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第7話 チャンス到来

感じの悪い男。その一言だった。のっぺりしたような顔によくある茶色の目。


ダドリー・ダドリー。初めて見る私の婚約者だ。


「目をそらして。知らん顔して。あれは身分が高いだけに、断りにくい。あの男だけは注意しとこうと思ってね」


私はあわてて目線をそらした。

いや、ここは、気がありそうに見つめる場面かも?

でも、そんな芸当出来ないわ。


「まあ、あんたみたいな美人狙いじゃないから。もっと安手で手ごろな女が好きだから気にしなくていいよ。前はマリリンていう同じ名前の女を好んでたけど」


だが、その時一人の店員が店長(オーナー)にメモを渡した。


『マリリンをよこしてくれ』


「マリリンは昨日辞めたわ。どこへ行ったのか、ここの仕事を辞めた以上、行先は教えられない。うまいこと伝えてちょうだい」


「いえ。それは伝えました。そうではなくて、あのピンクブロンドの新しいマリリンと話がしたいそうです」


「チッ」


店長は確かに舌打ちした。


「マリリン、うまく話をして適当にあしらってきて。惚れこまれるんじゃないよ」


私は足が震えてきた。適当にあしらうなんて芸当、私にできるわけないじゃない。


遠く遠く離れた席のような気がしたが、そんなことない。


私はびくびくしながら、出来るだけ距離を取ってダドリー・ダドリーの隣に座った。


「なんだ、ビクついて。俺が怖いのか。今日からなの? 名前は?」


「ええと、マリリンです。今日からです」


「そっかー。まあまあ、かわいい顔だな。女なんて顔だけだからな」


馴れ馴れしくダドリー・ダドリーは私の手を取ろうと手を伸ばした。反射的に私は手を引っ込め、ソファの席の距離を取った。


兄は媚びを売れと言っていた。でも、無理。


手を引っ込められて、ダドリー・ダドリーはあからさまに気を悪くした。


「事情を知らん奴だな。俺は気の毒な男なんだ。俺の話を教えてやる」


気持ち悪い男だと思うけど。でも、とりあえずコックンしておいた。店長からも客に語らせよと社訓を聞かされていたしね。


「俺には婚約者がいる」


知ってますわ。


「なんだ。驚かないのか」


驚かないといけなかったのか! ここは言い訳しておこう。


「店長が高貴な方々には、婚約者がいる方が多いと注意してくれました」


「俺の家は侯爵家だ」


ですね。


「なんだ。驚かないのか」


驚くところだったのか! 反応が難しいな。


「……侯爵家って何ですか?」


「知らんのか。バカだな」


と言いつつ、ダドリー・ダドリーは数世紀前までさかのぼる名誉あるダドリー家の系譜自慢を始めた。


貴族にこういう人って多いのよねー。お家自慢。


私の家なんか、祖父が爵位を購入したなんちゃって貴族なので、何の自慢にもならないし、説明だって二分で終わるんだけど、ダドリー家のは長い長い。


「始まりは八代前の王に連なる」


「まあ、(あのスケベ)王様!」


知ってるわ。寵姫が十一人いるって小説になった人でしょ? ダドリー家の始祖は庶子で、生母の身分が踊り子と低かったので叙爵もなかったのだけど、怒った母親の寵姫が「王様と踊り子~その性癖」ってバクロ本を出すって王様を脅迫して叙爵したのよね。


