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第一章 小学生≠大人 5




「わたしたち、警察じゃないですよ」


「まずは、なぜ、とか、何の暴動、とか、そういうところを気にするべきだよ」




 和井得は塚をたしなめた。仁楠は塚を守ることについて過敏になっているので、




「うんうん、塚さんは確かに警察じゃないからね。ぼくらにはぼくらが出せるリソースでこれを解決するよう求められたわけだよね」




 とフォローをしようとしたが、




「呑気なことを言って、学生気分が抜けてないんじゃないですか」




 と和井得は厳しい口調だった。郡馬といい、サブの二人はどうして自分のクビを早めようとしているのか、と仁楠は、怒りというか呆れというか、複雑な感情を抱いた。




「説明を続けますね。主任には今朝話したので、塚さんに対して。


 塚さん。この学校の敷地、広いですね、って言いましたけど、結論から言えば、ここの生徒たちは、狭い、と思ったんです。


 仕方ないです。都内中心地ではないとはいえ、駅前で、しかもすぐ後ろには国営公園が広がる立地なんですから。似た環境の学校のケースを調べましたが、これでも十分な広さをとれていると思います」




 仁楠も同じような感想であった。私立小学校、と聞いて想像する、広い校庭と新しい校舎、というテンプレート通りの学校だとも思っていた。




「問題は生徒数です。この学校の設立は新しくて、立地の良さを売り出しています。


立川には家族層の住民の数も十分にいますし、生徒数は定員数よりも多く集まる年がずっと続いていました」


「のどかなお話ですね」


「ストライキ、まぁ暴動が起きたのは今朝とのことです。開門と同時に相談がある、呼び出された担任が教室に向かうと、五人の生徒に監禁されました」


「ええ! 急展開すぎる!」




 塚はオーバーなリアクションをとった。相性はそんなに悪くないのか、そんな塚の反応を受けて、和井得の説明にも熱が入った。




「暴動、とか、監禁、という言葉は過激すぎて、真実を伝えきれませんかね。


事実としては、その生徒たちは、校庭の狭さにストレスや不満が爆発して、担任を教室に閉じ込めて、現状打破を訴えたんです」




 さぁ、聞きたいことがあるだろう? と言わんばかりに、和井得は塚へ少しジロリと目線を投げた。




「その、現状打破、ってなんですか」


「小学生とは思えない要求ですよ。主任、想像できましたか?」


「いや、ドラマとかでも見ないね」


「あー、じゃあ分かっちゃいましたよ」




 塚が元気よく手を挙げた。元より、現在ハンブルク研究所の中で一番の高身長なので、手を挙げると一層それが際立つ。




「えっへっへ。わたしを驚かそうとしても無駄ですよ。


きっとその生徒たちはものすごく大人な思考の持ち主ですね。入学料とか学費とかに目がくらんで、生徒数の増加だけを考えている学校経営というものに異を唱えたんですよね?」




 いやー、まいったまいった、と塚はニコニコしながらヤレヤレといった表情をつくって頭を抱えた。その表情からは、小学生のくせに背伸びしちゃって、と、まだ事態を甘くみている節があった。




正解を得たと勘違いして舞い上がり、自分の世界に入ってしまった塚を、仁楠は呼び戻そうと、




「塚さん、塚さん。もしそうだとするとさ、ぼくたちに依頼がくるのはおかしくないかい」




 と、刺激しないように問いかけた。塚の表情と感情は百八十度変わり、確かに、と真顔で低い声でうなると、




「環境会社に依頼があった、ということを失念していました。わたしはまだまだ、この会社の一員であるということを忘れて思考する癖があるようです」




 としょんぼり落ち込んでしまった。仁楠は飛び上がるように驚いてしまい、




「ゴメン言いすぎたね? そうじゃないんだ、前提を疑う柔軟さは見習いたいだ! ぼくはもうすっかり組織の人間だからさ!」




 と精いっぱいフォローした。




「で、いいですか。話を進めても」




 和井得は咳ばらいをして、塚にもう一度地図を見せた。




「主任の言う通りです。いいですか。ぼくたちに依頼をしてきたのは教師陣です。そして教師陣が言うには、生徒から、ぼくたちハンブルク研究所を呼び出せ、と言われたようです。教師陣はその生徒たちの要求に従いつつ、同時に、生徒たちの説得を求めています」


「説得、って。わたしたちは校庭を広げることはできませんよ」


「逆ですよ」




 もう一度、学校の周りの環境を見て、と和井得は、地図アプリの表示を、航空写真に切りかえた。




「西側は住宅街、東側は昭和記念公園。こんな状態じゃ、校庭は広げられない」


「はい。だから、逆とはいったい」


「生徒たちは、この昭和記念公園を一部校庭として吸収して、グラウンドとして再開発するよう要求してきた」




 仁楠は腕を組んで天井を見つめた。塚は口をあんぐり開けた。




「繰り返します。教師陣からは、ぼくらに生徒の説得を求められています。もう、分かりますね。警察みたいなことは求められていない。むしろ逆、いつも通りです」




 小学生を説き伏せるんです。自然を守ることの重要さを説くんです。公園を吸収するなんて何事だ、と。自然をなんだと思っているんだ、と。環境破壊なんてやめろ、と。




和井得は最後に、なんて仕事だよ、と悪態をついた。

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