第6話 じゃ○子
2歳児クラスで主の担任をしていた頃(つまり4話の反社会的な保護者がいたとき)、子どもを押しまくる女の子がいた。
ものすごく体が大きくて、ものすごく食べ、すぐに他の子にキレる子だった。人のおもちゃをとりまくる子だった。
その子は父親と母親に育児放棄され、おじさんとおばあちゃんが育てていた。2人とも穏やかで、やさしくて、とてもいい保護者だった。
僕は個人的にその子のことが大好きだった。他の先生には好まれてなかったけど。そりゃそうだ。トラブルの申し子だったもの。
でも、なんかかわいかった。むかつくけど、憎めない子だった。なんだかんだ会話のレベル高かったし。
僕はその子をジャイ〇ンの女の子版だな、と思っていた。
なので、その子とじゃれたり、ふざけたりする時だけ愛をこめて、「じゃ〇子ちゃん♡」と呼んでいた。
その子も自分が甘やかされてる時にそう呼ばれるのはわかっていたので、仲良く二人で戯れていた。
もちろん、子どもは名前(呼び捨て、あだ名は×)で呼ぶのが前提だ。子どもたちにもそれは日々きちんと伝えていた。
ある日の散歩中、じゃ〇子によくいじめられていた男の子が先頭を歩いている僕のところへ走って来た。その男の子は小さくて、ころころしていてかわいい子。その子がものすごく焦っている。
「先生!たいへん!」とその子が言うので、
「どうしたの?」と聞くと、その子が言った。
「じゃ、じゃ〇子が、こけたっ!!」
僕はその子の予期せぬセリフに思わず吹き出した。そして爆笑した。
見ると、後ろの方で彼女(じゃ○子)が膝をすりむいて吠えるように泣いている。お前はオオカミか、と思うくらいの咆哮だった。
(俺が隠れてじゃ○子って呼んでるの、この子も覚えちゃってたのか…)
その日以来、僕は彼女をその愛称で呼ぶことをやめた。