「四代前は海軍大将を務めた」


「(例の戦犯)大将ですか!」


自国艦隊を全滅させた戦犯のポンコツ大将よね。感心するくらいのダメさ加減で有名よね。


「先々代は文化人として有名だった。多くの芸術家のパトロンを務めた」


「審美眼のある方だったのですね!」


まったく見る目はなかったそうだ。そのせいで破産・没落しましたものね。オークション会場で頭に血が上ってガラクタに高値付けをするので有名だった。


「君と話していると愉快だな! 理解できなくて退屈そうにしたり、それなに?って途中で話の腰を折るような質問をしないんで、楽しいな!」


しまったああ。こんな男に気に入られてしまった。皮肉を飛ばしてないで、もっとピントの外れた反応をすればよかった。


あ、これでよかったのか? でも生理的に嫌だわ。いやいやいや。冷静に考えるんだ。そんな男との結婚なんてもっと嫌だ。


「今度来た時も君を指名するよ」


「あ、あのでも、店長がお店に慣れるまではご指名は受けないようにって」


「今日から慣れればいいじゃん。俺に。それに、今日から、お店スタートってことは他にご指名はないだろ?」


「そうでもないぞ、ダドリー・ダドリー」


スッと横に人影が立った。


成り行きに動揺していたので人がいるのに気が付かなかった。


「俺も指名したいんだ。ピンクブロンド、大好きだ。残念だったな」


ドリュー様だった。見たこともない怖い顔をしている。


「ド……」


いけない、いけない。誰の名前も知らないんだった。


「お前か。アンドリュー・マクダニエル」


平べったい顔のダドリー様が苦り切って言った。


「こんなところに珍しいな、お前が。ピンクブロンド好きかよ」


ようやくドリュー様が顔を普通に戻した。無理やり、ちょっと微笑んでいる。


「カフェには好奇心で来ただけだ。珍しい髪色なんで気になった」


「注意しとくが、俺みたいに最低な婚約者を押し付けられてて、そのことが世の中に知れ渡っている男は少々羽目を外しても誰も非難しないが、お前はこんなところの女に深入りすると学院から注意がくるぞ?」


「どうして? ちょっと話すくらいでか?」


ダドリー様は嫌な笑いを浮かべた。


「本気そうな顔していたぞ? 一目ぼれか? ハハハ」


「失礼する」


ドリュー様は私の手を取るとダドリー様のそばをさっさと離れた。


「婚約者の親に知られたらどうする気なんだろうな」


ドリュー様が小さな声で言った。


「何のこと?」


「最低な婚約者って言ってた」


ああ、そう言ってたわね。


「あちこちで言って歩いてるんじゃないかな。うまく証人をそろえることができれば、婚約解消には持ち込めるかも。名誉棄損で」


そうね。その手もあるかもしれないわ。意外に口が軽い人だった。


「危なそうな時は俺が入る」


ドリュー様が気が短そうに言った。


「侯爵家の御曹司だから平民の娘なんかどうとでもなるとか思われて、手を握られたり、撫でられたりしたら嫌だろ?」


「ありがとうございます」


でも、ドリュー様、今、私の手、握ってますよ?


見ていると、ダドリー様は不愉快そうに店を出て行ってしまった。


「じゃあ、俺も帰るわ。また後でな」


「ありがとうございます。ドリュー様」


ああ。助かった。やっぱり怖い。うまくあしらえなんて言われても私には無理だと思う。


熟女店長がスッとそばに寄ってきた。


「あれは誰?」


あれとは?


「ダドリー様に文句を言っていた学生よ」


「あ……存じません」


「ずいぶん、親しげだったじゃない」


「え? そう見えましたか? 私、本当はあのダドリー様が怖くて……救い出してもらえて助かったと思って」


「惚れなさんなよ?」


誰に? ドリュー様に?


「ダドリー様は、まあ、気持ち悪いよね。でも、侯爵家の嫡子だからねえ。もっとも貧乏侯爵家らしいけど。どこかの裕福な男爵家の令嬢を持参金付きでもらうので、一生金には困らんとか言って豪遊しているけど」


おお。その話、ここでも有名なんだ。


「トンデモどブスな上、アホでバカで、陰気臭くて、閉じこもりなんだって」


「そこまで(言わなくったっていいじゃない!)」


「まあ、誰も見たことないくらいだから、引きこもりは間違いない。でも、それより、今日初めて来たあの男だよ」


ドリュー様のことね。初めてではないと思うけど。


「いい男だね」


「そうでしょうか」


まあ、私にとっては世界の違う人。遊び人で有名だそうだ。地味目なウチの兄とどうして友達なのかしら。


「でも、あのダドリーを黙らせたところを見ると、相当な家の息子だろうね」


そうそう。ドリュー様は某伯爵家のご子息。九代前の王様の庶子が始祖なので、微妙にダドリー家に勝利しているの。


「よく聞いておきな。やっぱりこの世は知ってると知ってないじゃ大違いだからね」


「わかりました!」


その通りよね。私には目的がある。この熟女店長はタダモノではない気がするわ。参考にしなくちゃ!


「店長のおっしゃることは勉強になります!」


熟女店長は驚いたらしくて目を見張り、それから具合悪そうに少しだけ顔を赤くした。




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