟睡できない など精神の障害を受ける場合がある。


深部をめざすタイプの探索者は常に自分の限界近くまで強い魔物と戦って常に精神が磨り減る。


普段の生活でも落ち着かず カミソリのようにキリキリと神経を研ぎ澄ますらしい。


ダンジョンでの戦いが戦場と同じだからだ。


その点は前世でさんざん経験したから()りているよ。


豊かで平和な生活がしたくて働いているのに、そんな精神状態で幸せと言えるのか。


しっかり働いたら後は相応に自分の時間を楽しむべきだ。


ゲームもすれば本も読む。


人によっては彼女や家族との時間を大切にするだろう。


そうで無くては社畜や奴隷と同じになってしまう。


やりたいゲームすら出来ずに「家族のため」とか言いながらボロボロになるまで働いて、歳をとったら早々に老人介護施設に捨てられて 早く死ぬのを待たれる。


それで幸せを感じるのは余程のマゾさんだろうよ。


「人生は人それぞれ」だろうけど、オレは嫌だね。




と言う訳で、想定外の収入を得た藤原 真は今まで欲しかった物を手に入れたい。


まずはオレの部屋を自動で掃除してくれる円盤みたいなロボット掃除機だな。


「えっ、まだ持ってなかったの?」って・・だれだそんな事言う金持ちは。


他にも乾燥までしてくれるドラム型洗濯機とか、ゲーム用に一番デカイ家庭用モニターとか・・は とても予算がたりないかぁ。


くっ、全てはお金か・・・下層からの誘惑が強くなる。




などと妄想しながら自販機コーナーのベンチで缶コーヒーを飲んでいたオレ。


その肩が後ろから叩かれた。


「だれだ、オレをクビにしようとする上司は・・」


何かの本で見たセリフを言ってみる。オレに上司なんていないけどさ。


後ろを振り向くと犯人は笑いをこらえている受付のお姉さんだった。


なぜに?




**********




案内されたのはギルド(買取センター)の責任者の部屋。テンプレかよ。


「藤原 真くんだったな・・率直に聞こう。

今日、君が持ち込んだ 千剣(せんけん)ミミズ のキバはどこで手に入れたのだ」


「えっ、あれ・・ミミズだったんですか?。

どちらかと言えば ヘビかイモムシみたいだと思うけど・・」


相手のムカツク聞き方にイラッとしたが、魔物の名前の方が強烈だった。


「・・・驚いたな。本当にアレと戦ったのか。

んんっ!、魔物の名前は発見者が付けるからな実態にそぐわないものも多いのだよ」


ほーん・・なるほど。 


オレが盗んだとか思われていたんだ。気分悪いな



それにしても、こいつ・・・顔の表情が変わらねぇ。


アンドロイドと言われても納得できるレベルだ。


自分を買取りセンターの責任者とだけ説明した男は40台半ばという若さだ。


眼鏡でも掛けたら大企業の陰険(いんけん)な中間管理職に見えるだろう。


「今 君が口にした魔物の感想は実物を見て無ければ出てこないものだ。

・・・すまんな。

君の特性が魔法使いだったので疑問に思って質問させてもらった」


とか言ってるけど顔の表情が変わらないので少しも()びてるように聞こえない。


「それにしても興味深いな・・・アレを倒せる魔法使い特性の戦い方か・・」


「戦い方は教えませんよ。真似されて人が死んだら気分悪いし」


「君と同じ魔法特性の立場が悲惨なのでね、聞きたかったのだが・・残念だ」


嘘つけ、センターの利益の為だろが。


魔法使いが不遇なのがオレのせいだと言わんばかりだぞ。


大方 オレに指導でもさせて成功したら自分の功績にしたいんだろう。




「一つ質問 良いですか?」


「ん・・なにかね」


話題を変えてみる。無実の罪で呼び出されたし、これくらいは許されるだろう。


「今回のアイテム、ミミズのキバですか・・何であんなに高い買取りなんですか。

売るにしても ナイフなら普通に売ってる既製品で充分だと思うんで」


「ああ、その事か。難しい話じゃないさ。特別に優れたナイフに成るからだよ」


「確かに切れ味は良かったですけど・・」


「これはダンジョンから産出される品物に共通する事なんだが、俗に言うところの魔力を内包している。それが良い方向に働くことが有ってね、あのキバは肉を切るのに特化しているんだ」


「・・でも短いし、狩りに使える人は少ないですよね」


「確かにそうだが、需要があるのは料理店や肉の加工所などだよ。

どれほど肉をさばいても油や血が(まと)わり付かないから切れ味が落ちないらしい。

引く手数多でね、有れば有るだけ売れる」


素直に驚いた。


国がこんなに商売がうまいとは・・確かに一般の方が需要が大きい。


いわゆる魔石だけで儲けていた訳では無いということか。


「驚いたようだね。

ついでに言うとあのキバは少しくらいの刃こぼれは自動修復する。

もっと高値が付いても不思議ではないね」


ミミズのキバすげーー。


すると何か?、もしかして・・ギルドで売られている探索者向けの武器防具もその手の特殊効果が有るのか。


ダンジョン産の装備が バカみたいに高い値段なのも納得するしかない。



あっ・・


いや、そうだった。思い出した。


前世でも魔力で強化された武器防具が無ければ深いエリアの探索なんて出来なかった。


今まで思い出せないなんて迂闊(うかつ)にもほどがある。


俺の前世の記憶は全て思い出している訳では無く、バラバらな断片なのだ。


思い出せなかったのは、浅い階層ばかり探索してたから必要に迫られなかったのも原因だろう。


色々あって頭が痛くなってきた。



アレッ? 本当に痛い、痛いぞ。


レベルが反映されるダンジョンの中じゃ無かったら気絶するほどの痛さだ。


「他に要件が無ければこれで失礼しますね。ちょっと頭痛が酷くて・・・」


「あ、ああ。呼び出してすまなかった」


体調不良を理由に部屋から退席することにした。


たぶん顔色も悪かったのだろう。責任者のおっさんも引き留める事はしなかった。




帰ってから気が付いたが、オレの能力に「秘匿(ひとく)ストレージ」なるものが追加されていた。


これについても思い出した。


前世の世界はハードな能力の戦いだった。


高レベルの盗賊職になるとストレージやアイテム袋からも盗み出すスキルを持っていた。


高額な装備やアイテムが盗まれると二度と手に入らないのでシャレにならない。


そこで一般のストレージをダミーとして盗賊を(あざむ)き、特に大事なものはさらに

一段階深く空間領域を作りストレージにしていた。


前世の自分が苦労して魔法で作りあげたものだ。


前世のオレは天才的な魔導師だったからね。


なぜ、今になって急に思い出したのか・・・


迷宮産の武器防具に特殊機能が付くことを思い出した事が切っ掛けとなって連鎖的に解放された能力なのだろうな。


今後は必要に迫られるから、という理由も考えられるが・・・。


その隠されたストレージを開いてみた・・・有ったよ。中身がそのまま入ってる。


前世のオレと勇者パーティが予備の武器防具として収納していた最高レベルの品々だ。


ははっ・・エリクサーレベルの回復薬などなど、今の地球では入手不可能なアイテムまでゴッソリ収納されている。


あーーうん・・・・このまま秘匿でいいかな。


下手に世の中には出せないよ。



とりあえず、無かった事にしよう。




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