第10話、大事なのは・・・
騒然となるダンジョン入り口のセイフティエリア。
「ちょうど良い、みんな聞いてくれ。
6層は今の時点でトラップが作動したためフロアー全体にオークが充満している。
探索するなら相応の準備と心構えをしてくれ」
ざわざわ
野次馬たちの雰囲気が変わった。
「数はどれ位なんだ?」
「正確な数など数えようが無い。
フロアー全ての部屋に大量のオークが湧き出しおった」
さすが皆がプロの探索者だ。
情報の大切さを心得ている。
「それが本当だとして なぜ君たちは無事なのかね?。
見たところケガすらしていないようだが」
受付嬢と共にやって来たのは どう見ても20代の若い男。
とても立場が有る人間には見えない。
「そちらは責任者の方ですか?。違うならご遠慮してください。
何度も同じ報告をするほど悠長な時間はないので」
「安全保安部長は接客中だ、探索者のクレームごときで御出にはならない」
ザワッ‼
ああっ、向こうの世界にも居たな・・。
事の大きさが分からない貴族のボンボンが・・・
この男もどうせコネで就職した口なのだろう。やれやれだ
「緊急事態だと言ったはずです。そこのお嬢さん、もう一度呼んで来なさい」
琴平 涼香の声は気迫を載せている為に静かはあるが心に響く。
場慣れしていない者には恐怖すら感じるだろう。
受付嬢は声も出さずに走り出していた。
「ま、待て。その必要はない」
「必要無いとな・・・皆 聞いたな。こ奴は私たちの命を軽んじておるぞ」
「そんな事は無い」
「いいや、あるね。あたしたち探索者が死ぬかも知れない事態を下っ端役人の小手先で済まそうとしてるじゃないか」
「何だと、ガセかもしれない情報をいちいち責任者に通す訳がないだろう。
下っ端とは何だ‼ 大人をバカにするな。いいからとっとと要件を話せ」
探索者が命がけで持ち帰った情報を精査もしないでいきなりガセ扱いか・・
「じゃあ連れて行ってやるよ」
「ああ?‼、何だ貴様は。関係ない者は引っ込んでろ」
「や か ま し い わ‼関係者どころか当事者だ。
話が嘘かどうか、お前を現場まで連れて行ってやるよ。
責任者を気取るならオークの団体を自分の目で確認しろ。
心配は無いぞ、探索者は助けあうからな。探索者・・・だけな」
「ひっ‼」
あっ、やばっ。けっこう強めの殺気を込めてしまった。
下っ端職員は最早使い物にならないくらい顔面蒼白で気絶しそう。
口出しはするまい・・と思っていたのに
前世のクズ貴族を思い出したら思わず声が出てしまった。
シーーーーーン・・・・
あー・・、やってしまった。
気に当てられて場が静まり返っている。・・・どうしよう
芽芽たちメンバーの呆れたような視線が痛い。
「素晴らしい気迫だ。君は何かの武道に精通しているようだな」
ざわっ、と時間が動き出したように場がざわめきだす。
受付嬢と共に入ってきたのは二人の男性。
なるほど・・存在感が違うな。
「き、局長。接客中では・・・それに保安部長まで」
「呼びに来た受付嬢が怯えながら緊急事態だと言ったのだ、私が来なくてどうする」
「しかし、このような些事は我々で解決すべきかと・・」
復活した木っ端役人が場を取り繕おうとしているが、それは墓穴でしかない。
何故なら
「ほぅ、皆は聞いたな。この者は話を聞く前から私たちの報告を些事だと言ったぞ。こちらが緊急だと再三言ってるにも関わらずじゃ」
「当たり前だろ、探索者が騒ぐたびに局長や保安部長を呼べるものか。
我々が精査してから報告するのが筋だろう」
へえ、さすが責任回避に秀でた役人だ。まるで正論のように聞こえる。
「では聞くが多数の犠牲者が出たトラップを貴様ごときの立場でどう精査するのだ。
どうせ対応できずに上に泣きつくだけじゃろう。
マスコミが大騒ぎして喜ぶ案件を一刻も早く処理する為に急いでおるのに。
貴様にくどくど説明するための無駄な時間をどう責任取るつもりじゃ、言うてみ」
「いや まて、何故 保安に関わる案件を単なる一職員が対応しようとしている。
もしも事態が悪化したなら、事によっては貴様を書類送検する」
「多数の犠牲者・・・
まて、その者の事などどうでも良い、君 詳しく聞かせてもらおう」
上に立つ二人は話の分かるマトモな人間のようだ。
「では順番に話していこう。とは言え時間が無いので手短にする。
先ほどまで ここに居る五人で六層まで降りておった。
他にも何組かのパーティが居たようでの、トラップに引っ掛かったのは彼等じゃ」
「先ほど 何故私たちが無事に帰ることが出来た?と聞かれたのですが、トラップが作動した時に廊下を移動中だったからですわ。でなければ いきなりオークの集団に囲まれて危なかったでしょう」
「ふむ・・と言うことは他は?」
「残念ですが彼らはこの中です。後で検死官の方に確認させてくださいな。
ここでお見せするのは刺激が強すぎます」
涼香 がアイテムバッグを示して悲しげに告げると責任者たちに緊張が走る。
「うっ、嘘をつくな‼。
そんな場所から脱出したのに無傷ですむはずがない。貴様らが殺したんだ!」
下っ端職員が喚きだした。
まだ居たのか・・・。
ガヤガヤと探索者たちが狼狽えだす。
しかし、厄介な事態になったな。
人は時として感情で物事を判断する。
この場を納得させるには相応の理由が必要になるだろう。




