第3話、歌いたくもなる
「じーんせい~♪」
「はじ、ありゃ♬ く~もあるさ~ぁ♫」
下手糞ですか?そうですか・・。
歌っていたのは有名な時代劇の主題歌だ。
現実の人生に合うように替え歌にすると悲惨な歌詞になっただけ。
酷い歌なのは認めよう。
でも・・共感される方も多いのではないか?。
「なみだの後には~♪ へ~ド、も出るぅ~」
「あ~るいて ゆ~くんだ、ト~ボ トボと~、社畜の鎖をひきずうって~」
異世界で生きた前世の人生を思い出したら悲しくなった、それだけ。
今日の藤原 真さんは とってもナーバスなのだった。
「異世界? 前世の人生だぁ?、厨二病かよ、バーカ」とか言われそう。
でも自分は本当に異世界から現代の日本に転生したぞ。
証拠は色々ある。
その一つにオレ 藤原 真 はダンジョンから出ても魔法が使える。
うん、オレだけ。
オレだけ・・とか言うと安直なご都合主義のチート設定に思われるが、小説ならともかく現実の日本でこんな事実を世間に知られたら恐ろしい影響が有るだろう。
チートどころか 特大の厄ネタだぞ。
平和な生活など望むべくもない。
トラブルが団体で押し寄せること確実だろ。
親にも話せないし 死ぬまで秘密にするしかない。
「異世界からの転生?、有るわけねぇだろ。嘘つくな」と怒号が聞こえるようだ。
意外と多いらしいよ。
記憶が残っていないので気が付かないだけで・・・
怪しいのは【エジソン】かの有名な発明王だ。
幼いころのエジソン坊やは もの凄い情緒不安定な子供だったらしい。
それはもう頭がおかしいのでは、と周囲の人が思うほど混乱していたようだ。
母親の愛情で立ち直ったエジソンは後に次々と画期的な発明をしていく・・・、
と美談で彼の人生は語られている。
だが、彼が「文明の進んだ世界の記憶を持った転生者」と考えれば全て辻褄が合う。
幼少期の混乱も後の発明も、前世の記憶を持っていたからだと説明ができる。
ま、推測だけどね。
他にも そんな不思議な人いると思うよ。
まぁでも、普通の人には縁のない話だ。
そう、普通の・・。
はぁ~、すでにオレは普通の人では無いのかよ。
こんなに平穏な人生を望んでいるのに。
我、泣きぬれて・・ゴブリンに八つ当たりする。
グレた藤原 真は 怒りに任せて突き進んだ・・
判断力が低下した状態でのダンジョン探索は自殺行為だ。そう、普通は・・
普通は・・・・くっ、良いんだ、どうせオレなんて・・・
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そんな暗い気持ちが原因で突き進み 普段よりも深く潜っていたらしい。
気が付くと目の前には気持ち悪い大きな魔物が居た。
名前も知らない魔物だ。
ヘビのようにテカテカした胴体。
ワームのような口には短剣のごとき歯が並び、
イモムシのような足がムカデのように並んでいる。
目は無く、4本の触覚で獲物を判断しているようだ。
気持ち悪い見た目だ。
まぁ・・魔物だし。
見た目が良い方が珍しいか。
対するオレの武器はクワだ。(笑)たぶん園芸用のソレ
農家の人が使うソレとは違い 先が尖っている。
全長は1メートル50センチほど。
アルミ製で軽く、土を掘り起こす先端はステンレスなので錆びにくい。
つまり、手軽な武器として充分使える。
何もバカ正直にダンジョン向けの高価な武器を買わなくてもホームセンターに行けば武器として使えるものは色々ある。
他にも・・おっと、細かい話は後にしよう。
目の前の魔物、足は速くないが体の動きは素早くて油断できない。
静かに足元の石を拾い、自分とは反対側の壁に思いっきりぶつけて音を立てる。
魔物は反射的にそちらに対して攻撃しようとする。
静かに素早く魔物に近づき野球のバットのように鍬をフルスイング。
一番柔らかそうな足の付け根近く、腹に当たる部分に突き刺す。
現実の戦いは客に魅せるためのショービジネスではない。
本当の命がけで戦ってる最中に敵とベラベラ会話をする?そんな暇は無い。
勝負は一瞬。先に相手に致命傷を与えた方が勝つと言ってもいい。
だからこそ
魔物に何もさせず、その一瞬で傷口から高威力の雷撃の魔法を流し込む。
