第37話、ダンジョンに群がるアリたち
「あっ、深緑の鏃が帰って来たぞ」
「是非とも我が社に優先買取り指名をお願いします」
「いや 我が社なら他よりも良い買取り条件を提示できます。是非とも我が社に」
メメ達のパーティ深緑の鏃が入り口ゲートから出ると資源買取り目的の企業が殺到する。
巻き込まれた茉莉野姉妹はその勢いに押されてタジタジだったと、《《後から》》聞いた。
何故なら俺、 藤原 真 はその時 その場には居なかった。
ひと悶着どころかメチャメチャもめたが、彼女達は先に帰し、
俺だけ単独行動を勝ち取ったのだ。
今 俺が居るここは七飯ダンジョンの7階。
規模が大きくなった今ではこの深さまで来ないと魔石が美味しい魔物であるオークが出現しない。
普段は探索者諸氏が活発に獲物を追いかけている階層なのだが、
「******、************!」
「@@@@@@@@@,@@@@@@@@@ ‼」
今は違う言葉で罵声を喚き散らして乱闘している真っ最中だ。
やくざ映画の抗争シーンも かくやとばかりに激しい抗争が行われている。
銃火器が使えない環境だから武器は物理系の刃物や鈍器。
飛び道具もナイフ程度だ。
勝負を左右するのはレベルによる身体能力とスキル、
そして対人戦で大きく影響するのが武術や格闘術になる。
両陣営もその心得は有るようだが拳法の本場の国と思われる陣営がやや優勢だ。
武器の攻撃以外にも蹴りや素手の攻撃が応酬されている。
どちらにしても、他人の国で本気で殺し合いとか、何やってんだか・・・。
部外者としては面白い見世物なので壁際に寄りかかり腕を組んで見物させてもらう。
前世では珍しくも無い血飛沫が飛び散る凄惨な戦場。
人間同士の殺し合いは前世で見慣れていたつもりだった。
が、この平和な日本に馴染んでしまったからかキツイわ。
まして、メメ達女性陣にはキツイはずだ。
人を殺す罪悪感は平和な社会生活では必須のモラルではある。
だが、死ぬか生きるかの死闘の場では一瞬に罪悪感が攻撃をためらわせ、
結果として自分を殺す。
今、目の前で戦っている連中はそんなモラルの欠片も無いのか躊躇無く本気で殺しあっている。
それにしても資源目的なのは分かるけどここまで殺気立つのは何なの?
「***・・・ぎゃああああ」
劣勢チーム最後の一人が逃げようとして背中から刺されて死合い終了。
戦場で一斉に逃げ出す事で有名な国にしては最後まで頑張った方だ。
そして次には目撃者の俺を取り囲む男達。
「@@@@@;@@@;@@‼」
言ってる言葉は何一つ分からないが、言葉に殺気が籠っててニュアンスは
伝わってくる。
この辺は世界共通で分かり易い。
人を襲ってくるゴブリンと同じ目をしている。
こっちが動かないので怯えていると見たのかニタニタしながら近寄って来る。
勿論、手には血まみれの刃物が握られていて 殺す気満々だ。
「;@@@@@v@!‼」
ジリジリと全員で俺を取り囲む。
その中の一人が近寄り間合いに入るなり攻撃して来やがった。
「バカめ」 シパーン☆
一瞬で首を切り飛ばした。
こんな修羅場に何も準備して無い訳が無いだろ。
俺の周りには既に次元素で作られた流点の斬撃魔法が取り巻いている。
周りに居た男たちが血の噴水を浴びて驚き硬直する。
「‼‼‼`@@@!」うあーーーーーーっ!
