第一章 小学生≠大人 14
十四
「そこまで分かっているなら、降江先生の無罪くらい証明できるでしょう」
「この事実を突きつけられたのは今朝でした。その時点でできたのは、降江先生に事情を聞くことくらい。それらを証明しようにも、一か月前の話で、今すぐに用意できるものではありませんでした。
わたしたちにできたのは、彼らの要求通り、あなた方をお呼びすることだけでした」
とはいえ、と押照はつづける。
「わたしたちもただ黙っているだけではありません」
押照は隠すように、スマートフォンの画面を見せてきた。
「あ、この人は」
「はい。立川市の議員で、このボルドー小学校との関係も浅からぬ方です。この方を通じて、先に立川市に、記念公園との合併なんてバカげたことはしないよう、連絡をするつもりです」
「わたしたちが彼らを説得できない前提みたいじゃないですか!」
「いや、けっしてそういうわけでは」
塚、と和井得がたしなめたが、和井得も、あまりいい気はしていないようだった。
「お気を悪くされたようで申し訳ありません。しかし、わたしどもとしても、あ、すみません。ちょうど連絡がきたようです」
本当かどうかは分からないが、押照は耳に電話をあてて、少し離れた。降江も手招かれそれについていったので、教室の前に三人残された形になった。
「主任、どうしますか」
「どうするも、警察を呼ぼうかなと思うけどね。彼らの熱意や行動力自体は感嘆するが、結果的に法に触れるようなことをしている。
犯罪をすれば、だれだってある程度夢を叶えられるさ。ズルをアリにしている彼らの夢を叶えるわけにはいかないよ」
「でも、そうすると、ぼくらの行動で彼らを刺激して、さらに暴れだすことにつながるかもしれませんよ」
「うん。そうすると、校長先生の考えているプランBに乗っかるのが穏便かもしれないね。いったん彼らの思い通りにして、古里織先生を開放して、その後は、彼らの思い通りには立川市は、いや、大人は動かない、と分かって、諦めてもらう」
じゃあ、君たちの考えは悪い案じゃないよ、とか上手く褒めて、ぼくらは無関与を決め込みますか、それがいいだろうなぁ、と二人は話していたが、塚だけは、 夢かぁ、と、夢という単語に反応していた。
「どうした塚さん。ごめんだけどね、いくら彼らが、これは夢なんです、って主張しても、あれを叶えるのに協力はできないよ」
「それはそうです。ただ、小学生から、これは夢です、って断言できるのは、ちょっとかっこいいなぁ、って」
和井得は少しにやつきながら、
「どうしたどうした。自分は大人にもなって夢はないのにな、なんてセンチメンタルな話かい?」
「ありますよちゃんと!」
塚は少し大きな声で返した。仁楠は時計を見た。大道くんが言った十五分の休憩まで、まだ少し時間があった。この話の流れで、うまく塚の話、とくに生い立ちを聞き出すことができれば、塚の出生の秘密や、黒根との関係がクリアになるかもしれないな、と思った。
「その塚さんの夢っていうのは、小学生のころからのもの?」
「どんな夢、って直接いきなり聞かないのは、主任の優しさですね。そういうの好きですよ」
えーっとですね、と塚も少し口ごもり、和井得もまんざらでもない興味を示していた。
「わたし、父に会うのが夢なんです」