第9話 腰
乳児がお昼寝中、幼児は自由に遊ぶ。
よく幼児の先生が休憩の時は、乳児クラスの担任をしていた時も、フリークラス担当だった時も、僕が代わりに幼児クラスに応援に入った。
ある日、僕はみんなとお相撲をとっていた。多分子どもは9人くらいはいたような気がする。
ちなみに、僕は大学で、「子供」ではなく「子ども」と書けと先生に教わった。なので、子どもと書いている。「供」という字は縁起がよくないとのこと。でも諸説あるみたい。
さすがに当時の僕は肌も身体もぴちぴちだし、痩せすぎているけど今も運動と筋トレはしている。
そんなぴちぴち保育士が、子どもたちに相撲で負けるはずがなかった。
かけっこもドッジボールも、まずは本気でやって子どもから尊敬と威厳を勝ち取り、その後はたまにわざと負けてみんなを盛り上げるというのが僕のやり方だった。
その日のお相撲もそんな感じだった。
9人の子どもとの一斉に行われる相撲は、ぴちぴちの僕でもきつかった。
あまりにも若すぎるパワーに押されつつ、「そろそろ負けるか...」と思い力を抜いたその時、
どーーーーん!
とんでない衝撃がおきた。
今まで参加していなかったやんちゃな男の子が、急にみんなと一緒に突っ込んできたのだ。
楽しそうに遊ぶ姿に混ざりたくなったのだろう。
見えざる伏兵の決死の突撃に、完全に油断していた僕は後ろに吹っ飛んだ。
10人の溢れるヤングエネルギーには、さすがのぴちぴちボディも耐えられなかった。
すべり台のすべる部分のカドに、思いきり腰をうちつけた僕は悶絶。
それからしばらく経っても腰は痛いままだった。
痛すぎて階段も上れない。立ち上がるにも時間がかかり、走ることもできず、とてもきつい。
数日たっても痛みは変わらず、保育園も家の階段も、這って上がる始末。
それから痛みがひくまで、腰にコルセットを巻いて仕事をした。
それから定期的に腰が痛くなるようになった。今までの腰痛とはレベルが違う感じ。
保護者のおばあちゃんに相談したところ、おすすめの整体を教えてもらった。
その整体に行くと、初診と言うことでレントゲンを撮ったりなんやらと色々な検査をした。
その結果をみた先生が、レントゲン写真を指差しながら言った。
「これ、腰のね、小さい骨なんだけど、折れたか潰れたかで自然治癒した跡があるんだよね。心当たりある?」
折れてたんかい!!と思った。
それからしばらく整体に通うことになった。
腰痛は腹筋を鍛えるといい、と先生に言われたので、筋トレをいつも以上にするようになった。ついでにボクシングジムにも通った。
おかげで僕は今も細いけど、体型は逆三角形で、腹筋は割れている。筋トレは大嫌いだけど、子どもに「かた~い」と言われながらお腹をなでられたり、殴られたりするのでやめられなくなった。意外と尊敬されるというメリットが筋肉にはある。
でも、かなしいかな。今も腰はおじいちゃんだ。