空き教室の私と彼①
「ねぇ、なんでこの教室以外で話し掛けたら無視するの?」
いつもの様に目の前に座り本を読んでいる彼に「私は不満です!」という声で話し掛ける。
これもいつもの事だが、彼は私を無視する。
どれだけ睨んでも彼は此方をチラリとも見ない。
私は彼の視線を此方に向けるため、本を取り上げた。
「無視しないでよ」
「…他に人がいる所で話しかけるなって言ったこと忘れたのか?」
彼はため息混じりに此方を見た。
いつも私が本を取り上げても彼は怒らない。
それどころか私と会話してくれる。
目つきが悪い凶悪顔に似合わず彼は意外と優しいのだ。
「でもさー、隣の席なんだし挨拶とか授業について聞くくらいはいいんじゃないの?」
「…君が僕に話しかけるたび周りの空気が凍りついて教室が静かになってるって気づいてないのか?」
気づかない方が無理な状況だし、なんなら周りの人達は噂を信じて「話し掛けない方がいい」とか「危ない」とか「よく話しかけられるね」とか言われてる。
でも、彼は顔が凶悪なだけでとても話しやすいし、優しいから噂は嘘だと知ってる。
だから私は彼に話しかけて周りの人達にも怖がらないでも大丈夫だと知って欲しいのだ。
「君と話せばあんな噂すぐに嘘だってわかるのに…」
俯いてボソリと呟いた言葉だった。
顔を上げると普段見る事が出来ない様な驚愕の顔で固まる彼がいた。
静かな教室に机を挟んで座る距離であれば聞こえてしまうのかと気づて、私は焦った。
どうしようと思っていると彼の顔がみるみるうちに赤くなり俯いてしまった。
え…何この反応…かわいくない?
「別に僕は不特定多数の人と仲良くなりたいとは思わないからそんな事気にしなくていい!」
早口で捲し立てるように言い切ると机に置いていた、彼から取り上げた本を顔を隠す様に開いて彼の顔が見えなくなった。
彼の顔を覗き込もうとするが阻止される。
え…めっちゃ可愛いんだけど、これ。
何度か攻防を繰り返していたらなんだか面白くなってきた。
「ふっ…ふふふっ」
堪えきれず笑っていると、ずらした本の上からジト目を向けられた。
その後も帰るまで彼と他愛無い話をしていた。