004
地上十七階、ここには機械がたくさん置かれた部屋があった。
黒いジャンパーを着替えた俺は、じっと見ていた。
ここは、研究所。開発を行なう場所。
機械が置かれた部屋に入った俺は、一人の白衣を着た女に出迎えられた。
黄緑のボブショートに、眼鏡。
眼鏡はかけているけど、どこか幼さが見える顔。
灰色のハーフパンツを履いていた白衣の女は、腰に手を当てて待ち構えていた。
白衣の女は、手にストップウォッチを持っていた。
「遅くない?」眼鏡をかけて、白衣の女が俺を睨んでいた。
「呼び出して、3:32だろ。
二十二階階の男子更衣室からだと、適正な時間だ」
「そうかしら?修成の足が、遅くなったんじゃない?」
白衣を着た女が、俺の体をジロジロと見ていた。
彼女の名前は廻沢 結愛。このラボの室長。
だけど、余り偉そうでは無くどちらかというよ陽気な少女という雰囲気だ。
「番号『8929314847』、さてあなたはこの数字をみてどう思う?」
「マートナンバーか」
「そう、あなたのブラックナンバー。
人を唯一殺すことが出来る、マートに認められた仕事。
数字の色は、マートの認めた証。レッドナンバーも、ブラックナンバーも」
「一般常識を話したいために、俺を呼んだのか?」
「そうじゃないよ」
廻沢が、なぜかウィンクをして見せた。
「俺は暇じゃ無いんだけど」
「最近、番号詐欺師が現れているの……知っている?」
「ああ、今朝の朝礼でジョンストンから聞いた。
手配された写真も、俺は持っている」
そう言ってスマホを操作して見せたのは、一人の男の写真だ。
少し日焼けした肌、ボサボサの髪。
特徴は、この細長い目と低い鼻。
老けた中年の男が、スマホの写真の中にいた。
「名前は『名倉 昭』。
番号は『284839405681』、勿論レッドナンバー。
だが、今の彼はレッドナンバーではない。
番号を詐称して、通常ナンバーに成りすまして生きている。
神であるマートは危険と判断し、彼を追いかけている」
「でも、全知全能の神マートは見つけられない」
「そのために、人間のブラックナンバーがいるんだろ」
俺はスマホをタッチし、画面を消した。
「確かにね。全自動でマートが粛正出来ない人間を、ブラックナンバーが代わりに始末する。
それが、マート庁職員である君たちの訳だ」
「何が目的だ?」
「うーん、もしさ……番号を詐称できるとしたらどう思う?」
「すぐにレッドナンバーになる。
マートの目はどこにでもあり、マートはアールの全てを理解している。
赤くなったら、俺はお前を始末するのが仕事だ」
「えー、始末するの?」
目を潤ませて、助けを懇願する廻沢。
だけど、俺はそっぽを向いていた。
「俺に、もう一度知り合いを粛正させるな」
「分かっているって、あたしもバカじゃないし。
レッドには、絶対になりたくないから」
「じゃあ、番号詐称なんかやめろ」
「でも、研究としては面白いと思うんだよね。
彼……名倉はやり方が下手だからレッドになったし。
マートが認めた危険人物、人類の敵……害敵。だけど魅力的だよね」
「お前、もしかして……」
「興味あるんだ、てへっ」
かわいい仕草を見せた、廻沢。
「大丈夫、今度の実験が成功すれば……マートにバレずに番号の詐称が出来ると思うよ」
それと同時に、ラボの後ろの方から一人の人間が姿を見せた。
「お待たせしました、廻沢先輩」
そこには、気弱な白衣を着た一人の男性が姿を見せていた。