第1話、不遇な立場
俺は藤原 真 。ギリギリ読みやすい名前でした。お見知り置きを・・。
こんな普通な名前のオレは若者らしくダンジョン探索をしている。
何故 若者らしいか?。
そりゃあ 他の仕事に希望が持てないからだよ。
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グゲェッ
詳しい話は置いといて、とりあえず今日最初のゴブリン撃破。
ほどなく溶けるように死体は消えていき後には小さな石が残る。
これが色々と利用価値が有るらしく300円で買い取られる。
言うまでも無く一個だけならショボイ金額だ。
だが数が集まれば高校生の自分には嬉しいお小遣いなのである。
聞けば この世界でも強い魔物からは大きな石がドロップし値段も高いそうだ。
しかし欲をかいて強すぎる敵と戦えば自分が死ぬ。
結果としして ほど良い難易度の狩場には人気が集まる。
そして人が集まるほど問題も出て来る。
美味しい狩場には徒党を組んだ会社員などの大人たちが場所を独占してるし、
中には危ないアウトローな人たちも縄張りを作っていて、とてもデンジャラス。
楽して高収入が良い、みんな考える事は同じなんだ。
自分はそんな場所には行かない。
弱い立場の学生としてはトラブルは避けたいからね。
そう・・トラブルは・・・避けたい・・!。
フラグでした。
「マジ・・」
思わず声が出る。
そりゃあ リアルな死体が目の前に有ればね。
角を曲がったら目の前に横たわるソレ。
・・しかもスライムに集られてるし。
女性だったら全力で悲鳴を奏でる案件だ。
オレは違うよ。多少は驚いたけど見慣れてるからね。
しかし、困った事態には変わりない。
はぁ・・どうしたものか・・無視するか
ネバネバ、ぐちょぐちょなビジュアルのスラリンを見ていると微かに動いていた。
胸が・・。
ごめん。まだ生きてたよ。
ごくまれに この低階層でもゴブリンに負けて死ぬ人もいる。
その死体がスライムに食われ、見つけた探索者に夢にまで見るトラウマを植え付けるそうな。
そんな記事をニュースで見たよ。今の場面はそれに近い。
とりあえず、今更だけど・・マジに困ったなぁ。
目の前のソレは衣服をスライムに食われて見事に全裸の少女。
たぶん中学生くらい。
ラッキースケベ? とんでもない。
助けたら 俺が犯罪者 な事案です。
トラブルここに極まるだよ。
幸か不幸か、ここのスライムは生きてるモノは食わない。理由は知らん。
ただし 髪の毛やまつ毛、爪なんかも血が出るギリギリまで溶かされ食われる。
最後には歯を食おうとスライムが口の中に進入。
そして 次にはのどの奥を探そうとするため窒息死する・・結局は。
そんな訳で目の前にはマネキン人形のように全身ツルツル。
頭と体にネバネバを纏わりつかせためちゃくちゃキモイ物体がころがっている。
まるで内臓が出ていない理科室のお人形のようだ。
今もネバネバのスラリンは食べられる部位を探してウロウロしている。
つまり、とても危険な状態なのです。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
ハアァァーッ
気合を入れたんじゃないよ。特大の溜息だ。
幸せが団体で逃げて行ったな。
方法が有るのに助けないのは寝覚めが悪いしなぁ・・・。
ダンジョンは仕事場だし 既に俺の生活の一部だ。
これから何度も何度も何度もここに入るだろう。
その度に助けなかった事を思い出すだろう。そんなのウンザリだ。
ストレージに大きめのタオルが入っているからソレで簀巻きにしよう。
女子用の服なんて持ってないし。
覚悟を決めた俺はスライムが付着していない腕を掴んで魔法を発動。
そう、魔法。
使ったのは 短距離の転移。
対象を指定して5メートルほどワープしたのだ。
少女の体だけを意識したのでスライムは置き去りにされた。
誰かに見られたら犯罪者決定に成りかねないので素早くタオルで簀巻きにする。
その時、彼女のヘソの上に魔法陣をイメージした紋章が見えた。
なるる・・、この子も特性を魔法使いに指定された訳だ。
おおかた魔力が尽きて気絶したところを食われそうになったのだろう。
哀れな。
日本にダンジョンが現れて以来、まれに特性を備えた人が出てきた。
そう、出てきた。
ダンジョンに足を踏み入れた人の体にある日突然、紋章らしき幾何学模様が現れたのだ。
それは特殊な特性を示す印。
ある者はその日から剣の達人に成り、ある者は体が頑強になったり
素早く成ったりとゲームで言う「ステータス極振り」みたいな状態となった。
しかも、それに付随して俗に言うスキルが習得されていた。
まさに超人の誕生である。
だが しかし、幸か不幸かダンジョン以外では その特性は発動しなかった。
ダンジョンの中でだけ通用する極端な才能だった。
それでも彼ら 彼女らは必然的に新しい資源を生み出す産業の花形となっていく。
そんな中に魔法を使える人が発見された。
それはもぅ世界中のマスコミが驚き、注目し、もてはやされた。
魔法使い。 まさにお伽話の中の存在が具現化したからだ。
喜びと憧れと期待で人々は熱狂した。
しかし、その熱狂は次第に落胆と侮蔑へと変わっていった。
その能力があまりに ショボ すぎて人々の夢を壊してしまったからだ。
そんな訳で、魔法使いの紋章持ちはとっても不遇な存在なのです。
簀巻きの少女の頭を俺の肩に乗せるようにしながら片手で抱え上げる。
小さな子供を抱っこする姿に近い。
これで片手で武器が使えるので入口まで何とかなるだろう。
てな訳でダンジョンの入り口に逆戻り。
まぁ。 やはりダンジョンから出た後は少しばかり騒ぎになった。
頭髪などがきれいに無くなっていたので「スライムから助けた」の言は信じてもらえた。
彼女が魔法使いなのも警察を納得させた要因だ。
それほどに魔法使いは下に見られる。不憫だ・・。
それでも長い時間の拘束。
質問され調書を取られたので解放されたのが夕方。
日曜日の稼ぎ時が台無しだ。
ともあれ犯罪者にならず心底良かった。
はぁ・・今日の収入は300円か。