第11話、ガラガラ
場が一転して緊迫した雰囲気に成る。
「他の探索者を殺した」この言葉が与える影響力は大きい。
責任者気取りの木っ端役人が喚いたセリフはこの場の人々の意識をすり変えるだけの充分なインパクトが有ったのだ。
話の通じそうな本物の責任者二人ですら この話題は無視できないほどだ。
勝ち誇った顔のザコ職員を殴りたくなってくる。
しかし、手を出したら負けだ。
あー・・・オレよりも手が早い女子が切れる前に何とかしないと・・・。
「ちょっと失礼」
近くに有ったテーブルを持ち上げて運ぶ。
けっこうな重さの四角いテーブルを場の中心に持ってきた。
ちなみに酒場のテーブルではない。喫茶店だ
「なっ、何のつもりだ‼」
また喚きだした。弱い犬ほどよく吠える、とは良く言ったものだ。
コレで殴られる、とでも思ったのか 腰が引けている。
「望み通り証拠を見せてやるよ、おっさん」
「おっさん・・だと」
「何か文句有るか？。高校生の俺達をガキ呼ばわりするんだし 立派なオッサンだろ」
おっさん職員は愕然としている。
うん。20代でおじさん呼ばわりされると巨大なショックを受けるらしいからな。
少しスッキリしたけど、それはさておき・・・
ガラガラ ガラガラ ガラガラガラガラガラガラ☆
と大量の魔石をテーブルの上に放出する。
今にも零れ落ちるくらいのお宝に場が静まり返る。
「途中で狩った別のが少しだけ混じっているけど、これ全部オークの魔石だ。
鑑定してもらってもいい。潜ってから数時間でこれだけのオークに遭遇できるか？
探索者なら有り得ないと分かるよな」
「ああ、こりゃあすげえ。よく生き残れたな」
「そうだ、なぜ無事なんだ。それどころか傷一つ無い。早く本当の事を言え」
何だろうな・・
ケガしてないのが悪い事みたいに言ってるぞ。本当なら喜ぶとこだろが。
「無事で悪かったな！。まだ信じられない？無事な理由も話せと言う訳？」
「当たり前だ、魔物の大群に遭遇して無実だと言うなら証拠を出してみろ」
しつこい野郎だ。
自分の進退がかかっているから後に引けないか・・
こんな奴は理屈で善悪を言っても効果無いし、
「見せても良いけど、おっさんはパーティの奥の手を探ろうとしてるんだからな。
もしも、これが原因でトラブルが起きたら覚悟しろよ。刑事と民事訴訟で訴えてやる。
損害賠償を払えるのか？最低でも一千万は下らない金額には成るぞ」
「なっ、何だその金額は、大人を脅迫する気か？。
言い逃れするならもっとマシな理由を言え」
ハハッ、ビビッてる。
善悪の判断ができない頭がおかしい奴には 正論よりも金銭的な負債のほうが恐怖するらしい。
「ここに居る全員が証人だ。スマホで動画取ってる人たちもよろしく。
誰も見たことが無いお宝をお見せしよう。バグるぞ」
「はっ、まさか真、アレを見せるつもりか？。いかん、出すでない」
芽芽の必死な叫びがさらに場の注目度を高める。
恐ろしい時代だ。
目撃証言どころか その場で記録映像が量産される。
俺はストレージから剣を取り出した。
「これなる大剣は何と炎の魔剣。これの一振りで多くのオークが塵となる」
剣をサヤから抜き放つと刀身・・いや剣身かな？
刃の表面からユラユラと赤く炎がうごめき輝いている。
「「「「「「「「「おおおおおおーーーっ、すげーー。」」」」」」」」」
パフォーマンスは大切なのです。
実はコレ見た目だけハデな祭り用の剣なのだが、探索者の皆にとっては
さぞ凄いアイテムに見えている事だろう。
こんな場所で間違ってもメメ達の武器を出すはずが無い。
「・・・・・・」
芽芽たちは安心と驚きで石像のように呆気にとられている。
ネコが驚いて硬直しているみたいだ、ははは。
取り出した武器は前世ではノーマルに毛が生えた程度のナンチャッテ魔剣。
彼女たちが使うソレとは天と地の差が有る。
驚くパーティメンバーの反応が他の冒険者には秘密がバレて愕然としているように見えるらしく さらにアイテムの信憑性が高まっていく。
無理も無い話だ。
日本に於いては発見すらされていない魔法付与のなされた武器である。
そしてさらにパーティの人数分の武器を取り出して見せた。
どれも前世の世界ではノーマルに毛の生えた程度の品物だが
会場は探索者の集まりなので異常なくらい盛り上がった。
そして、それとは対照的に買取センターの方々はその価値と、世間に対する影響力に気が付いたようだ。おそろしいものを見たような怯えた顔をしている。
こんなのでも今の世界ではオークションに出すような品々であり落札される値段の予測すら付かない代物なのだろう。
それを無理やり衆目に晒したのだ。
もしも盗難などの被害が出た場合 告訴されかねない。
公務員としては胃に穴が開くような出来事である。
バカな職員はともかく、まともな責任者の二人には気の毒な話だ。
「見せてしまったからには、この魔剣の存在が世界に知られた訳だ。
世界中が注目するぞ。オークションに出したら値段はどうなるかな？
もしも、これが盗難にあったらオッサン、お前のせいだからな。
刑事でダメなら民事訴訟で損害賠償を請求してやる。」
「ふ、ふざけるな‼。盗まれたなら盗んだ奴を訴えろ」
「まだ分からないのか、深緑の鏃がわざわざアイテムボックススキル持ちのオレに依頼してまで誰にも見られないように運んだ装備を、
何の権限も無い職員のお前がケチを付けて衆目に晒したんだ。
それで 盗難に遭ったら民事だけでなく刑事訴訟ものの大問題だろ」
「ちっ違う、私は職務を全うしただけだ、私の責任じゃない」
オツサンは顔面蒼白で痙攣したように足をガクガクさせている。
この手の話に詳しい人なら気が付いた事だろう。
もしも訴訟を起こしたとしても罪に問えるかは微妙だし、
値段が分からないなら罪になったとしても巨額の賠償請求は無理かもしれない。
オレが今行った茶番とパフォーマンスは不愉快な思いに対するただの仕返しなのだ。
本当は一発殴った方がスッキリするけど、それが出来ないからね。
こんなゴタゴタの末、やっと責任者達とまともな話し合いに成った。
当然ながら警察の事情徴収が行われ、さらに時間が浪費される。
ともあれ、冤罪を被る最悪な事態は回避できた。
事件には成らなかったが結局マスコミには知られ、多くの動画も残った。
ちなみに、冤罪を仕掛けていた若い職員だが、胃を魔法で焼いて大きな胃潰瘍を作ってやった事だけはコッソリ記しておく。
再起不能にしないだけ感謝して欲しいものだ。