見えない攻撃なのだ、さぞ恐ろしいはずだ。
平和ボケした日本人など楽に殺せるとナメていたのだろう。
ところがどっこい、覚悟を決めた日本人ほど恐ろしい民族は居ないのだよ。
平和に生きている日本人は正に眠れるオオカミ・・・いや、フェンリルだろ。
彼らはそんな日本人の耳元で暴れて刺激している。
願わくば我々を眠りから覚まさないでもらいたいものだ。
「゛゛@@‼」ザシュッ、「@@@」シャーン、「・・・@@!」スパーン☆
自分たちが襲い掛かった相手がヤバイと知って、早くも逃げ腰になった男達も
もれなく首チョンパ。
ここに一般の女性探索者がいたなら、もれなく漏らして失神確実だな。
逃げ出したから見逃せ?とんでもない。
人権?、人道的?、異世界生まれの俺には寝言にしか聞こえんな。
こいつ等の国は平素から国ぐるみで日本のデマを吹聴して意図的に風評被害を発生させている連中だ。
自分たちが負けた恥を隠すためなら何を言い出すか分からない。
嘘八百並べて俺を悪人に仕立て上げるのが目に見えている。
前世では珍しくも無い現実だが、その手の謀略はもぅウンザリなんだ。
とりあえず 他国の2チームが殺し合いをしていた理由が分かった。
近くの安全地帯に作られた企業の資源保管基地が襲撃されて
駐在社員が皆殺しになっている。
美味しい資源の奪い合いで文字通り血眼になっていたらしい。
≪ダンジョンコア、見てるんだろ。早めに死体と残骸を収納してくれ。
中で人殺しが有るとネットに悪評が拡散されて入場者が減るぞ≫
20人近い数の死体と建物の残骸や荷物は5分も掛からずに消えていく。
「きゃっ!@@@@‼」
当然だが生き物は残る。
残骸の陰に女が一人 隠れていた。
マンガやアニメなら ここで敵の女性を助けて ラブロマンスへ
・・・と臭い芝居になるが現実はそんなに甘くない。
昔の日本でも「入り鉄砲に出おんな」という諺が残るくらい
戦いでは女の方がヤバイのだ。
と言う訳で、男女平等 斬首。
おっと 「無抵抗な女を殺すな」、「人殺しヒドイ」と言うのは無しだ。
そう思った人 反省しなさい。
その理由はこれ・・女が持っていた録画機材と録音機材。
この中には企業を襲うシーンから俺が最後に盗賊達を斬首するシーンまで
しっかり録画されていた。
この女は某国のスパイだよ。
この画像を持ち帰り、都合の良い所だけ公表して日本を、
さらには探索者全体を悪く言うのが目に見えている。
何故わかるのか?、それが国家間の謀略のセオリーだからだ。
ダンジョンは俺達の職場だ。荒らしは許さん。
そして女も平等にダンジョンに呑まれていく。
コアは生命力とやらを大量に手に入れて今頃ウハウハだろう。
さてと、抗争は終結したし、帰るか。
それでは転移っと。
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わいわい・・がやがや
「藤原様 この度も納品いただき ありがとうございます。
こちらが今回の買取価格になります。
高額ですので指定の銀行に冒険者カード振り込みとなります。
了承いただけましたらタッチパネルのOKボタンを押してください」
ダンジョン入り口にある巨大な空間、大セイフティエリアに有る通称冒険者ギルド、
正式名称【日本秘境探索センター】内の資源買取りの受付では毎度おなじみの応対が淀みなく行われている。
人気パーティ深緑の鏃が探索から戻った事で何を手に入れたのか興味津々の野次馬が集まって騒がしい。
メメ達が手に入れたインゴットは売る訳にいかないから彼女達の
特殊武装と一緒に預かっている。
しかし、実力者の彼女達が手ぶらで帰る方が不自然だ。
なので今回は俺がお土産にもらったオリハルコン鉱石で収穫を偽装する。
「あの深緑に寄生虫してる魔法使い野郎、オリハルコン鉱石を買取りに出していたぞ。いったい幾らになるんだ?」ぼそぼそ、ひそひそ
「ネットの予想では金の数倍はするらしいぜ。
収納魔法使えるだけの役立たずのくせに良い御身分だよな」ぶつぶつ、ぐちぐち
