彼女と乗った観覧車
俺は、文系大学に通って2年目になる。
まあ、見た目は普通なんだけど、そんな俺にも付き合って1年になる彼女がいるんだ。
その彼女は、基本俺の要望を聞いてくれるんだけど、偶にデートで主導権を握ってくるんだよ。
そうはいっても、無理難題は言ってこないし、俺と同じで人混みが苦手だから気が合うんだよな。
そんな彼女が、今度のデートで観覧車に乗りたいんだってさ。
クリスマス前後だと遊園地が混むからと、11月中に行く事になったんだよ。
観覧車といえば、遊園地で遊び尽くしてから最後に乗るものだと思っていたんだけどな。
彼女は、観覧車に乗って俺とキスをしたいんだってさ。
でも、それならば俺にも考えがあるんだ。
キスをするんなら、観覧車に乗ってすぐにしたいんだよ。
俺にとっては、観覧車の上昇時から天辺迄の景色が一番の楽しみなんだから。
だから、彼女とのキスはさらっと終わらせて、天辺迄の景色をバックに写真を撮りまくるんだ。
実際に、彼女と夕暮れ時の観覧車に乗ってからというと、俺の計画通りに天辺迄進んで行ったんだ。
ただ、その後の事は全く考えてなかったんだよね。
すると、彼女からこんな事を言ってきたんだよ。
「ねえ、観覧車に乗っている時に、幽霊が見えるとしたら何処にいると思う?」
「ゴンドラの隅か、狭い所に立っているとか」
「そうかな~、観覧車の外って事もあるんじゃない?」
「外って言っても、隣のゴンドラなんかよく見えないだろ」
「違うわよ、そこの窓に張り付いているのが見えないの?」
「おいおい、何だよ脅かすなよ…」
「あはは」
「ねえ、ここにいてどんな事があったら一番恐い?」
「俺は、幽霊なんかより出口で扉が開かないのが恐いよ」
「そう、だったら扉が開いたら先に降りていいから」
「実際、そんな事は起きないと思うけどな」
観覧車が一周して扉が開くと、俺は真っ先に降りようとしたんだ。
すると、彼女が俺の腕を引き寄せてこう言ったんだよ。
「降りる時は一緒でも問題ないでしょ」
ってな。
その時、俺は凄く恥ずかしかったんだ。
ばつが悪い思いをしたけど、観覧車を降りてから近くのベンチに座ったんだよ。
そこで、俺は彼女にこう言ったんだよ。
「あのさ、ここでどんな事があったら一番恐い?」
ってな。
そうしたら、
「そりゃあ、デートで置き去りにされる事に決まってるでしょ」
って、真面目な顔をして言ったと思ったら、すぐに赤面したんだよ。
俺は、その表情がとても愛おしいと感じたんだ。