魔法だから武器の材質は関係ない。これが火炎系の魔法でも同じように流せる。
魔物は痙攣したかのようにビクつき、そのまま消えていく。
オレの勝ちだ。
後には俗に言う魔石、鋭い歯、・・・そして肉の焼けたような匂いだけが残った。
「魔法使いは使えない」と思い込まれ 探索者パーティからは疎外される。
とある魔法特性の人が諦めず護衛を雇ってパーティを組みレベル上げをした。
使える攻撃魔法も多少は増えた。色々試した。
しかし・・レベルを上げても結果は同じだった。
ファイヤーボールを打てばライターの火ほどの小さな火球がフヨフヨと飛ぶだけ。
高範囲殲滅魔法など「ポン」と音だけで終わる。他の属性でも同じだ。
結果として「魔法の攻撃は全く使えない」と言われている。
確かにショボすぎる。
高火力、広域殲滅が売りの魔法使いにとって死にたくなるような現実だ。
そもそも後衛職で物理攻撃に弱い魔法使いがパーティに入らず一人で探索するのは難しい。
自分一人でレベル上げなど不可能に思える。
ゲームと違い命がけの現実ではなおさらだ。
無理をすれば先日のスッポンポン少女のようになる。
だが、言おう。
要は魔力の使い方だ。
魔法使いの一般的な攻撃魔法は役に立たないが、今のように武器を媒介にして
直接相手に魔法を作用させれば充分な高火力が出せる。
魔力をそのように使うのは邪道な事でも特別な事でも無い。
剣士や盾職が使うスキルも間接的に魔力を使っているからダンジョンで通用する。
物理学者が発狂するくらいダンジョンの中は別世界なのだった。
とは言え、使い手が成長できずMPが少ないままでは こんな戦いはできない。
負のスパイラルだ。
今後も魔法使いは茨の道が続くだろうな・・。なむなむ
ダンジョン探索は奥に行くほど強い意志とメンタルが必要になる。
ソロで探索するなら なおの事それが生死を左右する。
戦場に孤立するのと同じ精神状態を常に耐え忍ばなくてはならない。
そんな思いをするくらいなら普通に探索者以外の仕事に就いた方が幸せと言える。
オレ?。ソロでも平気だよ、前世はもっともっと酷い状態が多かったから。
ドロップした石はそこそこの大きさ。やはり強めの魔物は稼げる。
そして、長さ20~30㎝ほどもある多数の歯。いや、これはもうキバか。
それはまさに両刃の曲刀の刀身、恐ろしく切れる。
少し加工して拵えを作れば極上のナイフになるだろう。
ただし需要が有るかは知らん。
とりあえず危険物はストレージに確保。
さて、ここが何層目のステージか分からないし 帰還する為に浅い階層に転移する。
ボッチなどと悪く言われるが、実は 《《ソロの活動》》はオレにとって大変に都合が良い。
火力の貧弱な点で敬遠されているが、魔法使いの真価は他に有る。
そして、その影響力は途轍もなく大きい。
転移の魔法もストレージと呼んでいる収納空間も他人に知られたくない。
まして、それが秘境の外でも使えると知られたら恐ろしい事になるからね。
えっ、運送業で大儲け?。
甘い、世の中を甘く見すぎだ。脳みそが砂糖だろ。
まず、これが知られたら、今まで魔法使いを邪険にしていた探索者パーティの多くが今度は脅迫や拉致監禁してでも道具にしようとするだろう。
そう、仲間ではなく道具だ。
そして 良いようにこき使い、いづれ転移の魔道具やアイテム袋などが手に入ったら 今度はラノベの主人公のように「役立たず」と言われてその場でクビになる運命だ。
しかも、拉致されてる間は戦えないから成長せず弱いまま。
酷い話だろ・・。
もっと恐ろしいのは裏社会の人達に捕まり麻薬の運び人にされることだ。
運べる麻薬の量は恐らく百億円単位の膨大なものになり、多くの人を不幸にする。
当然 警察だってバカじゃない。すぐにマークされる。
そして、警察の威信をかけて全力で捜査され 逮捕しようと追い回される。
転移で逃げる事は出来るだろう。
だが、行きつく先は 第一級の国際指名手配の犯罪者だ。ル○ンかよ?。
どこに安らぐ平和な人生があろうか・・。
ブルブルッ
あまりの悲惨な未来予想に寒気がする。
つまり、魔法使い藤原 真 は無能だと思われていた方が幸せなのです。
救いがないよね。
ああっ、また あの替え歌が歌いたくなった・・。