荷物持ちと思われている俺が彼女達のアイテムを換金する事を知っている周りが煩い。
他人の収入を妬む声が俺に対するヘイトで増幅されて突き刺さって来る。
うっせーな
女性陣はこれ以上の価値が有るインゴットを手に入れているぞ、と叫びたくなる。
だが、それは悪手だ。
今や世界中の国が欲しているレアメタルのインゴットなのだ。
その入手方法を聞き出そうとダンジョンの外で先日のような襲撃を受ける可能性すら有る。
間違っても公表なんて出来ない。
俺がオリハルコン鉱石を目立つように売るのは ダンジョン内部で
抗争している盗賊団?の関心を俺一人に集めるのが目的とも言える。
あの2チームだけのはずが無いからね。
そんな理由から、皆と相談の上 インゴットは武器が作れる必要個数が集まるまで
俺の秘匿ストレージに確保して置く事になった。
資源目的で最近は七飯市そのものが物騒に変わって来たぞ。
「藤原様、探索センター所長の鮫島が面会を望まれています。
是非ともお時間をいただきたいとの事です。
なにとぞお願いいたします」
受付のお姉さんが珍しくマニュアル以外のセリフを言った。
鮫島?知らんぞ だれだ、それ。
所長という肩書だしお偉いさんなんだろうけど・・・。
丁寧な言い方をしているが実質は強制的な呼び出しに近い。
今断っても何度でも呼び出されるパターンだ。
学校で校長室に呼ばれる気分だな。
以前は小さかった買取りセンターもダンジョンの拡張と共に増築され
建物自体大きくなった。
所長室とやらも案内されないと一人では行けないわ。
コンコン☆
「所長、藤原様がお越しになりました」
「入ってもらいなさい」
カチャッ
そこに居たのは以前 俺に窃盗疑惑で言いがかりを付けて来たオッサンだ。
そう言えば責任者とは聞いていたが所長だったのか。
「久しぶりだね、藤原 真くん。私は鮫島 五郎っていう平凡な男だ。
以前はしがない買取りセンターの管理職だったんだが、今はこのダンジョンの総責任者の所長に就任している。よく来てくれた。こちらに座ってくれ」
おいおい・・・平凡か?鮫島 五郎って 今時じゃ絶滅危惧種な名前だと思うぞ。
それに話し方が前よりフランクになってないか?・・・違和感が凄い。
「はぁ・・いろいろ驚いてますが、なぜ呼ばれたんでしょうか?」
「君を呼んだのは簡単に言えば注意喚起だな」
「別に注意されるような悪い事はしてませんが・・・」
実は少しビビっている。ダンジョン内ではグレーな事はしてるし。
先日は外で半グレ連中を再起不能にしてるし、探られたら痛い事案がチラホラ。
ましてや、つい先ほど両手を血に染めて来たばかりだ。
俺の平和だった探索者生活は何処だ。
「いやいや、注意っても そっちじゃ無いさ。
これは上位の探索者達全てに伝えている注意事項でな
気を悪くしないでくれ」
上位探索者、・・・魔法使い特性持ちの俺がか?。
「言いたい事は分かるが事実だ。
現にオリハルコン鉱石を納品できる者は君と深緑の鏃、その他は少数のパーティしか確認できていない。
自分の存在価値が分かったかね」
「ひょっとして、俺が深緑の鏃と組んでるから呼ばれた、とか。
それなら直接 彼女達を呼んだら良いのに」
「それなんだが、若い女性を呼びつけると色々と危険でな。
女性問題は社会的に立場が出来ると特に気を付けないといかんのだ。
君は彼女達と懇意にしてるようだし、これから言う事は彼女達にも
伝えて欲しいのだよ」
あーー・・分かるよ。
俺がロリ魔王に脅迫されるのと同じ危険が有るよな。
この部屋に呼びつけた後で悲鳴でも上げられたら社会的に終わりかねない。
地位や立場が高いほど危険だ。
俺はそんな立場なんて御免被るわ。
「それで、伝言したい事って何ですか?」
「ダンジョン内に国際的な強盗団が入り込んでいる。
今日も5階のセイフティエリアに作られた企業の資源保管所が襲撃された。
他のダンジョンでも同じ手口で襲撃されている。
他にも探索帰りのパーティが襲撃され資源を奪われている。
くれぐれも注意してくれ」
実にタイムリーでホットな話題でした・・。




