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 光希からもらった聖書をぼちぼち読んでいた。仕事の隙間時間、寝る前など。


 特に寝る前、ベッドに腰かけて聖書を読むようになった。確かに歴史的な描写は多く、聖書研究している人の気持ちはわかる。聖書の中の神はハーレムのように愛されているかと思ったが、特にそんな描写も創世記の最初の方から人間に裏切られていた。イエス・キリストも弟子達に裏切られ、ついに殺されてしまう。結局三日目に復活したそうだが、よくわからない世界だった。


「え、聖書って占い禁止?」


 そんなような事まで書いてあり心臓がドキドキしてきた。しかも悪魔は、光の天使に偽装して人間を騙すとあった。あの天使は、まさか……?


 聖書には悪魔、悪霊と天使、聖霊がいる事もハッキリと書かれていた。


「ど、どういう事?」


 聖書だけ読んでいても、訳がわからない。


 私はインターネットで検索し、なぜ占いが聖書ではダメなのか調べる。


 聖書的には、占いは悪魔の力によるものだという。一見、願いが叶ったり、予言が当たったりするが、所詮は悪魔のパワーでの成功。必ずその代償は支払う事になる。それに占いにコミットするうちは、神について知る事もできず、心も安定せず、悪魔の言う事を聞かなければならないらしい。まさに悪魔の奴隷状態になり、人生が崩壊する。


「そんなの怪しい宗教でしょ」と思おうとしたが、心当たりが多すぎる。あの天使が悪魔だとしたら色々と辻褄があう。


 聖書には言葉に力がある事も書いてあった。神は言葉で世界を想像し、光も人全て創造された。


 人は特別に神に似せて創られたので、同じように言葉に力をもつ。ただ、神の心に沿った言葉は祝福となるが、そうでない場合は呪いになる。もし、自分の思う通りに言葉の力を使って現実を変えようとしたら、それは呪いになる。だとしたら、占いで未来を言い当てる事も呪いではないか。確か天使は、占いでは言葉の力を使って誤作動させるとか言っていたような……。


 だんだんと聖書を読みながら、怖くなってきた。占いが呪いである事がわかってきた。


 それに光希のことも気になる。インターネットを検索すると、クリスチャンの中でも占いや占い師を蔑んでいる人も目立つ。いかにも自分が清いと言いたげのようで、嫌味な感じだ。


 それでも光希には、そういう所は全くなかった。むしろ、友達のようの明るく親切にしてくれた事を思い出す。


 確か聖書にも「敵を愛しなさい」と書いてあった。その言葉を愚直に守っているのだろうか。その割には、ルールに縛られた感じではなく、自由そうだったが。


「光希さん、どういう事ですか?」


 私は教会に出向き、光希にどういう事か聞いた。いつものように教会の多目的室に二人きり、テーブルの上にはバターの香りがする絞り出しクッキーとアイスコーヒーが置いてあった。


「ごめんね。実は麻美さんが占い師なのずっと前から知ってたよ」

「やっぱりね」


 わかっててわざと近づいたという事か。あの無人野菜販売所で。


「でも、ごめん。占いについては、本当に良くないから。本当は地獄に堕ちるから辞めてって言いたいぐらいだけど」

「うわ、カルトっぽい」


 私もヤケクソになり、光希に悪態をつき始めていた。それでも光希は、涙を溢しながらも必死で止めていた。


「お願い。悪魔に人生、命を食べられて大変な事になる。占いはやめて」

「そんな事言われても。仕事がなくなったら、どうやって食っていけばいいんですか?」

「それは……」

「やっぱり人は信用できませんね。やっぱり、自分達は清いと思ってるんでしょ。クリスチャン達って私を見下したんでしょう?」


 笑いたくなってきた。こうして友達のように接してくれたのも宗教行為だと思うと、裏切られた気分だ。やっぱり、人は信用できない。


「わかった。人には自由意思があるから、占いを辞めるようになんて言えなかったね。それでも、どうしても困ったら、イエス・キリストって言ってみて。その御名前を叫ぶだけで大丈夫。安心して」


 私はその言葉を無視し、家に帰った。今まで通り、天使に頼りながら仕事をこなす。


『もう、教会なんて行くな』


 天使の言う通りにするしかない。光希から貰った聖書も読まないようにした。


 その夜から、体調が悪かった。なぜか光希の顔が浮かんだりしてよく眠れない。やはり自分は言いすぎたのだろうか。


 それでもどうにか無理矢理眠ると、天使が夢に出てきた。ふわふわと淡く光る天使の姿ではなかった。羽も光から闇に染まり、全体的に真っ黒になった。頭にはツノが生え、とても天使の姿には見えない。むしろ、逆。悪魔にしか見えなかった。


 今まで信頼してきた天使は、悪魔だった?


 もしかしたら聖書に書いてある事は本当だった?


 夢の中とはいえ、汗がダラダラと流れ、背筋が凍る。


『今まで散々成功させてやっただろう?』


 いつもは笑顔の天使も、今は違う。本当に悪魔のように笑っていた。声も綺麗なソプラノだったが、今は嗄れて黒っぽい。


『そろそろ回収させて貰おうか。今まで占いで稼いだ金、地位、名誉。それは全部こっちの力のお陰だからな。その罪の借金、回収させて貰おう。お前は一緒俺の奴隷。永遠に俺の言う事を聞け!』


 悪魔はそう言って私の首を締め始めた。もう逃げられない。夢の中だったが、金縛のような状況になり、身動きが取れない。


「助け……」


 必死に声を出そうとしたが、最後まで出ない。


 そうだ。


 光希が神の名前を言えと話していた事を思い出す。光希が占いをしていた時も、神の名前で命令していた記憶もある。


 正直、半信半疑だ。それでも今は他の方法が思いつかなかった。


 イエス・キリスト。


 その七つの音をどうにか振り絞る。その瞬間、目の前にいた天使、いや悪魔は一瞬のうちの砕け散ってしまった。


 同時に目も覚ます。夢の中の出来事かと思ったが、身体のあちこちにアザや引っ掻き傷が出来ていた。


 途端に呼吸が楽になり、ようやく息ができた感覚に安堵する。


「どういう事?」


 なぜか涙も止まらなかった。光希が言っていた事も本当かもしれない。


 再び、私は光希に話を聞きに行った。光希から福音を聴いた。悪魔の奴隷になっていた自分を血と命で買い取り、贖ってくれた事が、全て腑に落ちてしまった。二千年前の事なのに、聖書を開くたびに何故か涙が溢れて仕方なかった。光希によると信仰は神様がくれるもので、わからない人は一生わからない事らしいが。


 その証拠のように、あの天使も含めて霊的なものも全部見えなくなってしまった。仕事も金も名誉も全部失ってしまったが、なぜかこれで良いと納得していた。これでもう悪魔の命令からビクビクと怯えなくて良い。


 こうして占い師の仕事から足を洗った。食っていけないと不安もあったが、なぜか運良く仕事も与えられ、最終的には光希の親戚の教会で伝道の仕事につく事にもなった。


「麻美、一緒に祈祷会行きましょ」

「ええ、光希」


 光希との付き合いも相変わらずで、あの教会にも時々向かい、祈祷会などにも参加していた。


 教会は相変わらず光に満ち、どこにも闇はなかった。


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