僕らが風を追い越す日 7話
る朝のグラウンド。
陸上部の練習は、いつもよりちょっとだけ空気が張り詰めていた。
「……中村、タイム落ちてんぞ!」
顧問の声が飛ぶ中、中村海偉は黙って走り続けた。
フォームは美しい、足も速い、でも――心が走れていない。
その理由は、明確だった。
内村荘子。
最近また登校してきた彼女に、自分でも気づかぬうちに、何度も目が向いていた。
でも彼女の心の中には、まだ“痛み”が残っている気がして、触れるのが怖かった。
(俺は……あいつの何になりたいんだろう)
その問いの答えを探すように、彼は走る。
その頃、美術室。
「荘子、今日も来たんだね」
笑顔で声をかけたのは、太田東二先生。
彼の“押しつけない優しさ”が、荘子にはとても心地よかった。
「……描いてみたくなったんです。今の“私”を」
キャンバスに広がるのは、風の中を走る、誰かの影。
それは――中村海偉だった。
放課後。
「花蓮、ちょっといい?」
声をかけたのは、石川たいち。
半分不登校だった彼が、久しぶりに登校してきた理由は、ただひとつ。
花蓮を、取り戻したかった。
「なんか用? 久しぶりだね」
「……まだ、俺のこと、少しは思い出す?」
「思い出すよ。でも、今はもう、別の人がいるかも」
たいちの表情が一瞬固まる。
(悠斗……か)
たいちは、何も言えず、ただうつむいた。
「たいちのこと、嫌いになったわけじゃない。
でも、今の私は、ちゃんと自分の心で動きたいの」
花蓮の言葉は優しくて、でも、突き刺さった。
夜。
**グループ通話「2-B」**が立ち上がる。
小林旺汰、大西健多、菊池壮太が、バカ騒ぎしている。
そのノリに乗りながらも、誰もが心のどこかで“考えていた”。
本当に、誰のことが好きなんだろう?
この友情、壊したくない。だけど――
「青春って、風と一緒なんだよ」
そう言ったのは、横田総司先生。
「追いかければ逃げるし、止まってると通り過ぎる。でも、自分から走れば、風になれる」
そう言って、教室を見渡した彼の目は、いつも以上に生き生きしていた。
風が吹く。
誰かが走る。
誰かが振り返る。
そして、誰かが、また“好き”を知る。




