これが…俺?
見切り発車ですが、面白そうな設定を思いついたので書き始めました!
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(これは、夢か?)
ぼーっと、思考が輪郭を結ばず上手くまとまらない。
自分の状態すら曖昧だが、これが、目の前の光景が、現実ではないということはすぐにわかった。
何故ならそれは、ひどく懐かしいものだったから。
「こら、タケル!ご飯冷めちゃうでしょ!」
「……」
母親の声が聞こえないほどにその子供が夢中になっているのはテレビの画面だった。
そこに映っているのは一人の野球選手。
「……きれいだ」
視線の先の選手が振るったバットは、見事にボールを捉えスタンドイン。
でも、その子供が感動したのはホームランを打ったことではなかった。
「すごくきれいなスイング……」
身体の使い方、バットの軌跡。
子供の目に焼き付いたのは、選手の一連のフォームだった。
その場で見様見真似で真似して、母親がさらに怒り始めたのはご愛嬌。
(まあ、野球をはじめテニスやバスケ、水泳に卓球と色々やって何一つ大成しなかったんだけど)
あらゆるスポーツにて、自分が綺麗だと思った選手の真似をずっとしていたおかげで、選手のモノマネは大の得意になったが、実際のスポーツにそれが活かされることはなかった。
結局、自分に合ったフォームが一番大切だということだろう。
自分の幼い頃の様子を眺めながら、ふふっと笑ってしまう。
そんなもう二度と戻ることのない日々を思い返しながら、俺は自分を吹き飛ばしたトラックのバックライトに目を眇める。
視界の端で、鮮血が、舞った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「どうしたのタケル?そんなロックバードがサンダーランスを食らったような顔をして」
目の前に、見知らぬプラチナブロンドヘアの美女がいた。
親しげな様子で俺の名前を呼んでいるところを見ると知り合いのようだが、記憶にない。
こんな美女を忘れるとは考えづらいが……。
「……すみません、どなたですか?」
色々考えた結果、意を決して聞いてみることにした。
失礼なこととは思うが、思い出せないまま会話を続ける方がもっと失礼だと思ったからだ。
俺の問いかけに対して、女性は驚いたように目を丸くした後、今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。
「何で、そんな冗談を言うの?お母さん、そんな子に育てた覚えないわ……」
「へ?」
お母さん?
聞き間違えたか?
いや、でもこの女性はハッキリと自分のことをお母さんと言った。
俺は慌てて周囲を見渡す。
見覚えのない部屋。
今気づいたが、どうやら俺はベッドの上で体を起こしながら会話していたらしい。
そして、見覚えのない部屋なのに、何故だか安心感を覚える。
まるで自分の部屋にでもいるかのように。
猛烈に嫌な予感が背筋を這い上がってくる。
慌ててベッドを降りようと手をつくと、手首からズキンと脳天を刺すような激痛が走った。
眉を顰めながら手首を見ると包帯が巻かれている。
今勢いよく手をついたからだろうか、白い包帯が微かに赤く滲んでいた。
「ちょっと、ごめんなさい……ッ!」
手首に響かないようにベッドを降りると、俺は部屋を飛び出した。
後ろから女性の驚いたような声が聞こえてくるが、無視する。
廊下を少し歩いて、俺は目的のものを見つけた。
「は、はは……なんだよ、これ」
俺の目の前には、先ほどの女性とどこか似た美少年が青ざめた顔で頬に手を当てていた。
俺が手を伸ばすと向こうも手を伸ばしてくる。
「これ、俺かよ……」
鏡の向こうの美少年が、顔を引き攣らせながらそう呟いた。